106話 保身
本日もよろしくお願いします。
これはフレイメス帝国騎士団と魔法士団が大官寺亮典達の進撃に対して大門前を専守している頃にまで戻る。
大官寺亮典達によって負傷した従士達は戦線離脱して後方へ下がったりして治癒魔法を受けていた。
その中で騎士として進軍して大官寺亮典に殴り飛ばされたボビィは大門の上で援護していたサムを始めとした魔法士達を巻き込んだ。
幸いにも死者はいなかったが大なり小なり負傷者を出した。
凹んだ鎧を身に着けたままボビィがストレスのあまり喚いた。
「クソッ!何なんだあの男!?こんなところまで飛ばしやがって!」
周辺の魔法士達は遠巻きにボビィを見ながらも他の魔法士達の介抱を始めていた。
「まさかボビィがここに来るなんて……。」
「あん?サムかよ。」
「酷い言い草だね……。」
腕を抑えながらサムはボビィに近づいた。
周囲を気にしながらサムはボビィに小声で話した。
「これはチャンスかもしれない。」
「チャンスぅ?」
「ボビィは僕と一緒にここを離れて騎士団区画へ行こう。」
「なんでだ?今は敵の進行を止めないといけないだろ?」
「それは他の人達に任せよう。それよりも僕らは今後の進退が掛かっているんだ、向かいながら話そう。」
「急かすんじゃねーぞ。」
ボビィは渋々サムに肩を借りながら大門を降りて大門沿いを歩いた。
すれ違いざまにサムは他の魔法士へ補給物資を提供してもらうために騎士団区画へ向かうと言った。
それを聞いた魔法士は引き留めようとしたがサムの言い分もあると思ったのかそのまま行かせた。
騎士団や魔法士達は大門前で暴れる大官寺亮典や小田切翼に釘付けになっていたためサム達はそのまま包囲網も抜けた。
大門近辺は人がいないようでサム達は堂々と歩き、やがて騎士団区画へ着いた。
サム達を見た見張りの兵士達は彼らを見て訝しんだが騎士ボビィは知れ渡っている顔だったためそのまま通した。
騎士団区画は殆どが出払っておりサムはかなり安心していた。
「結局お前が心配しているのってこの前捕まったオメキャリングの二人の事か?」
「そうだね、あの二人が保身のために内部事情を話したら僕らの事も話すかも知れない。」
「俺達は悪い事していないだろう?」
「君は相変わらず分かっていないね。」
「なんだと!?」
真っ赤な顔で怒り出すボビィにサムは落ち着けと諭す。
「いいかい、帝都を脅かした凶悪犯と繋がりがあるだけで僕らにも疑いの目が掛かるんだ。例えば彼らの凶行を手助けしたとか。」
「俺達は何もしてないだろう!」
「例えばの話だって。それと僕らがダルメッサ様に拾われた経緯を彼らも知っているからそれを話されてもダメなんだよ。」
「なんでだよ?」
「はぁー…僕らはこの国の貴族の暗殺を手助けしたんだ。それは君だって分かっているだろ?」
「俺は知らねーぞ。」
「そんな子供みたいなこと言っても言い逃れできるとは限らない。確かに凶悪犯の言うことを全て信じるとも限らないけど。」
「だったらそんな心配は必要ねーじゃねーか。」
「念には念を、だよ。」
「だからお前は小心者なんだよなぁ。」
「君は考えなしだよ。」
サム達は騎士団区画内の監獄へ辿り着いた。
監獄内は荒らされたままで二人はその惨状を目の当たりにした。
「うへぇ……。」
サムは出入り口の従士の姿を見て嗚咽した。
「いい加減慣れろよ。」
「う…そうだね。先ずは鍵を探そう。」
宿直室を始めに探したものの鍵が見つからず。
「ねーじゃん!」
「全部取られたのかな……。」
彼らは一階と二階の部屋を漁ったものの鍵の一つも見つからなかったようだ。
「やっぱり脱獄させた奴らに持っていかれたかな?」
「鍵がないなら脱出させようがないな。」
「そうだね……次はあの二人が収監されている牢屋へ行こう。」
二人は薄暗い通路や階段を通って地下二階へ向かった。
地下二階も地下三階と同じような造りで何人か牢屋で寝ていた。
サム達はそんな彼らを尻目に一番奥へ進んだ。
その奥にも幾つか牢屋がありその内の二つに一人ずつ収監されていた。
サム達は小声で話した。
「ソルフェルツさん、オプティムさん。少し宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
ソルフェルツは檻の傍へ近づき耳を立てた。
「監獄内の状況は知っていますか?」
「察しは付いている。まさか異界の勇者達がここに居るとは思わなかったがな。」
「それで僕達はあなた方を脱走させようと思ったのですが鍵がなくて……。」
「では脱走も出来ないという事か。ここの牢屋は対魔法法式があるから自力での脱出も叶わないな。」
「なので今の事態が収拾したら僕達があなた達の便宜を図ろうかと思っています。」
「便宜……な。」
「ですのでくれぐれも僕らとの関係は言わないようにお願いします。」
「……俺は構わないがオプティム、お前もいいか?」
「いいんじゃないかな~?」
「だそうだ。それにしてもあの異界の勇者を帝国騎士団は止められるのか?」
「へっ!あいつらは俺達が一度は捕まえているんだ!何の問題もないな!」
ボビィが胸を張ってソルフェルツに宣言した。
「威勢が良い事だ。」
「では失礼します。」
サム達はそのまま監獄を後にした。
彼らを見送ったソルフェルツは隣の牢屋に居るオプティムに話しかけた。
「忘れていないだろうな?」
「勿論、最低限の事は覚えているって。」
「出来れば色々覚えて欲しいものだがな。」
短い会話はそこで終わり監獄の地下二階は再び静かになった。
監獄を出たサム達は騎士団の副団長であるザシャを探して補給物資の手配を要求したが受け入れられることなくそのまま戦線へ戻って行った。
「あのおっさん、頭硬いよなぁーむかつくぜ。」
「どっちにしても運ぶのはボビィになるだろうけど。」
「俺がそんなことするわけないだろ!」
彼らは騎士団区画で悠長にお腹を満たして現場へ戻った頃には全てが終わっていたのだった。
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