112話 帝都を去りし者達
本日もよろしくお願いします。
111話も投稿しました。
この話も後日談になるので飛ばしても大丈夫です。
(次の投稿は未定です)
ポーラが事件を起こしてから早数週間。
大きな騒ぎはなく帝都の治安も落ち着いていたころ。
マイルズは冒険者ギルドへ行くたびに色々言われていた。
「目を掛けた冒険者があんな事をするなんてなぁ!目でも曇ったか、マイルズ!?」
「どうだろうな?」
男性冒険者Aは茶化すように言ったがマイルズは適当に誤魔化した。
「あんたの時代は終わっているんだ、これからは俺達に任せなよ!」
「そうだな、皆には期待している。」
と息巻く若手の男性冒険者Bだったがマイルズの言葉に勢いを削がれ直ぐにその場を去った。
「恩知らずにもほどがあるわよ!依頼先で見つけたらここまで引っ張って来て謝らせてやるんだから!」
「先ずは君達が無事に帰ってくることを優先してくれ。それだけで国にとっても大事なことだからな。」
マイルズのお世話になった女性冒険者Aは憤慨していたがマイルズの言葉に頬を少し赤くしながら依頼書を受付に持って行った。
「マイルズさんは悪くない、いつだってそいつの問題だよ!」
「ありがとう。」
と布面積の少ない筋肉美を見せる女性冒険者Bは諭し、マイルズは優しくお礼を言った。
マイルズも悪く言ったり思う冒険者はいるものの、多くはマイルズを心配したり慮る人達だった。
ただ、ポーラに対しては殆どの冒険者が悪く思っていた。
ポーラの上げた功績は表に立たず悪事だけが広がったのだから当然であった。
「マイルズさん。」
マイルズに声を掛けたのはマティアスだった。
他にもマルテ達全員揃っていた。
「今日は指名依頼か?」
「いえ、フリーなので何か仕事しようかと降りてきたのですが……マイルズさん、少しお時間頂けますか?」
「あぁ、俺は構わないが。」
「ありがとうございます。済まない皆、今日は休みを取ってくれ。」
「それなら俺達は外へ行くかね。」
ゲルトが他のメンバーを外へ促した。
その中でマルテだけが残ると言ってマティアスの傍を離れなかった。
彼女の真剣な目を見てマティアスも受け入れ、マイルズを伴って自室へ戻った。
それぞれが椅子に座るとマティアスは話し始めた。
「先日、御爺様から聞いた話しなのですがマイルズさんには耳に入れて欲しくて。話の内容に関しては他言無用でお願いします。」
「分かった。」
マイルズも居住まいを正して耳を傾けた。
「ポーラが起こした事件ですが、彼女が手に掛けたのは間違いないようです。」
「そうか……。」
「ただ、その被害者達に関して調べたら既に亡くなっているベイグラッド侯爵に繋がったようです。」
「ベイグラッド侯爵……噂くらいしか耳にしていないがサンデル王国との戦争で投入された新兵器の研究と開発を担っていたとか?」
「その通りです。その侯爵が裏では他の貴族達を中心に暗殺をしていたと言う話しです。」
「それとポーラがどう繋がるんだ?」
「彼女は侯爵の被害にあった貴族の奴隷だったかもしれない、という事です。」
「…!?」
この情報にはマイルズは勿論マルテも驚きを隠せなかった。
「そしてポーラが手に掛けた二人もまたポーラと同じ奴隷だった可能性があります。」
「ポーラの体を見たことがあったけど奴隷紋なんてなかった……。」
「恐らく契約主が死んだら解除されるようにしたのだろう。その場合、描いた紋様も消える。」
マルテは以前の事を思い出していたが奴隷の契約には幾つか種類がある事もマティアスが付け加えた。
「それだけだとポーラが二人を殺した理由には繋がらないな。」
「そうですね。ただ二人の経歴にはベイグラッド侯爵の養子になっていたのでそこから推察されるのが件の二人が奴隷契約に引っ掛からない範囲でベイグラッド侯爵の企てに加担した。そう見ています。」
「つまりポーラは引き取ってもらった貴族を手に掛けたベイグラッド侯爵や裏切った二人を恨んでいた?」
「そうなりますね、だからベイグラッド侯爵の焼失も事故ではなく事件の可能性が……。」
ここまで話しを聞いていたマルテは苦しい気持ちになったのか俯いてしまった。
「だが良くそこまで分かったな?」
「実はポーラが残したと思われる手紙が現場に残っていたそうです。メッセージは一言だけでしたけどそれをきっかけに御爺様達は調べたそうです。それと帝都を騒がせた通り魔事件、覚えていますよね?」
「あぁ、俺達も駆けつけたからな。」
「その時に捕まえていただいた二人組が喋ってくれました。」
「はっ?何かぁ、その二人も実はベイグラッド侯爵に関わっていたって言うのかよ?」
「えぇ、取引によって得られた情報を元に進展したようです。」
「そのことをポーラは知っていたのか?」
「多分知らなかったと思いますけど……。それと捕まえた二人には知らせていませんが彼ら以外にも侯爵が従えていた組員はそれなりに居ると踏んで国内で捜索したら次々に捕縛されているようです。」
それを聞いてマイルズは何とも言えない表情になっていた。
「そんなことが進行しているなんてな。」
「侯爵の組員に関しては極秘で行っているようなので他の貴族も噂程度でしか知らないと思います。」
「そうか……。」
「ポーラは……最初から復讐の為にここへ来たんだ……。」
マルテの言葉にマティアスも目を伏せた。
「そうだな、騎士団への許可証を求めたのもそれが理由だろう。」
ポーラの復讐を知った彼らは何を言えば良いのか分からなくなっていた。
暫くの沈黙の後、マイルズは一つ思い出した。
「そう言えば前に服飾店から伝言を預かっていたんだ。」
「伝言?」
「マルテ宛てだったな。」
「私、ですか?」
「そうだ。『マティアスと幸せになる時、少しでも足しにしてください』って。」
「どういうことですか?」
「二人の事情を知っているのかは分からなかったが一般人や冒険者が挙式するのであれば街の居酒屋とか自宅でするのが通例だ。そのとき花嫁に特別なドレスを着せるものだ。だからいつか来る日の為にポーラがお世話になった服飾店でマルテのドレスを作ってもらうように頼んだって事だ。」
「「!?」」
マルテは勿論マティアスも驚いた。
「少なくともあの娘はお前達の幸せを願っていた。最後の事件は兎も角今までのことを振り返れば何時だって街の為、誰かの為に動いていたってことに違いはない。俺はポーラが無事に生き延びて欲しいと思っている、たとえ人の命を殺めたとしても……。」
今日も帝都は人々で賑わっており平和だった。
そんな喧騒とは裏腹に彼らの部屋は暫く静まり返るのであった。
ある日ある時。
フレイメス帝国とムンドラ王国の国境近辺。
国境を安全に超える街道に大きな検問所があり、双方から行き来する人達の行列で賑わっていた。
その列の中にはムンドラ王国の密偵であるアメディとフレイメス帝国から脱走した橘川明之もいた。
彼らは頭からローブを被っており下に来ている服装も町人のそれと変わらない。
人が多いために簡単に列は進まないようだ。
「フレイメス帝国とムンドラ王国って仲が良いんですか?」
橘川明之は小声でアメディに聞いた。
「まぁ友好国ではある、お互いに悪い印象は持っていないね。」
「俺って大丈夫ですか?パスポートとか身分証明書とか持ってないですよ?」
「そこはまぁどうにかなるから大丈夫ね。」
「それならいいんですけど。」
緊張や不安を抱える橘川明之は周囲を見回してしまうがアメディから注意を受けて視線を出来るだけ前に向け直していた。
そして彼らの番になる頃には大分日が傾いていたがアメディ達はすんなりと通れた。
「ここからがムンドラ王国……。」
「初めて?」
「いえ、来たことはあるんですけどちょっと新鮮だなって。」
「それなら是非とも楽しんでくださいね。」
無事に通り抜けたことで橘川明之の心に余裕が生まれて足取りも軽くなっていた。
アメディはそんな彼を見ながら彼の歩調に合わせて近くの町へ行くのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。
次の話は異界の勇者(中園利香)の予定です、ご了承ください。




