108話 最後の日は唐突にやってくる
本日もよろしくお願いします。
あれから数日後。
街中の復興作業を手伝いながら過ごしたけどここに住む人達もまた逞しい。
場所によって被害は様々だけどそれでも皇帝に文句を言うことなく明るく振舞っていた。
流石に文句を言えば罰せられるから言わないだけかもしれないけど。
ただ、家屋や店を潰された人達は勿論家族や大事な人達も亡くなっている。
時々辛い表情をして堪える人は路地裏で泣くこともあった。
街だけでなく人にまで危害を広げたあの事件をすべて解決したとは言い難かった。
それとは別にわたしの体もちょっとした変化があった。
ある朝、体の状態を見たら所々に出来た黒い痣は治るどころか少しずつ広がっていた。
何かの模様ではなくただ覆う様に。
それからマルテ達から指摘された瞳の色も赤になっているらしい。
今までと同じように見えているから気にしたことはなかった。
痣は今までの戦闘で出来たものだとしても目の色は見当が付かない。
原因が分からない以上は放置することに決めた。
さて、今日はショートソードの点検をしてもらいましょうか。
復興作業の手伝いは休んで冒険するときの身形になって以前紹介された鍛冶師であるダクマの元へ向かった。
ここら辺は被害を受けていないようで今までと同じように仕事に精を出していた。
「暫くぶりだな!」
「皆さんもお元気で何よりです。」
何度かお世話になっているから頭のフードを脱いで挨拶をした。
今まで見せたことがなかっただけに驚かれたけど。
「……そういう顔だったのか。」
「えぇ、あまり人に見せたことはありませんけど。」
「そうか、それならいい物を見せてもらったな!ところで用件はなんだ?」
「これを見てもらいたいのですが。」
ショートソードを前に出すとちょっと引かれた。
以前も見てもらったことがあるけどあまり良い印象を持っていないようだ。
「……ちょっと借りるぜ。」
ダクマに鞘ごと渡して引き抜いて貰った。
すると顔色が一気に悪くなってしまった。
「嬢ちゃん、よく平気でいられるな?」
「そうですか?」
「俺は手練れの冒険者って訳じゃないがこの武器からは前よりも禍々しさを感じる。正直言えば気持ち悪くなるな。刃こぼれとか歪んだりは…していないな。寧ろ手入れは要らないくらいだ……。」
「そうですか…分かりました、見ていただきありがとうございます。今回は」
「いや、見ただけだから要らないぜ。それよりナイフはどうだ?」
わたしがショートソードを受け取ると不快な感覚がなくなったのか顔色が良くなっていた。
ナイフは何本か使ってダメにしたから補充しようかな。
「それではまた買わせてもらいます。」
「気前が良くて助かるぜ。」
以前と同じように柄や鍔のない剥き出しの状態で買った。
さっと確認したら渡された中には上等なものがあった。
「これ、いいんですか?」
「あぁ、それは構わない。嬢ちゃんはあいつの紹介で来てもらったからな。」
気を聞かせてもらったから大切に使わないと。
「ありがとうございます、大事に使いますね。」
「自分の命を守るためならナイフも本望だからな!変な気を遣って躊躇するなよ。」
「分かりました、では。」
それから雑貨屋にもよって日持ちする消耗品を購入。
このお店とホレスにもお世話になったから同じように顔を見せて挨拶するとやはり驚かれた。
その効果があったのかここでもおまけして貰った。
男は皆女性に弱いのか、と思ってしまうほどに。
最低限の用事を済ませたから明るい時間で受けられる依頼を探そうと思って冒険者ギルドを訪れた。
人は疎らで掲示板の前に人はおらず落ち着いて見られる。
依頼は街の復興関係が多い、資材運搬の手伝いでもしようかな。
依頼書を持って受付で受理して貰おうとしたら冒険者のタグを見て驚かれた。
「ポーラさん、ですね。騎士団から手紙が届いているので少々お待ちください。」
暫く待つと奥の方から戻ってきた受付嬢が騎士団専用の封書を渡してくれた。
刻印は詳しくないけど騎士団固有の物なんだろうなぁ。
復興作業の依頼を受けずに冒険者ギルドを出た。
もしかしたら直ぐに騎士団へ来いと言う内容かも知れないから歩きながら手紙に目を通した。
送り主は騎士団…というよりは騎士ボビィだった。
個人で出したみたいで要約すると今日の夜に一般区画外の未開発地区に来い、とのことだった。
都民の殆どは騎士団区画や商業区画などに隣接した一般区画に住んでいるらしいけど、帝都の区域とされる最初の検問所と二つ目の検問所の間に広がる平野を別名で未開発地区と呼んでいる。
帝都へ一直線に向かう道の周辺は整地されているけどそれ以外の場所は森があったり場所によっては集落が形成されていた。
だから一般区画から一番近い森、と言う指定だった。
それにしてもわたしが今日中に受け取れなかったらどうするつもりだったのだろうか?
加えてボビィは相変わらず字が汚い。
それは置いておいて、指定された時間や場所は人がいないはず。
何かを企んではいると思うけどここで約束を破ったらもっと面倒になるかもしれない。
それにこれはチャンス。
そろそろ彼らをどうにかしたいと思っていたけどまさか向こうから出てくるとは。
気を引き締めないといけない。
予定を立て直して優先順位を考えて……。
帝都は広いからさっさと行動しないとあっという間に日が落ちてしまう。
冒険者ギルドへ戻り、預けてあった残りの報酬を受け取った。
それをある店に持ち込んで注文してから伝言も頼んだ。
店主達は快く引き受けてくれた。
これで心残りはない……はず。
そもそも心残り…か。
大門近くは被害が大きくて一番人が集まって作業に勤しんでいた。
その中には嘗て通ったお店もあった。
彼が…彼らが生きていたかもしれない未来。
瓦礫が撤去された場所場所を眺めながらその場を去った。
次は魔法士団でサムへの言伝をお願いした。
もしかしたらボビィの行動を把握しているかもしれないけど念のため。
そもそもわたしがここへ来ること自体リスクが高いのに。
大分歩いたため、日も大分傾いてきた。
先に食べてもいいかも知れない。
適当な店に入ってわたしは帝都の料理を堪能した。
世の中には探せば美味しい店ってたくさんあるのかもしれない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




