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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
11/131

11話 期待と現実の一部 ―異界の勇者達―

本日もよろしくお願いします。


※一部加筆修正しました。話に影響ありません。

 高校生達が異世界へ召喚されてからサンデル王国の王城で国を救うために力を貸して欲しいと言われた彼らの半数は不承不承ながらも新たな生活を受け入れ始めていた。

 一方で異世界へ召喚されて自らが活躍する話に盛り上がっていたのは武田康太、桑原健斗、鈴木隆利、そして平本慎吾だった。

 初日の夜に彼らはメイドに断りを入れて敷地の隅で話し合っていた。


 「水!」


 桑原健斗の(かざ)した掌から少量の水が出た。


 「うわっ!これ本当に魔法だ!」


 「くぅぅぅ!羨ましいな!」


 「確かに。」


 「良いなぁ。」


 魔法を使った桑原健斗が一番驚いており、武田康太、鈴木隆利、平本慎吾は魔法を使える彼を(うらや)ましがっていた。


 「てか、水って。雑だな!」


 「だって呪文とか知らないし。」


 「まぁそうだけどよ。」


 「だったらウォーターボールとか?」


 鈴木隆利の言葉に三人が「それだっ!」と反応した。


 「よし!行くぞ!」


 「「「ゴクッ!」」」


 武田康太、鈴木隆利、平本慎吾が見守る中、桑原健斗は再び右手を正面へ翳して意識を集中させた。


 「・・・。ウォー!タ―!ボォォォルゥ!」


 叫んだ途端、翳した手から人の頭と同じくらいの大きさの水球が現れて正面へ射出された。

 水球は反対側の壁の手前で失速して地面に落ちた。

 その距離はおよそ五百メートルだろうか。


 「おい、今の!」


 武田康太は茫然(ぼうぜん)とする桑原健斗の肩を揺らしながら一番興奮していた。


 「魔法だね。」


 「しかも定番のやつ。」


 鈴木隆利と平本慎吾も向こう側へ飛んで行った水球の跡を見つめていた。


 「「「「凄いな!」」」」


 四人はそれぞれ(はしゃ)いであれこれと言い始めていた。

 しかし、魔法を使った桑原健斗の膝は力が抜けて崩れ落ちた。


 「おい、大丈夫か!?」


 「なんか疲れてきたな。」


 「魔法を使ったから?」


 「魔力切れとか?」


 武田康太と鈴木隆利が桑原健斗の体を支えた。


 「誰か呼んでくる?」


 「いや、このまま部屋まで運んでくれ。」


 平本慎吾が呼びに行こうとしたら桑原健斗はこのまま運ぶように頼んだので彼らはゆっくりと部屋へ戻った。

 



 翌日、召喚されたクラスメイト達は世界と国について大まかな説明をされた後に外を何十周と走らされた。


 「だぁ、キツイわ!」


 「いきなり走らされるなんて。」


 「もう、ダメ・・・。」


 「最初の訓練って剣の素振りとか魔法の練習じゃないのか・・・。」


 武田康太や桑原健斗はもちろん、体の大きい鈴木隆利が地面に伏していた。

 平本慎吾が定番の展開を口にしたが彼らが最初にやらされたのは持久走だった。

 しかも具体的な距離が決まっていない、彼らにとってはある意味(たち)が悪かっただろう。

 彼らのように普段から運動をしていない面々は最初の二周が山場だったが、運動部に所属していた英雄人を始めとする人達は膝に手を突く程度で済んでいた。

 その日の夜は夕食を食べた彼らは特に話すこともなくベッドに包まった。

 



 翌日以降の訓練では持久走の距離は大幅に減り、武器の扱い方や魔法の使い方を教わるようになっていた。

 男子の大半は喜んでおり、武田康太達三人も例外ではなかった。


 「ずっと走らされるのかと思ったぜ。やっぱり剣で斬って魔法で攻撃したい!」


 武田康太は鈴木隆利や平本慎吾が持っている木剣を見ながら自身が握っている木製の小さなナイフに目を落とした。


 「俺は魔法だし隆利達は剣だから異世界ファンタジー感はあるな。」


 「確かに。」


 桑原健斗に続いて平本慎吾も自分の木剣を見せた。


 「武田君だって冒険者っぽい能力持ってるからいいんじゃないの。」


 鈴木隆利の(なぐさ)みに桑原健斗や平本慎吾が頷くも当人は納得できていないようだ。


 「冒険なら分かるけど、ここだと勇者的な能力の方が強いだろ?」


 「そこはチート能力に目覚めて逆転すればいいんだよ!」


 「チート能力。俺だったら一瞬で移動できるとか斬り刻めるとか?」


 彼らの話が盛り上がり始めた頃に武器の訓練が始まった。

 最初は楽しんでいたが同じ作業が続くと彼らの顔は退屈そうに見えた。

 それでも数日経てば最初よりは様になったようだ。

 桑原健斗は最初でこそ攻撃魔法『ウォーターボール』を五発撃って倒れそうになっていたが一週間もすれば倍は撃てるようになっていた。

 そして今日から兵士を相手にした模擬戦以外にもクラスメイト同士での模擬戦も始まった。

 特殊なアクセサリーを全員に着けさせたガンボー曰く「どんな一撃も無傷で守る首飾りだから模擬戦で怪我をすることがない。」と言うらしい。

 兵士同士で剣を振り下ろすと確かにそれぞれの剣は相手の体の数センチメートル手前で止まっていた。

 実演をした後に兵士達が模擬戦の組み合わせを決めていった。


 「俺の相手は平本かよ!」


 そう叫んだのは大官寺亮典だった。


 「はぁ・・・。」


 平本慎吾の憂鬱そうな顔とは対照的に大官寺亮典は生き生きとしていた。


 「よろしく頼むぜ!」


 大官寺亮典に背中を思いっきり叩かれて踏鞴(たたら)を踏む平本慎吾に武田康太達は声を掛けた。


 「あんま無理するなよ?」


 「あぁ、出来ればそうしたい。」


 武田康太に心配されて返事をするも浮かない顔だった。

 二人四組で距離を置きながら同時に進行する模擬戦の一つに平本慎吾と大官寺亮典が向かい合っていた。


 「両者構え。・・・始め!」


 審判役の兵士が声を上げると大官寺亮典が五メートルの距離を走って詰めた。


 「ちょろいなっ!」


 大官寺亮典の大振りの剣が平本慎吾の左腕に向かって振り抜かれる。

 平本慎吾はギリギリで体を後ろへずらして回避した。

 左側に振り抜かれた大官寺亮典に向かって平本慎吾が突き攻撃を仕掛けた。

 心臓目掛けた一撃が入るかと思いきや。

 大官寺亮典は無理やり剣を右側へ払って平本慎吾の右側頭部へ打ち込んだ。


 「っ!?」


 何が起こったか分からない平本慎吾はそのまま大官寺亮典から見て右側へ吹き飛ばされた。


 「おいおい、俺はまだ本気じゃないぜ!来ないなら行くぞ!」


 大官寺亮典がゆっくりと歩を進める中、平本慎吾はゆっくりと立ち上がるもその直後に剣が左下から右上に振り抜かれた。

 避ける間もなく空中に浮かされた平本慎吾に大きく振り上げた剣が思いっきり地面に向かって叩きつけられる。

 そうして平本慎吾が立ち上がっては大官寺亮典が叩きつけると言う行為が十分ほど続いたところで模擬戦が終わった。

 武田康太達は戦々恐々としており、反撃できないまま終わった平本慎吾は体中が擦り剝いていた。

 体へ直接攻撃が届かなくても勢いは通じるらしく、地面や壁にぶつかった場合はそのまま体に負荷がかかるようだ。

 口から血を出している平本慎吾は手で(ぬぐ)ったあと、静かにその場を後にした。

 武田康太達は彼を追いかけようか迷っているところへ大官寺亮典がやってきた。


 「力があるって最高だな!お前らみたいなのをボコボコに出来るんだからなっ!」


 小声で伝えてきた大官寺亮典は他のクラスメイト達の所へ行き、雑談をし始めた。


 「なんでわざわざ言いに来たんだ?」


 「平本を助けたら俺達も標的にするってことか・・・。」


 「でも、それじゃあ平本君が・・・。」


 武田康太、桑原健斗、鈴木隆利が不安に感じたところで、鈴木隆利は兵士に呼ばれてその場を後にした。


 「鈴木も模擬戦か。次は俺かな?」


 「そうかもな。それとさっきの大官寺のことだから機嫌を損ねると俺達に暴力を振るんじゃ。」


 「Aランクなだけに強いからな。それに比べて俺達は・・・。」


 二人とも乾いた笑いでその場を誤魔化して鈴木隆利の模擬戦を見ていた。

 相手は飯田翔太(いいだしょうた)、耳が隠れる長さの黒髪に鈴木隆利より背は少し低い中肉の男子だ。

 鈴木隆利は短めの片手木剣に木製の盾を構えていた。


 「始め!」


 兵士の合図で始まった模擬戦だが鈴木隆利はその場で盾を構えて飯田翔太はすり足で距離を詰めていた。

 お互いの距離が二メートルほどになったところで飯田翔太が右へ動いて相手の左側を狙おうとした。

 しかし、鈴木隆利は左へ盾を構え直して攻撃されないように守り続ける。

 それに対してすぐさま右へ動いた飯田翔太は剣を振り下ろして攻撃した。


 「っ!?」


 その攻撃に対して鈴木隆利は右手の剣で攻撃を防いだ。


 「やるな、鈴木!」


 「飯田君はなんか力が強いね。」


 剣同士の競り合いは、飯田翔太が押して弾いた。

 右腕ごと後ろへ弾かれた鈴木隆利はそのまま体を後ろへ捻って飯田翔太の二撃目を交わして左の盾で彼を殴った。


 「ぐへっ!?」


 強い衝撃ではなさそうだがバランスを崩して地面に転がった飯田翔太へ追い打ちをかけようと剣を上げたところで兵士が模擬戦を終わらせた。

 今回は鈴木隆利が勝ったようだ。

 お互いに挨拶してその場を離れた鈴木隆利のところへ武田康太が入れ替わりにやってきた。


 「お疲れ!鈴木、すげーじゃん!パリィじゃなくてそのまま殴るとか。」


 「あはは、あれは偶々(たまたま)だよ。」


 「謙遜(けんそん)すんなよ。じゃ、次は俺だな。」


 「気を付けてね。」


 鈴木隆利はまだ模擬戦をしていない桑原健斗へ戻った。


 「おまえが負けると思っていたけど盾で殴るとか予想外だったな。」


 「最初は守り続けてその隙を突こうとしたけど上手くいかないね。」


 「まぁ、体が大きいからじゃね?」


 「あはは、そうかも。」


 彼らの模擬戦は問題がなく終わった。

 今日の訓練が終わって各々が水浴びや部屋へ戻ろうとしたところへ兵士が武田康太達三人を呼び止めた。


 「君達、ちょっといいか?」


 「えっと、なんでしょうか?」


 武田康太が代表して返事をした。


 「こっちに来てくれ。」


 兵士は訓練場の隅へ三人を連れ出した。


 「シンゴ・ヒラモトには今後関わらないようにしてくれ。」


 「えっ?なんで?」


 桑原健斗が疑問の声を上げたが他の二人も似たようなことを思っただろう。


 「言っては何だが彼は最底辺のFランクだ。そんな彼の近くにいると波風が大きくなって問題になりかねない。」


 「問題・・・ですか?」


 鈴木隆利が質問するも兵士は首を横へ振った。


 「それに対して答えることは出来ない。君達は言う通りにすれば良い。もし、言うことを聞いてくれないと君達がひどい目に合うことになる・・・。」


 苦々(にがにが)しく言う兵士に三人はギョッとした。


 「は?ひどい目って?」


 武田康太が理解できないのも当然だろう、具体的なことは教えてくれず言うこと聞けと言われても簡単には受け入れられない。


 「一つだけ言えるのは労働奴隷にされても文句は言えないと言うことだけだ。」


 「「「労働奴隷?」」」


 「大半の犯罪者が行き着く先の職業と思ってくれ。一日中拷問のような肉体労働を強いられて(ろく)な食べ物も食えずに働かされる。逃げようものなら見張りの兵士にその場で殺される。君達異界の勇者達もそんな可能性があるってことだ。そして、ここまでの話を聞いた君達が誰かに口外しないように祈っているよ。知れ渡る瞬間、その場で死んでしまうから。」


 いつの間にか兵士が左手に握っていたペンダントの宝石が粉々に砕けて消えてしまった。


 「君達が生き抜くことに期待しているよ。」


 兵士は彼らを置いてその場を去った。

 兵士の後姿(うしろすがた)を茫然と見ていた三人だがハッとなって顔を見合わせた。


 「おいおい、どうするよ俺達!?」


 「言ったら死ぬんだろ?」


 「ホントかどうかはわからないけどさっきのペンダントが気になるね。」


 「まぁ、落ち着け桑原と鈴木!」


 「武田もな。」


 三人はゆっくりと深呼吸をした。


 「整理しようか。まず、平本に関わるなって言われたことだけど。」


 「多分Fランクはサンデル王国にとっては都合の悪い存在とか?」


 「都合が悪いって言っても戦力的な感じかもね。」


 「だろうな、って言っても俺達も近いけど。」


 「良くある展開だと平本は近いうちに王国に消されるとか?」


 「あ、ありえそう・・・。」


 「じゃあ、俺達が関わることで起きる面倒な問題ってなんだ?」


 「王国側との軋轢(あつれき)を生むとか?」


 「それもあるけど単純に空気を悪くしちゃうとか?」


 「平本を(かば)うと俺達も大官寺の(まと)にされるし、Aランクがいじめる側だから下手に王国側も(いさ)められないってか。」


 「俺達が動くと労働奴隷にされるんだから八方塞がりだな。」 


 「もう一つ、誰かに言えば僕達が死ぬっていう忠告。ペンダントが誓約(せいやく)の代わりだったのかも。」


 「それ汚い手段じゃねぇか!俺達が不利じゃん!」


 「当たり前だろ。実際、俺達に人権なんてないんだろ。」


 「言ってはいけない、動いてもいけない。平本君を助けられないなんて・・・。」


 「平本もこんな展開は知っているんだからどうにかするだろ。もし、あいつが主人公なら不思議な力に目覚めるとかして無双するんだろ。」


 「俺達が無事でいられるか分からないぞ、それ。」


 「それとこういう時って国の暗部が僕達を見張っていそうだけど・・・。」


 「ばっか!怖いこと言うなよ!いや、本当に居そうだよな。」


 「分からないように動くから暗部だよな。気を付けないといけないな。」


 「他の誰かが助けてくれるといいけど。」


 「俺達のように(おど)されているかもしれないぞ。」


 「どの道、俺達にはどうにもできないな。」


 「・・・、そろそろ行かないか?」


 「そうだな。」


 「なんでこんなことに・・・。」


 途方に暮れながら三人は訓練場を後にした。

 



 彼らが召喚されてから約三か月後。

 王国内のダンジョンの中層エリアで全員が集合した時に大量のモンスターとイビルモルが彼らに襲い掛かってきた。

 最初に襲い掛かってきた大量のモンスターは大半をクラスメイト達全員で撃退できたが、イビルモルはBランクからSランク組が対峙してモンスター群の残党をEランクからCランクが受け持つことになった。


 「なんかゴブリンは一撃で倒せるようになってきたな!」


 「そうだね。でも油断しているとまとめて襲い掛かってくるから気を付けないと。」


 【シーカー】の武田康太は小型のナイフでゴブリンの首や心臓を斬ったり突いたりして縦横無尽に駆け回っていた。

 鈴木隆利は魔法で戦うクラスメイト達の近くで守りながら撃退していた。


 「ウォーターボール!」


 空中から襲い掛かるコウモリ型のモンスター目掛けて放った水の球は直撃しなかったものの左側の羽に触れたことでバランスを崩して地上に落下した。


 「うおおおおお!」


 【アタッカー】の飯田翔太が剣を振りかざしてコウモリ型のモンスターの頭を何度も殴って絶命させた。


 「くそっ!さっきから剣の切れ味がおかしいぜ。」


 「飯田、多分モンスターを斬った時の血糊や脂のせいだと思うぜ。」


 【ディフェンサー】の山田航大(やまだこうだい)が飯田翔太に襲い掛かろうとしたコボルドを切り伏せた。

 ダークブラウンのツンツン頭に細い目が特徴の山田航大はかなりの返り血を浴びていた。


 「拭くなら布巾(ふきん)が欲しいな。でも、ないんだよな。」


 「こういうときはゴブリンとかオークが持っている武器を使うんだよ。ほら、今俺が倒したコボルドの剣を使えよ。」


 山田航大は周りを注意しながらコボルドの剣を拾って飯田翔太に手渡した。


 「でも、王国に渡された武器はどうするんだよ?」


 「後で拾えばいいだろ。さっさと次行くぞ。」


 二人が次のモンスターを狙うその場所から少し離れたところ。

 【ヘビータンカー】の鈴木隆利と【アイアンタンカー】の小川智也(おがわともや)が守っている集団。

 【マジック・ウォーター】の桑原健斗と高木唯(たかぎゆい)、【マジック・ウィンド】の幸田悠人、【ラックホワイター】の徳田俊介(とくだしゅんすけ)、【ジェネラルソーサラー】の十津川千尋(とつがわちひろ)、【ヒーラー】の藤田杏奈がそれぞれの能力で撃退やサポートをしていた。


 「おい、武田!戻ってこい!」


 「おう!」


 徳田俊介は戻ってきた武田康太を前に呪文を唱えた。


 「スタミナアップ!それから、パワーアップ!」


 武田康太の体が淡い黄色と赤色に光って直ぐに治まった。


 「サンキュー!行ってくるぜ!」


 武田康太はすぐさま戦場へ戻った。


 「次!飯田!山田!」


 徳田俊介は前に出ているクラスメイト達に体力増強や筋力増強の魔法をかけているようだ。

 今の彼の実力だとまだ近くにいる対象でないと魔法をかけられないようだ。


 「た、たすけてくれー!」


 別の方角から【ドラッグクラフター】の三戸卓己(みとたくみ)がやってきた。

 大きなカバンを肩にかけて走ってきた彼は既に所々が傷付いていた。

 彼が向かった先は藤田杏奈のようだ。


 「また怪我したの?」


 「そうだよ、結構痛いぞ!」


 「威張(いば)ることじゃないでしょ・・・。」


 「谷川の近くに行けば斬りかかられるしそれを避けたらゴブリンに襲われるし散々だ!」


 「分かったからちょっと待って。・・・ヒール!」


 三戸卓己の体が淡い緑色の光に包まれた。

 腕や足の怪我が少しずつ治っていく。


 「まだ痛いと思うからここでゆっくりしてね。」


 「助かった、ありがとう。ポーションはほぼなくなったから残りのマジックポーションは皆で飲んでくれ。」


 三戸卓己は大きなカバンからガサゴソと漁っては瓶に詰まった青色のマジックポーションを五個取り出してそれぞれに振舞った。


 「藤田は大変だろうからもう一本持っといて。」


 三戸卓己から更に一本を藤田杏奈に手渡した。


 「ありがと、でもこれって苦いのよね。」


 「そればっかりはどうしようもないから。少しずつに飲んでもらうしかないな。」


 「仕方がないか。それより、あの二人の豹変(ひょうへん)ぶりはなんていうか・・・。」


 「そうだな。最初に見た時は引いたな。」


 「選べなかったから本人たちは大変だけど。」


 二人の視線の先は二人の女子高生達が剣を振り回す姿だった。

 一人は【バーサク】の谷川麻紀。

 その彼女は雄叫びを上げながら周囲のモンスターを斬って殴って蹴り飛ばすと言う強行をしていた。


 「あああああああああああ!」


 ゴブリンやコボルドは一回の攻撃で倒され、彼女より大きなオークも体勢を崩され馬乗りから何度も蹴られる状況だ。

 返り血を気にせず、武器も倒した相手からとっかえひっかえで使いつぶしていた。

 そんな彼女の顔は怒りに満ちているが口角が上がっているようにも見える。

 一方、谷川麻紀とは離れた場所で【ダブルフェイス】の大重心愛(おおしげここあ)も単身で戦っている。

 彼女の能力はもう一人の人格を形成するらしい。

 その人格が好戦的でこの戦いにおいて体の主導権を握っているようで、その人格に対して第三者は『しげこ』と呼んでいる。


 「おいおい、意外と弱いな!あたいのほうが断然強いじゃん!」


 「グルァ!」


 「よっと!」


 襲い掛かってきた体長一メートルほどの熊型モンスター、スモールダンジョンベアが鋭い爪や牙を見せつけながら襲い掛かってきた。

 しかし、しげこは事も無げに避けてすれ違いざまに剣による斬撃を入れた。


 「っ!?」


 すれ違った直後に血飛沫(ちしぶき)を上げて地面に伏すスモールダンジョンベアを見ることなく、近づいてきたオークによる斧の一撃を(さば)きながら隙を見つけて何度も斬り刻んだ。


 「戦いは楽しいなぁ!」


 しげこの興奮は谷川麻紀とは別に周囲のモンスターを怖気付(おじけづ)かせた。

 英雄人達がイビルモルを倒すまでの間、彼らもまた奮闘しており中層フロアへ雪崩れ込んできたモンスターを全て倒すことに成功したのであった。




 ダンジョンの戦いから二か月後。

 異界の勇者達は日々の訓練を始め野外演習を含めて更に経験を積んできた。

 ここまでの期間でいなくなった生徒は一人だけ。

 そして、翌月には国内に現れた魔王とその配下達を倒すための討伐軍が進軍する予定だ。

 その知らせを受けて異界の勇者達も討伐に参加する旨を受けて彼等は期待する者と不安を抱く者に分かれていた。

 そんな知らせを受けた武田康太、桑原健斗、鈴木隆利が夜の自由時間に一つの部屋に集まっていた。


 「結局、あいつは戻って来なかった・・・。」


 「やっぱり・・・。」


 「でも、こういう時のお約束って言えば。」


 「そうだよな。実はダンジョンの奥に居て、強くなってからこの国に復讐する話。」


 「本当にそうだったら俺達も巻き添えだな。」


 「巻き添えっていうか、寧ろ最初に復讐されそう・・・。」


 「でも、フィクションだからそんなこと・・・。」


 「まぁ、生きてるかなんてわからんし。生きていたら生きていたでいいだろ。」


 「目下の問題と言えば、来月の魔王討伐だよな。」


 「魔王っていきなり現れたんだっけ?」


 「何時現れたとか何が目的とか全然知らされていないよな。」


 「英達が訊けていたらいいんだけど。」


 「僕達のやることはSランクのための梅雨払いかな?」


 「絶対そうだろ。俺なんてあんまり役に立たなさそうだけどな。」


 「俺も火力は出ないからな。」


 「そもそも桑原君の【マジック・ウォーター】よりも小倉さんの【マジック・アクオス】の方が強いんだよね。」


 「どうせなら同じ属性は統一した名前にすればよかったじゃねえか。」


 「上位の能力として分類したかったんじゃない?」


 「【マジック・フレイム】と【マジック・ボマー】とかそうだよね。」


 彼ら三人の話は何時しかクラスメイト達が持つ能力の考察に移っており、就寝まで大いに盛り上がったようだ。

 



 そして、一月後にサンデル王国は異界の勇者達を中心に据えた討伐軍を結成して魔王へ挑むことになった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが暇つぶしに読んでいただければ幸いです。


今回の話も主人公以外の登場人物の話でした。

クラスメイト達の中で異世界ファンタジーに期待を寄せていた少年達を中心にスポットを当ててみました。

それと一部のクラスメイトの活躍も書いて見たかったのですが、あっさりとしすぎたかもしれません。


次回は平本慎吾の話に戻る予定です。

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