114話 過去に見た新天地 ―シンゴ・ヒラモト―
皆様お待たせしました。
今回から数話はシンゴ・ヒラモトの物語です、ご了承ください。
何話か連投すると思いますがよろしくお願いします。
前回までのシンゴ・ヒラモトの物語
あらすじ
謎のおじいさんから貰ったアイテムを使って偶然出会った異世界の勇者である平本慎吾と魂を入れ替えて平本慎吾の体と能力を手にしたのがシンゴ・ヒラモト(元ポーラ)。彼は一人でも生き抜ける立場や力を手にしたことで住んでいた村とは違う方角へ進んだら冒険者のジェーンに出会い、彼女と二人でムンドラ王国で冒険者稼業に身を投じた。幾つかの町を経由してミールドで更に冒険者の活動を続けることでグレアムを始めとした仲間達が増えた。そして数年後、邪神が脅威を示す最中にシンゴ達は邪神の徒を一体倒すことに成功。その功績によって冒険者の中で最も位が高い青の等級を手にした。シンゴ達のパーティーはムンドラ王国も認める一流の冒険者集団になった。
主な登場人物
・シンゴ・ヒラモト:伝説の剣『ジャクバウン』を持つ青年、【フォーチュンダイアグラム】という異世界の勇者に発現する能力を持っている。
・ジェーン:シンゴが最初に出会った女性冒険者。シンゴに冒険者の事やこの世界の常識を教えた。
・グレアム:以前は別のパーティーを組んでいたが壊滅した時にシンゴ達に助けられた縁があり仲間になった、盾が主武装である。
・エディック:ハーフエルフの青年、弓術で戦う。
・キャロル:剣と火の魔法を使う女性。
・ローディー:狼獣人の男。肉切り包丁で戦う好戦的な性格。
・メイディス:マーフォーク(水中でも生活できる人型の種族)の女性。癒しの魔法や味方を守る魔法を使う。
※20231007 七文目と八文目の間に一文加筆しました。時間が遡っている表現です。
ムンドラ王国で冒険者のシンゴ・ヒラモトが邪神の徒を倒してから約四年後。
彼を筆頭にしたパーティーが一躍有名になり、国内で知らない人がいないまでになった。
そんな彼らは現在、ムンドラ王国の北方に広がる山脈にいた。
山脈の麓には何か所か拠点が建てられており、そのどれもがムンドラ王国の管轄下にある。
その拠点の目的はムンドラ国内の囚人達の収容及びある事業のための生活圏の確立にあった。
王都や隣国のゴルダ連合国から物流が築かれているため王都ほどではないにしろ活気づいていた。
更にゴルダ連合国側から人が入ってくるため、力仕事を始めとした労働面でもお互いに街を支え合っている。
暫く前に遡る。
ムンドラ王国、ミールドの街。
朝、シンゴ達が揃って依頼を受けようとしていた時のこと。
シンゴ達を見た受付嬢が声を掛けてカウンター脇で待つように声を掛けた。
「しばらくお待ちください。」
受付嬢は屋内の階段を昇ってしまった。
「何かやらかしたのか?」
オオカミ獣人のローディーがシンゴに対して呆れていた。
「俺よりローディーじゃないのか?」
「ぬかせ!」
二人は軽口を叩いているがここ数年ではよくある光景。
他の冒険者もいつものことだと思っているのか特に注目していなかった。
「朝から元気だな、お前達は。」
ハーフエルフのエディックは肩をすくめていた。
「飽きないよな。」
最初の頃よりも厚みのある金属製の鎧に身を包み、銀と青を基調にした大盾を担いでいるグレアムは距離を置いて見ていた。
ジェーン、キャロル、メイディスは彼らのやり取りを気にせず手持ちの消耗品の確認をしていた。
「皆様お待たせしました、ギルド長の元へご案内しますね。」
シンゴ達は会話を切り上げ、受付嬢を先頭に二階のギルド長の執務室へ移動した。
「すまんな、朝から。」
「いえ。」
眼鏡をかけた白髪交じりで四十代の男性がシンゴ達を出迎えた。
執務室に全員が入るもソファには全員座ることが出来ず、ギルド長を含め全員が立ったまま話をすることになった。
「先ずはこれを。」
ギルド長から渡されたのは一通の手紙。
月を模した青い蝋印はムンドラ王国の王家の証。
ナイフで封を開けてから中身を確認した。
「一応拒否も出来なくはないが……。」
ギルド長はシンゴ達の出方を窺っているように見えた。
シンゴは手紙を全員に見せた。
腑に落ちた者と理解できていない者に別れた。
キャロルとローディーにメイディスは合点がいった顔をしていた。
ジェーンとグレアムはよく理解できておらず、エディックは何かを思い出す素振り。
「ねぇ、これってどういうこと?」
ジェーンの言葉にキャロルが答えた。
「ムンドラ王国が北の大山脈を開通させる話は知ってる?」
「北の大山脈?開通?」
ジェーンはそれも含めて首をかしげていた。
グレアムも同調するように首を横に振った。
エディックは「聞き覚えがあるような……。」と曖昧な答えだった。
「ここら辺じゃ全然聞かない話なんだろうな。」
「そうか…その説明からか……。」
ギルド長は大きく息を吐いてから分からない人達に向けて説明した。
「先ずムンドラ王国は東側にゴルダ連合国、南側にフレイメス帝国、西側にステア王国、南西側にサンデル王国と隣接している訳だが北側一面は他の山に比べて遥かに大きい山脈が連なっている。それもステア王国へ続いてるほどだ。ここからでは森が邪魔で見えずらいが森を抜けるかフレイメス帝国の国境にある検問所あたりまで行けば見えるだろう。その大山脈だが普通に山を越えようとすると強大なモンスターに遭遇して命を落とすことが殆どだ。過去にムンドラ王国が騎士団で踏破を目指そうとしたが甚大な被害を受けたことで断念。次にトンネルを掘ることでモンスターとの遭遇を出来るだけ避けることが出来ると考えて現在は向こう側への開通を進めている最中だ。」
その説明を聞いてジェーンやグレアム、エディックは理解できたような顔になっていた。
ただシンゴだけは違っていた。
「悪いがそもそも向こう側を目指す理由ってなんだ?」
その質問に他の面々は大なり小なり驚いていた。
「お前、知らないのか?」
グレアムが聞くもシンゴは横へ首を振った。
そこへローディーが口を開いた。
「北の大山脈の向こう側と言えば嘗てこの大陸で名を馳せた英雄ジャックが青く巨大なドラゴンを倒したって言う伝説があるだろうが……。」
「ジャック……。」
シンゴはジャックの話を聞いて頭の中に思い浮かんだ知識に引っ掛かった。
彼の手元にある武器、ジャクバウンのこと。
これは生前の彼が扱っていた剣。
その剣の材料に倒した青い竜の一部が使われていること。
約二百年前に賢者に託して命を散らせたこと。
ジャクバウンはダンジョンの奥に封じられていた事、厳密に言えばオーガに守らせていたと言うのが正しい。
知識として思い出せる情報ではあるが実感は伴っていない。
ジャクバウンを手にするまでの苦労、オーガと命懸けで戦った情景、賢者の日誌が置かれた部屋などイメージとして思い出せることはないということ。
ただ浮かんだ文字を読み上げるだけ。
その感覚はシンゴ以外にこの場で分かる者はいない。
「シンゴ、身も蓋もない話だが向こう側には未知に場所が広がっているかもしれない。そこには我々の知らない物がたくさんあり、ムンドラ王国にとって大きな資源になる可能性があるからだ。」
「なるほど。」
政治的な面でも市場や流通の話等々利益を齎すかも知れない夢が向こう側にある。
だから北の大山脈の傍にあるムンドラ王国は積極的に大山脈の開通を狙っているということだ。
そして本題。
「君達にはその開通作業での護衛任務についてもらいたいと言う話だ。」
現場には主に騎士団と囚人が作業を進めているらしい。
その作業中にモンスターが襲うこともしばしばあるため、腕の立つ冒険者達にモンスターを対処して欲しいと言うのがムンドラ王国の依頼であった。
この護衛任務は定期的に他の冒険者達が受けているようで常に特定の冒険者だけが年中担当している話ではないと言う。
一方でこの仕事はムンドラ王国が認めた上位の冒険者達にしか依頼しておらず、理由は信用できるか否か。
下位の冒険者だと実力はなく、突発的な事故にも対処できないことが多い。
上位の冒険者であれば実力は勿論場数も踏んでいるため、強大なモンスターが現れたとしても被害を抑えることが出来ると考えられている。
ただ上位だからと言って性格に難ありだと現場を乱したり、甚大な被害を及ぼす可能性もあるので依頼を出すときは慎重に調査もしているらしい。
シンゴのパーティーはここまでに国が認める功績も上げており、冒険者の中では人格も問題なしと判断されたため護衛任務が依頼されたようだ。
これらの説明を受け、シンゴ達は任期や報酬を始めとした重要事項をギルド長に確認した。
その結果、彼らはこの依頼を受けることにしたようだ。
「国が直接関わっている公共事業に参加できる機会はないからな。」
意外と前向きなシンゴの意見にローディーやキャロルは驚いていたが彼らを含めて反対する人達もいなかった。
「君達が引き受けてくれて良かった。」
胸を撫で下ろすギルド長にローディーは茶化した。
「もし俺達が受けなかったらあんたの首が飛ぶとか?」
「まさか、そこまではないんだがな……。」
少しだけ不穏な雰囲気を出したギルド長にこれ以上は言わないようにした面々は必要事項を確認して執務室を去った。
一階は冒険者達はあまりおらず閑散としていた。
シンゴ達は掲示板の前で依頼表を眺めた。
「向かうのは数日後だから今日は実入りの良い依頼でも受けるか。」
そうしてシンゴ達は何時も通りの日常を過ごした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




