魔術王による魔術解説
私は早く奈落と呼ばれる場所から地上に戻って、一緒に行動していた女子学生2人の手助けをしたいと元魔術王のガイコツさんに話したら、呆れた声の返事が返ってきた。
『奈落ダンジョンはいくつもあるけど、ほとんどが攻略された事がない位の超難易度なんじゃよ? 今回みたいな最下層エリアのみの攻略ですら普通ならば万全の準備をした複数のパーティーが協力しながら半年以上かけてゆっくりとやるものなんじゃ……』
『複数パーティーで半年以上? なら私とガイコツさんだけだともしかして数倍はかかりますか?』
いや、私達は万全の準備すらしてないから、攻略する段階にすら入っていないのかな?
何だか急に私達だけで攻略が出来るのか不安になってきた……
『それはペンギン次第じゃな……そう言えばおぬしの使える耐性魔術は妖魔以外だと何があるのだ? ペンギンは通常属性魔術が使えないから基本的にはわしのサポート役になるじゃろうな』
『えっ、私は耐性魔術以外にも超級氷魔術・アイスブリザード、中級風魔術・ウィンドカッター、治癒魔術・自然治癒が使えますよ』
まあ、元は魔術王と呼ばれるほどの実力者であるガイコツさんにしたら超級の氷魔術が多少は役に立つレベルなんじゃないかなと思っているのだけど……あと治癒魔術も少しは役に立たないかな?
『は? 氷と風魔術に加えて治癒魔術じゃと? ペンギンが嘘を言っているとは思えないが、試しに魔術を使ってみてくれ』
『分かりました』
表情は分からないが、ガイコツさんが何となくびっくりしている気がしたが、私は気にせずにガイコツさんに言われるまま先ほど覚えたばかりの魔術を全て見せる事にした。
『……なあ、ペンギン』
『はい?』
『おぬしは本当に人間なのか? 実は人間になりたい願望のあった生き物が勇者召喚に巻き込まれて人間だと勘違いしているなんてことはないのか?』
『いやいや、私はれっきとした人間ですよ! まあ、着ぐるみは脱げないし喋れないけど……ってあれ? 私って他人から見たら人間に憧れる謎の生き物に見えるの?』
『ふむ、その方がいろいろと納得は出来るのじゃ。まず、大前提として人間には生まれながらに持っている属性の魔術しか使えないのじゃ……それはわしとて生前では例外ではなく、光属性の魔術しか使えなかった』
『えっ、1種類のみ……?』
確かに言われてみたら、この世界で出会った騎士達はみんな1種類の属性しか使っていなかった気がするな……唯一、リーダー格の騎士が炎っぽい属性の魔術の他に魔術石を使って氷魔術を使った位かな。
『そうじゃ、そして2種類以上の魔術を使える者はわしみたいな不死者や異形者、魔族など生まれながらにして複数属性を使えたり、他人の属性を移植などをして取り込んだ者しかいない筈なのじゃよ』
『……ええ、じゃあ、私は人間じゃないの?』
地球での記憶は鮮明に覚えているから、人間だという自信があったのだけど、ガイコツさんの話を聞いていると不安になってきた……
『……これはわしが今考えた憶測なのじゃが、ペンギンは何故勇者召喚をされたか分かるか? しかも、おぬし達が住んでいた場所では魔術などなかったじゃろ?』
『確かに私達の住んでいた地球では魔術なんて空想上の話でした』
『そうじゃろうな、はっきりとはされていないのじゃが、魔術適性とは生まれた時の魂と呼ばれるもののレベルが高さにより決まるとされているのじゃが、勇者召喚をされた際に、召喚された人間は必ず異界の狭間と呼ばれる異空間を通るとされているのじゃが、異空間を抜け出す際に魂のレベルを上げられる者がいるのじゃが、この世界に召喚された瞬間が生まれた時の魂と世界が誤認してしまい、魔術適性が異常に高い人間が誕生するのじゃ』
『その魔術適性が異常に高いのが勇者?』
『そうじゃ、そしてここからがわしの憶測じゃが、おぬしは着ぐるみとか呼ばれるものを着ていた状況で異空間を抜け出す際、世界に異形者として誤認されてしまったのではないのかの? それならば人間の知識がありながら高い耐性の身体を持ち、複数の属性を使える事にも説明が……つくかもしれない』
『最後は自信が無さげなんですね……』
『可能性の話じゃからな』
って事は、ガイコツさんの憶測があっているとしたら、私が話せなかったり着ぐるみが脱げないのは世界が誤認したから?