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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
117/131

117話 英雄への片鱗 ―シンゴ・ヒラモト―

皆様こんばんわ。

ここまで連投させて頂いたと思いますので、前回までを読んでいない方は良かったら114話から読んでください。

 坑道内で起こった乱戦。

 応援に来た冒険者達の協力で収束するかと思われたが……。


 「kyiiiiiiii!?」


 何匹かデンシグリロタルピが悲鳴を上げていた。

 冒険者が倒したときの断末魔ではない。

 奥から響く何匹もの声。

 虫のような薄くて堅い甲殻を噛み千切って中身を食べる音。

 シンゴ達の前に姿を現したのは…別の種類のモンスターだった。


 「あれは?」


 「ゲッコソロセクタだ」


 ベテラン冒険者がデンシグリロタルピを倒しながら注視していた。


 「あんな奴もいるのか」


 「見ての通り移動するときは虫と同じように地べたを這い蹲っているが両手の爪で攻撃してくる。

見境なく襲ってくるから迎撃しろよ!」


 ヤモリのような見た目だが足は腹の脇にも一本ずつ生えている。

 それに背丈も人間の平均以上に高く全長は二メートルにもなる。

 手の指を閉じることで土を掻き分けるシャベルにもなり、デンシグリロタルピと同じように土の中でも生活と言う。

 ゲッコソロセクタもまた数が多く、目先のデンシグリロタルピを貪る個体が多い中でシンゴ達に目を付けた個体もいた。

 そいつらは舌なめずりしながら地面を這うように接近。

 シンゴは【フォーチュンダイアグラム】で可能性を探った。

 一撃で倒したいと思いながら相手の接近に合わせて上段で振り下ろした時、中段で斬ろうとした時、下段で突こうとした時。

 だが、相手はシンゴの動きに合わせて攻撃を避けながら爪による攻撃で足を狙ってきた。

 そんな光景ばかりが見えた。

 その場を動かなければ足を狙われ最悪動けないところを食べられてしまう。

 地に足を着けた状態で避けながら攻撃を仕掛けようにも相手の動きが早く、回避の一動作のあとに出来る隙を狙われてしまう。

 都合の良い展開を中々見つけられず、焦るシンゴ。

 幸い【フォーチュンダイアグラム】を使っている間は外の時間の流れはかなり遅い。

 一瞬の間と言えるかもしれないが、体力を消耗しながら幾つかの分岐パターンしか見られないために一度切り上げるしかなかったが…。


 「これでやるしかないな!」


 シンゴは最後の可能性を見出して行動に移した。

 地面を這うゲッコソロセクタがシンゴに接近。

 シンゴもまた一匹に向かって走り出した。

 そのまま突っ込めばゲッコソロセクタの餌食になるがお互いの距離があと三歩のところでゲッコソロセクタの視界からシンゴが消えた。

 一瞬動きを止めるも次の瞬間には真っ二つになっていた。

 斬られた理由は単純。

 ゲッコソロセクタの上を飛びながらジャクバウンを振ったシンゴがいたから。

 だがシンゴの着地を狙う三匹のゲッコソロセクタ達が群がり始めた。


 「面倒な奴ら!」


 シンゴはジャクバウンの向きを変えて剣先で地面を叩いて無理やり滞空時間を得た。

 それに気づいた三匹は上半身を持ち上げて空中にいるシンゴを串刺しにしようと爪を束ねて突き出した。


 「舐めるな!」


 ジャクバウンに青いオーラを纏わせ、ゲッコソロセクタ達の手を全て斬り落とした。

 更にジャクバウンを回して相手の胴体もまた両断して着地しようとしたが背中から落ちて格好がつかなかった。


 「あークソッ!」


 直ぐに立ち上がって次の相手に向かった。

 ジェーンとエディックは距離を取りながら弓矢を放ってモンスター達の動きを牽制。

 キャメロは臨機応変に剣戟と攻撃魔法を使い分けながら着実に撃破していた。

 他の冒険者もまた一部負傷しながらも互いに連携しながら外へ出さないように倒していた。

 デンシグリロタルピもゲッコソロセクタも似たような動きをしているため一見倒しづらいが、攻撃パターンが似ているためにシンゴ達でも対応できたことで全体の数を減らせていた。


 「もうひと踏ん張りだ!気張れよ!」


 ベテラン冒険者の鼓舞に殆どの冒険者達が声を上げた。

 その威勢にモンスター達も怖気付き、勢いは冒険者側にあった。

 誰もが勝てる、そう思った時。

 再び地響きが訪れた。


 「なんだ!?」


 「やばいぞこれ!?」


 「撤退しろ!?」


 崩れて生き埋めになっては元も子もない。

 最低限、直接対峙していた冒険者は目の前の敵を倒してからその場を離れた。

 シンゴ達も同じように背後からの追撃に注意しつつその場を脱した。

 デンシグリロタルピやゲッコソロセクタも同じように危険を察知したのか冒険者達と同じように逃げ回った。

 目の前に捕食できる相手がいても逃げることを第一にしているモンスター。

 この様子にメイディスは違和感を持った。


 「これは…きゃっ!?」


 「抱えるから動くなよ!」


 ローディーが肩に抱えて運ぶようだ。

 運び方は雑だがその気遣いが嬉しいメイディスだった。

 そして冒険者達が外へ出た直後、坑道の奥から何かが迫ってきた。


 「おい、本番はこれからだぞ!」


 散り散りに逃げるモンスターの一部は冒険者や行動の近くに居た兵士や作業員達を襲い始めたので冒険者達はそちらも対処し始めたが

面倒は更にやってきた。


 「shrrrrrrr!!」


 それは顔を出した。

 巨大なヘビ。

 (かつ)てイゥプレコンソロと言う名が付けられているがそれを知る者はここにはいない。

 耳の部分は魚の(ひれ)のような形をしていた。

 体表の模様は茶色に赤の斑を持っていた。

 直径が坑道の半分近くを占める大きさなだけに全長がどれくらいかこの時のシンゴ達には想像できなかった。


 「なんだあれは!?」


 「初めて見るぞ!」


 「食われる前に離れるしかないだろう!」


 怒号が交わされ、兵士達が作業員達を逃がし始めた。

 冒険者達は一部の外に出たモンスター達の対処で精一杯。

 残りのモンスターは逃げているのが大半だが逃げ遅れたモンスターはイゥプレコンソロによって一口で食べられてしまったようだ。

 口の中は頑丈なようで獲物を巻き取る舌もまた柔軟でありながらゲッコソロセクタの爪程度では傷付かないようだ。

 エディックが弓矢で牽制する中、シンゴ達は近くによって周囲を警戒した。


 「こういう時はお前の出番だな!」


 ローディーの言葉に全員頷き、シンゴも自覚していた。


 「それはいいが、意外と動きが速いから頭を狙うのは難しいな。」


 「先に胴体を切断すれば良いんじゃないか?」


 グレアムの言葉に全員得心するものの


 「それだと坑道が塞がっちゃうんじゃないの?」


 キャロルの心配も尤もだろう。


 「このまま外へ出たら被害は広がっちゃうし……。」


 ジェーンが見つめる方向は坑道を作るために設立された街ピオニルタウンがある。

 そこには人が住んでおり、大分距離はあるものの直線状には王都もまたある。

 イゥプレコンソロを野放しにすれば国中を暴れまわって被害が大きくなるのは目に見えている。

 この場に居る大半がそれを理解しているのは言うまでもない。


 「それなら出た瞬間に斬るとか?」


 「シンゴが出来るなら構わないんじゃないのか?」


 シンゴの提案にローディーは同意するものの


 「足止めも考えた方が良いと思います。」


 メイディスの提案は尤もだった。

 彼らは打ち合わせをした直後、イゥプレコンソロの体が完全に外へ出た。


 「嘘だろ!?」


 何時の間にか全身を現したことに慌てるシンゴ達だが敵は待ってくれない。

 そしてシンゴ達に襲い掛かってきた。

 巨大なヘビの顔が迫るも全員その場を離れることに成功したが、シンゴは反対側に味方がいることで直ぐに攻撃出来なかった。

 シンゴの傍にいるのはジェーンとキャロルとグレアム。

 反対側にはローディー、メイディス、エディック。

 グレアムとローディーは通り過ぎる相手の横腹に剣で斬り付けるが斬れるどころか弾かれる始末。


 「硬いぞ!」


 「まるで伝え聞く竜の鱗みたいだな!」


 ローディーは逆に興奮している様だ。


 「ある程度引きつけたら回避に専念しろ!そのまま突っ立ってたら食われる!」


 シンゴは大声で指示してそれぞれの役割に就かせた。


 「ファイアウォール!」


 キャロルが自身から少し離れた場所に火の壁を発生させた。

 従来の使い方は相手の攻撃を防ぐことに使う魔法の一つ。

 勿論質量のある相手は無理やり突破される場合もありその場合は意味をなさなかったりと全てを防げるわけじゃない。

 実際にこの場で使ったキャロルも半信半疑だった。

 そのキャロルは通常よりも多くの魔力を消費して通常よりも大きな火の壁へと作り替えた。


 「運ぶぞ!」


 疲弊する彼女を抱えたのはグレアム、彼らの護衛をするのはジェーン。

 既に彼は剣を仕舞って盾を背中に吊るしていた、完全に運ぶことに注力する様だ。

 一方、イゥプレコンソロが過ぎ去ったことでローディー達もシンゴ達の位置を知ることが出来た。

 ローディーとメイディスはその場から離れ、エディックは動きながらも火の壁に向かって矢を放ち続けた。

 火の壁を通った矢は燃えながら近くの地面に刺さった。

 それが何本も作り上げるが傍から見れば何をしているのかさっぱりだ。

 他の冒険者達も感じたが、残りのモンスター達に注意を向けることで精一杯だった。

 その直後、イゥプレコンソロは冒険者達が周辺にいる中燃え続ける火の壁や燃えている矢に向かって突っ込んできた。


 「はぁ!?」


 一部の冒険者はその光景を見て驚いていた。

 更に驚くべきは火の壁の向こう側に冒険者が一人立っていること。

 言わずもがなシンゴである。


 「正面に来てくれればこっちのものだ!」


 空に構えたジャクバウンに青いオーラを纏わせた。

 火の壁に突っ込む数秒前。

 青いオーラは天高く伸び続けた。


 「全員避けろー!」


 グレアムの声に他の冒険者は出来るだけその場から離れた。

 そして

 イゥプレコンソロの頭が日の壁を食らったと同時に

 天へと伸びた青いオーラの刀身が正面から振り下ろされた。



 一刀両断!



 避けることもしなかったイゥプレコンソロが勢いのまま口の先から左右へ切断され、シンゴを避けるように通り過ぎて行った。

 何秒も経ってから肉壁が全て左右へ倒れ込み、シンゴが姿を現した。

 丁度尻尾まで切断すると青いオーラの刀身は消え、静寂が包んだ。

 シンゴの顔には大量の汗が流れていた。

 この分だと全身から流れているかもしれない。

 鞘に納めた直後、シンゴは膝から崩れ落ちた。


 「シンゴ!?」


 ジェーンが最初に駆けつけてシンゴの体を起こしたが意識がなかった。


 「シンゴ、大丈夫?大丈夫なら起きてよ!」


 声を掛けるが反応はない。

 仲間達も駆けつけ、メイディスがシンゴの息を確かめた。


 「呼吸はあるので生きていますが…もしかしたら魔力欠乏症かもしれません。」


 「なにそれ?」


 「魔法を使い過ぎると頭が痛くなったり喉が渇いたり人によって症状は違うらしいけど体調が悪くなるって言う意味では今がそうかも。」


 キャロルも経験があるのかジェーン達に説明した。


 「でも、シンゴは魔法なんて使ってないよ?」


 実は何度か魔法を覚えようとしたことがあったシンゴだが仲間達からの指導を経ても(つい)ぞ使えることはなかった。

 それは仲間内でなら知っていること。


 「多分、先程の攻撃が魔力を使っているのかもしれません。」


 当人も意識して使っている訳ではないから真偽は不明なものの、仲間達の間では共通認識となった。


 「この事は周囲へ言うべきじゃないな。」


 「そうですね。」


 ローディーの言葉にメイディスを始めとした面々は頷いた。

 そんな彼らを他所に他の冒険者達は残りのモンスター達を倒し、命がある事に喜んでいた。


 「今回は危なかったなぁ!」


 「死ぬかと思ったぜ!」


 「でもあいつは凄かったな」


 「噂以上だな」


 遠くで仲間に囲まれているシンゴを見て冒険者達はシンゴ達の凄さを目の当たりにしたことで彼等への評価はうなぎ上り。

 だが坑道内はイゥプレコンソロによって滅茶苦茶になっておりここ何十年の努力が無駄になってしまった。

 それによって兵士や作業員達は勿論冒険者達も浮かない顔になったがそれでも任務を忘れず全うする兵士達の指示によって各々動かざるを得なかった。

 その後、休憩を挟んで目を覚ましたシンゴと仲間達は事後処理を手伝いながら夜はピオニルタウンの一番大きな食堂で冒険者達や作業員達から称賛されるのであった。

 騒いで笑って生きていることを喜ぶために……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

シンゴ編は以上です、次回からは新章にする予定です……。

ここからまた暫くは更新に時間が掛かるのでご了承ください。




補足・蛇足

・シンゴには魔力はない

シンゴは異世界召喚された時点では魔力を一切持っていなかったけどダンジョンの奥で青い魔鉱石を食べ続けたことでオーラを宿すことに成功。本来であれば自殺行為であるもののシンゴの生きることや復讐心などへの執念によって為されたかもしれない。ただ、魔力からオーラへ変換することは可能だがオーラから魔力へ変換することは出来ないためシンゴは魔力を消費する魔法を使うことは出来ない。一方でジャクバウンに関してはシンゴに宿るオーラを消費することで全てを斬り裂くであろう伸縮自在の青いオーラを刀身へ纏える。魔法ではなくジャクバウンの能力であることや能力を十全に使えていない状態である。そもそも大半の冒険者などは無意識にオーラを発生させて全身に纏っているため一般的に技術として広まっていない(ムンドラ王国内)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近本作品を知り数日で一気に読み終えました。 傘のエピソードで主人公の優しい一面から復讐が甘いものになるかと危惧しましたが、全然そんなことは無くて、大変面白かったです。 次の更新まで間が空く…
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