115話 ピオニルタウン ―シンゴ・ヒラモト―
続けて話を投稿していると思いますので
前回の話を読んでいない方は114話から読んでみてください。
シンゴ達が王都の依頼を正式に受けるため、ミールドで旅支度をしてから行商人の護衛の依頼を引き受けて旅立った。
道中はモンスターに襲われることもあったが実力を身に着け、連携も取れる彼らにとってよく見かけるモンスターは敵にならなかったようだ。
行商人も彼らの話を知っていただけに安心して任せていたのは言うまでもない。
旅の疲れ以外で苦労することもなく彼らは無事にムンドラ王国の王都へ辿り着いた。
都の建物は基本的に壁が石積みで屋根は木造になっているのが特徴。
高さがある建物であれば一階部分が石積みで二階以上は木造になっていた。
また都の大半の道が整備されているのか大きく平らな石が並べられており、歩きやすくなっていた。
人口はフレイメス帝国の帝都ほどではないが只人を中心に東の国ゴルダ連合国出身の獣人達も往来していた。
シンゴ達は行商人と都の出入り口で別れてから徒歩で王城へ向かった。
「あ、このアクセサリーとか可愛い!」
「そうだけど…ちょっと高いわね。」
ジェーンとキャロルは通りに並んでいる出店のアクセサリー類を見て感想を言い合っていた。
「お前は良いのか?」
ローディーがメイディスに声を掛けるも彼女は二人を眺めているだけ。
「いえ、私にはこれがあるから。」
首元にあるネックレスを取り出してローディーに見せた。
それは小さなエメラルドのような宝石を木材の台に嵌めて糸を通してある。
微笑む彼女にローディーは少し照れているようだ。
「女は光り物を沢山欲するって聞くがな。」
「全員ではありませんよ、私はあなたがくれたこれが一番のお気に入りですから。」
「そうかよ……」
そっぽを向くローディーの様子を見るグレアムとエディック。
「あいつはちゃんと気遣い出来ているんだな。」
「意外ですよね、それだけ彼女のことが大事なのでしょう。」
温かい目で見る彼らにローディーは聞こえたのか
「お前ら聞こえてるぞ!」
と怒鳴る始末。
メイディスは彼のそれが照れ隠しだと解っているのかフフッと微笑むのだった。
それから一行は一度王城へ続く大門の前まで来た。
「俺達は北の山脈の護衛依頼で来た。何時頃会えるか確認してくれ。」
シンゴは冒険者ギルドを経由して貰った手紙を見せると門番の一人が王城へ姿を消し、暫くすると戻ってきた。
明日の日中にまた訪れよ、と言われたことでシンゴ達は引き返して王都内の宿で一晩過ごすことになった。
シンゴ達は今までの功績を認められて最高等級である青の等級を持っているがそんな彼等でもその日の内に王城で泊まることは出来ないらしい。
彼らも冒険者ギルド経由で大まかな到着を連絡していたがあくまで行くと言うことを示しているだけで到着してその日の内に王様や宰相に会えるわけではないらしい。
単純に彼らも忙しくて予定があるからだろう。
もっとも火急の用事や高い地位を持っていたり役職付きであればまた対応も違うらしいが少なくとも位の低い貴族や最高等級を持つ冒険者はその限りではない。
シンゴ達もそれは理解しており特に怒ることもなく普段通りに宿で過ごした。
翌日。
シンゴ達は明るい時間帯に再び王城を訪れ、ムンドラ王国の国王や宰相達と謁見の間で邂逅した。
邪神の徒を討伐したときにも訪れていたため、彼らに以前ほどの緊張はなく今回の目的である依頼の話が進んだ。
「冒険者シンゴとその一行は北の山脈の麓へ赴き、事業関係者の護衛任務を果たすこと。任期は八月、報酬は金貨4200枚。なお、禁則事項は別紙に記載している。」
どうしてムンドラ王国の北側に連なる山脈の探鉱を一大事業として力を入れているのか?
新たな資源の採掘、北の山脈を越えた場所への開通である。
金属系の資源はムンドラ王国やステア王国が採掘しているが他の国々はそれらの国に比べて量が少ない。
そのため自国内での採掘を目指す必要があると言う。
山脈を越えるルートの開拓に関しては何処の国も治めていなければムンドラ王国の領地に、既に人が治めているのであれば新たな国交を開いて友好を気づいて物資や文化を取り入れること。
そんな王族達の話であるが、市井の人々の間では山脈の向こう側にまだ見ぬ土地があると言うのは幻想と思われているようだ。
しかし、王族達は実際にあると信じて疑っておらず兵士や作業員達は王族の道楽と思いながらも従事している。
今回のシンゴ達は勿論、今までの護衛任務で語られている根拠が過去に北の山脈を越えて戻って来たと言う英雄ジャックの話。
また英雄ジャックの仲間の一人が残した手記が手元にあると言う。
ただ、当時持ち帰ったと言う品々は手元に残っていないようで国王達はそれを残念がっていた。
それらの話を今までの冒険者達は聞かされていたが彼らはその話にあまり興味がなかったため聞き流していた。
そして今回のシンゴ達も一部を除いて話半分に聞いていた。
最後に国王から激励の言葉を送られてから話が終わった。
「偉い奴らの話はなげーな。」
「そんなことを言うものではありませんよ。」
飽き飽きするローディーにメイディスが窘める光景もシンゴ達には見慣れたものになっていた。
彼らが王城を出て兵士達に見送られながら、門の外で準備されていた幌付きの馬車へ直ぐに乗って王都を発った。
「よく利用する馬車と変わらないね。」
「あたし達は冒険者よ?貴族が乗る馬車に乗れるわけないじゃないの。それに豪奢な馬車に乗っていたら盗賊達に襲われかねないし。」
「あー確かに!」
キャロルの言葉にジェーンは納得しながら揺られる馬車の中でシンゴに寄りかかり、仲間達と会話に花を咲かせるのであった。
王都を発ってから約二月ほど。
直線距離で言えば一月ほどで着きそうだが、地形の問題で遠回りした結果であった。
北の山脈とムンドラ王国の王都の間は小さな山が幾つも点在しているため、馬車では迂回するのが常である。
森や川を通り抜けると石壁に囲まれた街が見えてきた。
街の検問所を通った先はミールドほどではないが、多くの人々の往来が広がっていた。
人通りの少ないところで幌付きの馬車が止まるとシンゴ達は外へ出た。
「ここが……。」
初めてくる場所だが目立つような特徴は見当たらない。
「ここが開拓事業の要になっている拠点の街、ピオニルタウンです。簡単にですが街の案内をさせていただきます。」
シンゴ達の傍で待ち受けていた兵士が彼らを連れて街の要所を回り始めた。
冒険者ギルド、兵舎、レストラン、武具店、雑貨屋など。
どこも規模は大きくはなく、シンゴ達も胸を躍らせることなく一通り見て回るだけで終わった。
その間、すれ違う人や雑談をしている人達はシンゴ達に注目をしておりその視線は好奇であり何かを測っているようにも見えた。
「皆様はここで活動する間、兵舎に泊まっていただきますので。」
そうしてこの日は兵舎で簡素なご飯を食べて夜を過ごすことになった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
基本的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




