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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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101話 平穏なき道で小さく渇望 ―小田切翼―

本日2本目ですがよろしくお願いします。

 俺は力こそ正義と謳っているような世界で戦っていた。

 どちらかと言えば平穏に生きたかった。

 それでも元の世界でもこの異世界でも許されなかった。

 現実はクソだ。

 それでも俺は死にたくない。

 バカが暴れた以上、俺もまともには生かされない。

 だったら戦うしかないだろ!?

 最悪だ!

 ルートと呼ばれた女騎士が俺の攻撃を警戒してか中々仕掛けてこなかった。

 一方で俺は相手の剣を捌くので精一杯だ。

 向こうの方がリーチがある分、喉元に迫られやすい。

 だけど俺は鎧であれば斬り裂けるだけの能力は持っていた。

 だからこそ相手は警戒している。

 そこへ更に一人増えたことで向こうの手数が増えて数の差で不利になった。

 せめて一対一で戦えよ!


 「俺一人に対してそっちは二人とか卑怯だろ!?」


 「お前の仲間は多人数を相手にしているから問題ないだろう?」


 「大ありだ!俺はあいつみたいに強くないんだ!」


 本音を漏らしたが聞く耳を持ってくれない、当然だ。

 俺達はこの国を揺るがす極悪人になっているはずだから。


 「それならば直ぐに投降しろ!」


 「身の安全の保障がない!それ以前に……。」


 あいつが戦っている以上、どちらに戦況が転ぶか分からない。

 もし、俺が投降した後であいつが勝ったら恐らく俺を殺すだろう。

 それなりの付き合いだからそんな現実しかない。

 俺が投降できるのはあいつが捕まるか死んだときだけ。

 もしも俺の意図を言えば距離が離れていてもあいつの耳に届くかもしれない。

 今取れる選択肢はこの戦いを遅延させること。

 だからこそ、目の前に集中できる一対一が良かった。

 新手の冒険者が助けに来るなんて最悪だ。


 「だったら私はお前を倒すしかない、それに使えるものは使う主義だ。」


 「私は物か何かニャ?」


 「別にあなたを見下している訳じゃない。」


 彼女達は互いに初対面のように見えるがどちらも気さくに話していた。

 武田達(オタク)ならこの光景に何か騒いだかもしれないな……。


 「騎士なら騎士道に則って一対一で勝負する物じゃないのか!?」


 「私達は恰好こそ騎士に準じているがそう言うのは持ち合わせていない特殊な身分でな。悪く思わないでくれ。」


 「ふざけんな……。」


 会話でどうにか時間を稼ごうと思ったが猫人の冒険者が動き出した。

 ナイフ一本で姿勢を低くして向かってきた。

 俺は手刀で迎え撃とうとしたが相手の間合いに入る前に大きく飛び退けた。

 人に準じた存在なのに猫の様に動き回る冒険者。

 対して俺は相手に攻撃を加えるために屈まなければいけない。

 屈んだところで相手の動きは速い。

 正面へ構えたところで相手は死角に回るだろう。

 俺の腕は背面を守れるほど可動域がある訳じゃない。

 そもそも体が柔らかいとしても隙を突かれる。

 駆け回る相手に対して俺は回避以外の選択肢がなかった。


 「サンデル王国の勇者って皆そう言う感じなのかニャ?」


 「さぁね。」


 「それとあの男はあなたの友達かニャ?」


 「友達……ね。」


 あれを友達と思ったことは一度もない。

 勿論向こうだって思っていない。

 仮に向こうが思っていたとしても仲良くなりたいとは思わない。

 そしてこの状況を助けて欲しいと思わない。

 ただ、俺は戦う事には疲れた。

 終わりの見えない戦いを強いられて、その先にある俺達の未来が見えない。

 その割に流れに身を任せている俺が情けない。

 俺と猫人が交戦している間は女騎士が間合いに近づきつつも隙を伺っていた。

 完全に女騎士を警戒せずにいれば斬られる可能性がある。

 傍で駆けまわる猫人に目を向けつつ、構える女騎士にも気を配る。


 「それにしても何で君達はここで暴れているのか不思議なんだけどニャ?」


 「疑問が多いな……。」


 「気になっちゃうのは仕方がないと思わないかニャ?」


 「全然。」


 「目的は?」


 「あいつがこの国の頂点に立ちたいってさ。」


 「それは大胆ニャ!それなら皇帝を倒すのも分かるニャ。」


 「それで成れるのか?」


 「残念ながら分からないニャ、つまり君はあの男の手助けをしていると?」


 「どうかな……。」


 大官寺の方を横目に見れば再交戦していた。

 あいつが帝国と和解する可能性はなさそうだ。

 寧ろどちらかが死ぬまでやり合うだろう。

 それ以前に大官寺の能力が変わっている、いや進化とか変化みたいな。

 まさかランクアップしたとか?

 そうなると英達と同等の力を有していることになる。

 しかもこの国で強い人達にもダメージを入れている。

 帝国の手数が多くても今のあいつならどうにか出来そうな気がしてきた。


 「何だか目つきが変わった気がするニャ。」


 「気のせいだ。」


 変に鋭い猫人だ。

 結局俺は大官寺に賭けるしかない。

 ここで二人が軌道上に重なった。

 そのタイミングで俺は右腕を振り上げてオーラの斬撃を飛ばした。

 猫人は軽やかに避け、半透明のオーラを纏った女騎士は剣で弾きながら斬撃の軌道を別方向へ流した。

 しかも、人のいなさそうな場所へ変えているあたり、意外と周囲へ気を配っているらしい。

 この国の実力者らしいだけあって俺よりも強いと感じてしまう。

 それでも均衡を保てているのは俺の能力を脅威と捉えているからだろう。

 右腕で攻撃したからと言って纏っていたオーラは消えるわけではない。

 今の一撃で二人にダメージを与えられたら良かったがそれは期待しすぎた。

 一方で右腕を上げたことで右側ががら空きになった。

 そして猫人の位置は俺から見て左。

 がら空きの右側を狙うだろうから俺はナイフで斬られる覚悟で右足で蹴る気持ちでいた。

 だが、猫人は俺の左腕を狙ってきた。

 俺は左腕で防御しようと左腕を前方へ振ってナイフと鍔迫り合いになった。


 「このナイフはそれなりに斬れるんだけど、君には全然効かないニャ。」


 「そうだよ、だから諦めてくれると嬉しいんだけど。」


 そっちの方が本当は都合がいい。

 だけど猫人は引かない。

 しかも左手にナイフをもう一振り握り始めた。

 両手から繰り出されるナイフの突き攻撃に俺はギリギリ間に合った右腕も合わせて防御した。

 猫人もそれなりの手練れだからか攻撃と防御がしっかりと出来ていた。

 簡単に隙を作らない。

 全て俺の腕を狙っているから余計にそう思えた。

 ただ、その攻撃に嫌な予感が走った。


 「ふ~ん、わざわざ腕を振るなんて気になるニャ。」


 「偶々だ。」


 多分、気づかれた。

 それと女騎士が接近し始めた。

 だったら!

 俺は左腕を振って猫人を追い払った。

 猫人の方は斬撃を弾けないらしい。

 その隙に俺もまた女騎士に向かって走り出した。

 右腕で斬撃を飛ばして牽制。

 正面からの攻撃だからか女騎士はそれも見事に別の方向へ受け流した。

 お互いに接近したとき、向こうは鞘を腰から外して両手にそれぞれ剣と鞘を持った。

 鞘はそれなりの大きさだから完全に握れてはいない。


 「それで対抗するつもりか!?」


 「必要な事はする主義でな!」


 女騎士の間合いに入る前に後ろを振り返りながら右腕を振った。

 視界に捉えた猫人はやはり俊敏な動きで俺を攻撃しようとしたがその前に斬撃を飛ばしたことで回避をさせて距離を取らせた。

 再び正面へ向くと既に相手の剣が振り降ろされていた。

 左腕を振り上げてそれを防ぐ。

 が、相手は握力が足りなかったのか俺の左腕に弾かれて剣を手放した。

 俺の後方へ飛んだかもしれないがそれよりも相手の攻撃手段が鞘になった。

 あれならぶった切れそうだ!

 女騎士に向かって右腕で攻撃すれば鞘で防がれた。


 「斬れない、だと!?」


 「特別製でな、簡単には壊れないぞ!」


 しかし、女騎士は鞘も手放した。

 無防備になったと思えたが後ろへ飛びつつ、腰からもう一振りの剣を取り出していた。

 剣と言ってもレイピアだ。

 さっきの剣よりも剣身は大分細い。

 斬るには心許ない。


 「そんなので斬られてたまるか!」


 「確かにこれでは斬れないな!」


 「だったら!」


 背後から猫人が仕掛けてくるはず、挟撃はまずいが同士討ちをしてくれるなら!

 その場から左側へ大きく飛ぼうとしたが嫌な予感がして咄嗟に振り返りながら右腕を振ろうとした。

 斬撃を飛ばすつもりだったが途中で何かにぶつかった。

 ぶつかったのはナイフ。

 器用に尻尾で掴んだナイフだった。

 しかし、ナイフは俺の右腕に触れたまま勢いにつられて弾かれた。

 その後に俺の斬撃が誰もいない場所へ飛んだ。

 一方、尻尾の持ち主である猫人はしゃがんでいたが瞬時に立ち上がった。

 両手には何も持っていなかったが空中で何かを掴んだ。

 それは女騎士が手放した剣だった。


 「なっ!?」


 剣が何処へ弾かれたのか正確には分からなかったが俺のほぼ真上だったらしい。

 そしてそれを見事に掴んだ猫人が思いっきり振り下ろした。

 体を捻らせたが左腕の防御が間に合わない!

 目の前の剣が俺の右肩から腕を切断した。

 西洋剣は叩き斬る用途だと何かで聞いたことがあったけどこの世界の剣は割と切れ味が良いらしい。

 そんなどうでもいいことが思い出したけど。

 斬られた直後。

 痛みが右肩を通じて伝わった。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?

 残った左手で猫人を刺そうとするが体を捻りながら避けられた。

 背後には女剣士がいる。

 迎撃しようとするが胸の近くからまた痛みが伝わってきた。

 いや、何か空虚な感じだ。

 体を見降ろすと俺の体からレイピアが伸びていた。

 ただ、体を通じてレイピアの感触は伝わらない。

 強いて言えばレイピア周りから血が流れていた。

 は、はは。

 多分心臓を貫通したんだろうな。

 俺、死ぬのか……?

 体から力が抜けてきた。

 何か言っている気がするけど聞こえない。

 それに猫人の姿がよく見えないな。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 そもそも俺は平穏な日々を過ごしたかっただけなのに。

 人に手を差し伸べたら疎まれていじめられて。

 仕返しをすれば俺は悪者扱い。

 そこからバカな奴に捕まって付き合わされて。

 それに加えて異世界じゃ人殺しまでさせられて。

 そんなこと、誰も望んでなんかいないのに。

 どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ?

 俺の人生は本当にクソだな。

 だけど…もしも。

 次があるなら俺は……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足

小田切翼 【スラッシャー】 Cランク

身体能力が向上。持っている武器の切れ味が向上する。また、オーラによる衝撃波「斬撃」を飛ばせるようになる。射程範囲は30メートルほど。緑と鉄色のオーラを纏った状態になるが主に手と腕だけ。「斬撃」を飛ばすには腕を振らなければ飛ばせない。飛ばしても腕にオーラは纏ったままで逆に腕を動かさないと生身と変わらない(武器にオーラを纏わせて振っても斬撃は出せない)。動かした直後や触れた刃物や強度の高い物に対して斬ることが出来なくても自身の腕に反動などのダメージはない。しかし、飛ばした斬撃や纏った状態の腕が対象から離れてしまうと切れ味や強度は無くなってしまう(武器に関しては持っている限りは保たれる)。切れ味や強度は腕を振る時間や距離に関係なく常に一定である。一方で振っている向きに面していない部分は生身と変わらない(風の抵抗を直接受けていない部分)。また、動かしていない時に何かに触れた状態から腕を一緒に動かしても斬ることが出来ない。例えば腕にロープが巻き付いる状態で腕を振ってもロープが切断されることはない。


脱獄後に武器を持たずに戦っていたのは肉弾戦の方が戦いやすかったため(最初期は武器を持って戦っていたが途中から戦闘スタイルを変えた)

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