100話 振るった拳で傷付き ―小田切翼―
本日もよろしくお願いします。
※サラッと流すか飛ばしても問題ありません……
俺は何をしているんだ?
目の前には女騎士と元の世界にはいない女猫人。
街中で偶々見かけたただのコスプレならちょっと惹かれて見たかもしれない。
何も知らなければかなり凝った様相に感嘆の声を漏らしただろうな。
だけど、これは現実。
肌に感じる空気、周囲の音、目の前の光景。
全てが現実だ。
家は至って普通の家庭。
両親と三人兄弟の次男。
兄は出来が良く、俺が高校へ進学した時に兄は有名な大学へ進学した。
弟は兄ほど優秀じゃないが人の輪に入るのが上手で小中と学校生活も楽しそうにしていた。
対して俺は良くも悪くも普通で上と下に比べたら目立つ存在じゃなかった。
だからひっそりと生きる分にはこれで良いとさえ思えた。
なのに。
中学で虐められた奴がいたから庇ってしまった。
クラスでは虐めがあったのは認知されていても誰も助けようとしなかった。
俺だって最初は助けようと思わなかった。
だけど俺は手を差し伸べてしまった。
別に正義感とかあった訳じゃない。
それでも放っておけなかった。
その時は小さな声でお礼を言われて悪い気はしなかった。
だけど。
それ以降、いじめの標的は俺になった。
クラスでも目立つ奴らが数人、人の物を隠したり罵倒したり。
前にいじめられた奴は何時の間にかいじめられなくなったが俺と話すこともなかった。
それどころか今まで話してくれた奴らも遠のいていった。
挙句の果てには誰もいない場所へ呼ばれて蹴る殴るも始めた。
思い切って先生へ相談したが取り合ってもらえなかった。
証拠がない。
俺は殴られた箇所を見せたがそれでも拒否された。
暴力による痛みは勿論、今まで関わったクラスメイト達と話せないことが悲しかった。
両親や兄弟には相談しようかと思ったが家族の中で俺が弱い奴だと思われたくなくて何も言わなかった。
本当なら相談すべきだったと思う。
結局事態は好転せずに虐めが続いたある時。
何がきっかけだったか覚えていないがキレた。
怒り心頭になって一人を殴った。
しかも全員が見ている中で。
そして驚愕した残りの奴らも同様に殴った。
あいつらが全員でやり返そうと殴りかかってきたけどそれこそ返り討ちにした。
最後には先生達に止められるまで主犯を殴り続けた。
俺は怒られたが同時に虐めを学校側へ露出させた。
この事件で俺や他に虐められた奴の事が公になって警察や教育委員会が動いた。
クラスメイト達の証言もあったから俺が被害者であることが証明され、当時相談した先生も隠蔽した罪で罰せられた。
それでも俺は殴った事実がある以上世間でも加害者でもあった。
両親は表立って俺の行いを咎めることはなかったけど兄や弟はあまり良い目で見なかったな。
あの事件以来、兄弟とは碌に言葉も交わすことがなくなった。
それから高校進学後、俺の中学時代の噂を聞きつけた不良達に絡まれて何度か殴り合った。
だからと言って俺は殴ることに抵抗感はまだあった。
それでも結果がどうであれ今までの相手はそれ以上関わってこないから良かった。
この時まではそう思っていた。
基本的に態度がでかい大官寺亮典。
同じクラスだったが正直関わり合いになりたくなかった。
大官寺の噂は色々聞いているし、俺自身喧嘩沙汰が好きではない。
寧ろ厄介事から遠ざかりたい。
そう思っていたのに大官寺が声を掛けてきた。
「お前、喧嘩が強いんだってな?」
「別に好きじゃない…じゃあな。」
遠回しに関わりたくないことを告げたが大官寺は背後から肩を回して人気のない場所まで連れて行きやがった。
なんでこんな奴が……。
「本気でいくぜ!」
そして殴りかかってきた。
大官寺は想像以上にバカだと思った。
そして俺は振りかかる火の粉を払いたかったが最初は防戦していた。
他の奴らの時もそうだったが痛いのは嫌だ、こんな奴らと関わるのも嫌だ。
体がでかいだけあって大官寺の一発は痛い。
この場は無抵抗で過ごせば学校や警察に相談してどうにかして貰えたかもしれない。
多分それが利口な方法だった。
なのに俺はただ痛めつけれれるのも嫌だった。
中学の時と同様に俺に掛かる理不尽が許せなかった。
だから怒りで体が動いて俺もやり返してしまった。
時に胴体を殴り、膝を蹴った。
向こうは手加減していると今更ながら気づいたがこの時の俺は本気だった。
喧嘩慣れしているであろう大官寺なら相手の力量くらい分かるだろう。
喧嘩が目的ならこれで終わりだ。
これで関わることがないだろうと内心安心した。
だけど違った。
「こんな喧嘩をしたら最低でも停学、もしかしたら退学になるかもなぁ~!それでいいのかぁ?」
クソッ!
喧嘩して満足するんじゃなかったのか?
高校へ通っているのに退学とかシャレにならん。
こんなところで俺の生活をひっかきまわすなよ!
両親はまだ俺の事を見てくれているのにこんなトラブルに乗っかった俺がバカだった。、
いや、こいつろは同じクラスだから今回逃げても付け回されたり家の方に危害を加える可能性もあり得た。
こいつに知られた時点で最悪の始まりだったのかもしれない。
だから最後の抵抗として俺は返事をせずにこの場を離れた。
分かってはいたけどこれで終わればどんなに良かったか。
だけど大官寺は構うことなく俺に関わるようになった、いや大官寺が無理やり連れまわしたが正しい。
何を考えているかは分からなかったが何かあった時の為に俺はノートに書き記した。
それにスマホにも会話を録音してデータを取っておいた。
毎回家に保存してあるから大官寺に消される心配はない。
念のため俺を連れまわす理由を聞いたが
「お前の根性を認めたんだ!」
なんて言っていたが恐らく違うだろう。
ただ、大官寺に反発して殺傷沙汰になるのが嫌だから結局俺は付き従う存在になった。
少なくとも俺にとって大官寺亮典は友達ではない。
それといつの間にか大官寺の捌け口になっていた徳田俊介も同じだ。
異世界に来てからも俺の現状は変わらない。
寧ろ大官寺が力を持ったことで質が悪くなった。
拍車をかけて大官寺は弱者を甚振ることに喜びを持っていた。
大官寺達の様子を見ていた俺は一度だけあいつに求められた。
「助けて。」
だけど俺は応えなかった、差し伸べなかった。
俺を巻き込まないでくれ、もっと穏やかな時間が欲しい。
過去に人を助けることで痛い想いをした、だからあいつのことも助けなかった。
結局俺の関係ないところであいつはいなくなったから良かった、はずなんだ……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
基本的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。
22時頃にもう1話投稿する予定ですのご了承ください。
今回でこの作品が100話に到達しました!
読者の皆様のお陰でもあります、ありがとうございます!
素人の拙い作品であり不定期更新ですが結末まで投稿しますのでこれからもよろしくお願いします。




