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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
116/131

116話 大坑道の乱戦 ―シンゴ・ヒラモト―

連続で投稿していると思いますので前回まで見てない方達は114話から見てください。

 シンゴ達パーティーがムンドラ王国の一大事業で北の山脈の麓、ピオニルタウンに着いてから早数週間。

 彼らの一日のサイクルは午前中に兵士達と一緒に現場へ向かい、夕暮れまで作業員達の護衛をする。

 夜は各々好きなように過ごす。

 現場は山脈を掘り進めて坑道を作っているようでそれなりに進んでいるらしい。

 ただ、北の山脈と全貌を測量しきれていないこともありどれくらいで開通するかは見通しが立っていない。

 奥へ進めば暗く、いつ土砂が崩れるか分からない。

 そんな恐怖を抱きながらも作業員達は今日も掘り進んでいた。


 「相変わらずむさ苦しいわね……。」


 出入り口から最先端の真ん中くらいまでは縦でだいたい成人男性十人、横は二十人ほどの幅が保たれている。

 集団戦で武器を振り回しても壁や天井に当たることはそうそうないだろう。

 シンゴ達が警護している出入り口近くも作業員達が奥から土砂を運ぶためにひたすら往復していた。

 そんな彼らを横目にキャロルが小声で呟いた。


 「土と汗の匂いがきついわね。」


 傍にいるジェーンも鼻を摘まんで同意した。

 エディックもまた顔を引きつらせている。


 「声を上げていう訳にはいきません、彼らも仕事に邁進している訳ですし。」


 「それはまぁそうなんだけど……。」


 キャロルが目線を逸らして声を窄ませた。

 出入り口にはジェーン達以外のメンバーはおらず、他の冒険者達が五組いて残りは兵士と作業員達。

 坑道の奥へ進むとシンゴ達残りのメンバーや他の冒険者のパーティーが警護している。


 「こんなに大きく掘ると進んでいるように思えないな。」


 「実際そうだろう、王都から見てもでかく見えるんだ。山の大きさ何て把握できてないんだから相当大きいだろう。」


 ローディーとグレアムの会話にメイディスが微笑む。


 「それでも多くの人達が協力してここまで進めたのですから凄いと思いますよ。」


 「確かに俺一人ならこんなに掘れねーな。」


 一方のシンゴは会話に混ざらず上の空。


 「シンゴ、大丈夫か?」


 「あ、ああ大丈夫だが。」


 「ここに来てからいつもと様子が違う気がするが。」


 「単に感慨深いなって思ってるだけだ。」


 「感慨深い?」


 「前に王城で話を聞いたが過去の偉人がこの山を渡って向こう側へ行ったんだろう?遠くに行こうと言うのが凄いと思って。」


 「出来るから偉人と称えられるんだろうな。」


 「違いないな。」


 心配するグレアムだがシンゴの言葉に納得したようだ。


 (ここの情報、というか知識と言うべきか。あの大賢者が残した日誌に書いてあったのかもしれないな。あいつはちゃんと読んでないから中途半端に引っ掛かるだけで何も分からない。もし憶えていれば向こうへの行き方が分かったのかもしれないのに。クソッ!)


 思い出せれば良いと思い、あちこちに視線を彷徨わせるが中途半端に引っ掛かる状態故に有益な情報にならずストレスが溜まるだけになっていた。

 そんな時。

 坑道が小さく揺れた。

 作業員達は勿論冒険者や兵士達もハッとなった。


 「これは!?」


 「全員落ち着け!」


 「周辺を警戒しろよ!」


 全体的に怒号が響いた。

 更に揺れが大きくなりパニックになった作業員達が作業道具をほったらかして逃げ始めた。


 「待てお前達!」


 兵士は呼び止めるが別の冒険者から声を掛けられた。


 「命の方が大事だろう!作業員達を誘導してやれよ!」


 「そ、そうだな!」


 兵士は他の兵士達にも伝えて直ぐに動いた。

 作業員達は殆ど逃げ出してしまったので残るは冒険者と兵士が何人か。


 「生き埋めになる前にずらかるぞ!」


 別のパーティーのベテラン男性の冒険者が声を上げた。


 「俺達も行くぞ!」


 それに倣ってシンゴ達も動いた。

 彼らが脱出する中、揺れは収まってきたが後方から悲鳴が聞こえ続けている。


 「モンスターの匂いがするな」


 ローディーは感じ取って後方を警戒、シンゴ達も後ろを気にしながら前方へ声を掛けた。


 「モンスターが出現した可能性あり!全員警戒しろ!」


 大声で伝えたことで前方を走っていた冒険者達も何時でも対処できるように警戒し始めた。

 後ろから地鳴りが響いた。


 「助けてくれー!」


 逃げ遅れた作業員の声。

 シンゴは助けるために駆け寄ろうか迷った時、作業員の背後からモンスターが姿を現した。


 「うわあああああ!?」


 背後の気配に気づいて振り向いた作業員は絶叫して涙した。

 そのモンスターはデンシグリロタルピ。

 螻蛄けらに近いモンスターだ。

 だが、通常の螻蛄と違い全長は一メートルから一.五メートルにもなる。

 脅威なのは平たく縁に幾つもの棘がついた前脚の土掻き、普段は土を掻き分けることに使われているが人を襲うときは武器になる。

 更に後ろ脚はかなり太いために二足歩行も可能としており、二本の中足で獲物を掴んで食べることも可能である。

 そんなデンシグリロタルピに中足で固定されてしまった作業員は二本の前脚で頭を叩かれ絶命した。

 捕まえた獲物を食べるデンシグリロタルピにシンゴ達は逃げようとしたが奥から次々と六足歩行をするデンシグリロタルピの群れが向かってきた。


 「デンシグリロタルピの群れだ!迎撃する!」


 ローディー、グレアム、メイディスは気を引き締めてシンゴと覚悟を決めた。


 「お前らも逃げろ!出入り口にも冒険者や兵士達がいるんだ!」


 「もう間に合わない!ここで数を減らす!」


 「バカ野郎が!くそっ、応援を呼んで直ぐに駆けつけてやるからな!」


 シンゴ達よりも前にいた冒険者達は応援を呼ぶためにそのまま離脱、シンゴ達は少人数での迎撃戦に挑んだ。


 「悪い。」


 「どの道途中で追いつかれているから気にするな。」


 シンゴに気遣うグレアムはメイディスを守るために盾を構えた。


 「さっさとやるぞ!」


 「ああ!」


 ローディーが先に仕掛け、シンゴが追随した。

 坑道は十分な広さを確保しているため、二人が武器を振り回してもそうそう壁や天井にぶつける心配はなかった。

 一番前に出ていたデンシグリロタルピは食べることに夢中だったのかローディーの接近に気づかなかった。

 彼らがすれ違いにデンシグリロタルピの頭は身体から落ち、胴体はそのまま前方に倒れた。

 その数十メートル後方は集団で向かってくるデンシグリロタルピ達。

 シンゴはジャクバウンを相手の首くらいの高さと水平に構えた。


 「飛べ!」


 「!」


 ローディーは走りながら軽く飛んだ。

 その直後にジャクバウンに青いオーラが纏わり、一気に前方に向けて伸びた。

 瞬間的に伸びた青いオーラはデンシグリロタルピ達を次々に両断した。

 シンゴはそのままジャクバウンを右から左へ動かし、広がって走る相手もまた次々に両断された。

 それでもギリギリで察知して逃れた個体もいるようでそれらは驚くこともなくローディーと会敵した。


 「数が減ればこっちのものだ!」


 ローディーが肉切り包丁で斬ろうとしたが土掻きで防がれた。

 強度は強いらしく表面に攻撃による傷はついていない。


 「硬い!」


 もう片方の肉切り包丁で仕掛けるも同じように防がれてしまった。

 デンシグリロタルピは立ち上がりながら土掻きで肉切り包丁を上に持ち上げてローディーと距離を詰めようとした。


 「こいつ!」


 ローディーは急いでバックステップを踏んで鍔迫り合いを切り上げた。

 恐らくローディーを掴んで逃がさないようにしたかったのだろう。

 犠牲になった作業員の最期を思い出したローディーは舌打ちをして距離をとった。

 追いついたシンゴは別のデンシグリロタルピと対峙していたが能力【フォーチュンダイアグラム】を使って

自身が攻撃を仕掛けた時のパターンを見て最善を選んだ。

 六足歩行の相手に対して水平にしたジャクバウンの突きで頭を狙った。

 それに対して土掻きを合わせた状態で突きを防いだ。

 そこから上に弾いて一瞬の隙を作ろうとしたデンシグリロタルピ。

 しかし、シンゴはその動きに合わせて相手の真上に飛んだ。


 「分かってるんだよ!」


 シンゴはジャクバウンを土掻きの上で滑らせながら真上に来た瞬間に相手の首へ突き立てた。


 「!?」


 デンシグリロタルピの首は切断されても体の方はジタバタしていたがやがて動かなくなった。

 それを横目で見たローディーは口角を上げながら対峙しているデンシグリロタルピに再び仕掛けた。

 両手の肉切り包丁を同時に振り下ろしたタイミングで相手もまた両の土掻きで防ぐ体勢になった。


 「同じだと思うな!」


 肉切り包丁の軌道は土掻きの表面ではなくそれを支えている関節部だった。

 細かい挙動にもかかわらず正確にそこを斬り裂きデンシグリロタルピが初めて鳴いた。


 「kyiiiiiiiiii!?」


 動揺して攻撃手段を無くした相手にローディーの肉切り包丁は斬り返しにそれぞれ顔面と腹を裂いた。

 脳にまで達したのかこの相手もまた後ろへ倒れて動かなくなった。

 コツや相手の癖を掴んだ二人は次々にデンシグリロタルピを捌き斬った。

 それは最早作業と他ならない。

 勿論、数はまだ多いために何時まで持つかは分からないが。

 グレアムもまた近づくデンシグリロタルピを盾で弾いてメイディスを守り続けていた。


 「なんでこいつらが湧きやがったんだ?」


 グレアムも隙を見て相手を斬り倒しているが暗い坑道での戦闘は外で戦うよりも精神的にも厳しいだろう。


 「様子を見る限り、全体としては何かから逃げている…ようにも見えなくはないです。」


 実はグレアム達を襲う個体もいるが横を通り抜けても背後から襲う個体はいなかった。

 シンゴやローディーの場合は自身が向かって注意を引いていることで襲わせている、と受け取れなくもなかった。

 全体を見回しているメイディスだから感じたこと。


 「もしかしたら奥から別の奴が出てくるとか?」


 「可能性はあります。」


 そうして彼らが捌き続けると出入り口の方面から声が聞こえた。


 「シンゴー!」


 ジェーンの声だ。

 仲間以外にも冒険者達が応援に駆け付けたようだ。


 「遅くなった!」


 「まだ余裕だな!」


 ローディーの強気な発言に応援に来た冒険者達は呆れていたがすぐさま残りの敵を対処し始めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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