奈落ダンジョン攻略 ⑤
私が超級魔術である氷結世界をドラゴンが倒せるまで魔術を維持していたのだけど、倒す前に私の魔力が切れそうだった。
師匠の話ではこのダンジョンボスであるドラゴンは、氷属性の魔術が弱点であろうと言っていたけど、全身が数十分も氷浸けになっているのに死なないって、このドラゴンはどれだけ生命力が強いのだろう……
『師匠! そろそろ魔力が無くなりそうな感覚です! でも、もう少しなら頑張れそうなんですが、どうしますか?』
『ここまで時間を作ってくれれば十分倒せるじゃろう。それに魔力は無くなりそうな感覚を超えて行使すると無意識で生命力を消費している場合があるから、おぬしみたいな魔力消費量が多い魔術を使う場合は、一気に死ぬかもしれないから止めておくのじゃ』
『えっ、あ、はい』
魔力を使いきったら倦怠感などはあったけど、あれは身体が発している危険信号だったのかな……
私は師匠の指示に従い魔術を止めて、師匠がいる位置より更に後方へと退避していた。
私の使った氷魔術は、魔術を止めても氷などは消えないので、ドラゴンは氷浸けのままの筈なのに、私が魔術を止めた途端にドラゴンを固めていた周囲の氷にヒビが入っていく。
私の魔術ではドラゴンの内部までを凍らす事は出来ず、足止め程度にしかならなかったのかもしれない。
『おぬしはもう少し下がっておるのじゃ、もし少しでも巻き込まれたらあっという間に死ぬぞ?』
『えっ、かなり離れましたけど、これでも近いですか?』
『ふむ、わしも全力では初めて使う魔術じゃからな、念のためじゃよ』
『分かりました!』
私は師匠自身更に後方へと離れたが、視界が悪いのも合わさって、師匠が豆粒位のサイズに見えていた。
師匠がこれから発動させようとしている魔術は、師匠がアンデッドになってから覚えた妖魔属性の即死魔術で、術者を中心とした広範囲に死神と呼ばれる生き物を異空間より召喚して解き放つもので、近くにいる生き物を無差別で生命力を奪い尽くす、超怖い魔術だった。
ちなみに無差別の中には術者も入っているのだけど、もともと死んでアンデッドになっている師匠は、死神の対象外になるから使っても大丈夫と言っていた。
本来は自爆魔術みたいなものだけど、師匠が使えば強力な即死魔術になるという事だけど、問題は発動までの時間が異常に長い上に移動が出来なくなり、準備中に移動してしまうと魔術がキャンセルされてしまうので、ひとりで行動していた師匠にはモンスターに使う機会は今までなかったらしい。
師匠の周囲には遠くから分かる位に嫌な感じの魔力が濃縮されているのが分かった。
あれが妖魔属性の魔術なのか……
私は妖魔耐性の魔術をかけ忘れていたのに気付いたので、急いで耐性魔術を自分に発動させる。
しぱらくすると、私が氷浸けにしたドラゴンが動き出そうとしているのか、氷からバキバキと割れるような大きな音が聞こえてきた。
私の魔力で作られた氷は普通の氷よりも粘度が高いのかです割れにくくなっているはずだから、流石のドラゴンも破壊するのに苦労していると信じたい。
『そこから抜け出そうとしても、もう手遅れじゃな……もう少し弱いドラゴンじゃったら通常の戦いが出来たのじゃが、この魔術でしか倒せないのは残念じゃよ』
師匠はそう言うと、全身から黒い霧のような触手が現れて、最初はうねうねと師匠の周辺を漂っている感じだったが、ドラゴンを発見した途端、触手は一斉にドラゴンへと向かい、私の氷を素通りしてドラゴンの全身に突き刺さる。
何あれ……なんか気持ち悪いかも。
そして、触手の刺さったドラゴンはみるみると身体の色が紫色に変化していき、次第には真っ黒になってしまい、私の氷が破壊されるのと同時にドラゴンの身体は黒い灰の様な物へと変わってしまっていた。