付き合った彼氏はなんとバツイチ。しかも前妻との間にドラゴンをもうけていました
いつものように喫茶店で待ち合わせをしていると、彼がやってきた。ワタシがここだよ、と合図を送ると気がついた。どこかよそよそしいのはなぜだろう。
「話ってなに?」
ワタシは早速彼に尋ねた。彼は気まずそうに唇を噛む。テーブル席に座るように促すと、
「ほら、挨拶しろよ」
突然彼の背後からドラゴンが現れた。くりくりの瞳に、ツインテールは非対称。口を真一文字に結んでいる。今にも火を吹きそうだ。
くそう。ドラゴンを飼っているなんて聞いてないぞ。しかも前に奥さんがいたことも知らされてないぞ。心がバラバラになりかけるのを必死にワタシは繋ぎ止めようとする。
「こんにちは」
ワタシは先行で呪文を唱える。しかしかわされた。ドラゴンには効いていない。へこたれるにはまだ早い。すかさず次の手を考えなくては。
「パフェ食べる?ここのチョコレート美味しいよ」
キラキラ光るチョコレートサンデーに釣られないドラゴンなどいるはずはない。ワタシは内心ほくそえむ。
「ねえ、このオバサンだあれ」
直後、目の前が真っ暗になった。
オバサン。オバサン。オバサン。オ、バ、サ、ン。
会心の一撃。ワタシは麻痺して動けなくなった。ドラゴンはコスト無しで強力な魔法を使えることを忘れていた。
「こら、オバサンは止めなさい。ごめんな、見ての通りボクに似てさあ」
彼は額の汗を拭いながら笑っている。もしもドラゴンがこの場にいなければワタシは顔面にお冷やをぶっかけているところだ。
「パパ、これ食べたあい」
ドラゴンは魅惑の眼差しでメニューを指差していた。なんだよ、結局パフェ食うんかい。
運ばれてきた巨大なパフェを大きな口に流し込んでいく様はとても無邪気だ。思わぬ回復作用に救われる。
「ほら、クリームがついてるよ」
とワタシはハンカチを差し出す。
「ん、いらない」
炎を吐かれた。血管が火傷してワタシの体は火照ってくる。これはもう逃げるしかあるまい。
お札をテーブルに叩きつけて、喫茶店を出ようとワタシは立ち上がった。
「え、帰っちゃうの?一緒におままごとしようよ」
ドラゴンは甘い声で囁いた。隣で彼もニコニコしている。ワタシは振り返る。
「じゃあパフェなんて平らげて、おうちでケーキでも作りましょう。今夜はクリスマスなんだから」
するとクリームで口の周りをベトベトにしたままドラゴンが尻尾フリフリ追いかけてきた。
これから骨が折れそうだけれど、まずは髪の結びかたを教えてやろうとワタシは誓うのだった。
ドラゴンは憎たらしくて、愛らしい




