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第六話 妹のために

 ラピス王女と勇者ギアの話を聞き終えた俺はしばらく冒険者ギルドに滞在し、目ぼしい者がやってこないかどうか酒場で見張り続けた。

 しかし今日やって来た者の中では最高でもBランク。……とてもではないがS級ダンジョンに耐えられない。

 ……はあ。あの二人が仲間になってくれればどれだけ心強いか。もちろんラピス王女と勇者ギアのことである。

 ラピス王女については優秀な白魔道士。そしてギアは勇者。二人が俺のパーティに入ってくれたら、それこそこれ以上ないほどのパーティメンバーを得ることになるのだが……。

 ……まあ、有り得ないか。あの二人にはそれぞれ重い使命が与えられている。特にギアに関しては勇者が他のパーティに入るなんて前代未聞のことだ。

 ……はあ。惜しいな。本当に惜しい。

 そうやってため息を吐いていると不意に声が掛かる。


「アニキ。ため息ばかり吐いて……どうしたの?」


 ハッと我に返った。見ればオーピィが心配そうな顔でこちらを見ている。

 そういえば今はオーピィの部屋で夕食の途中だった。オーピィは例の病気のせいで動けないので、夕食は彼女の部屋に料理を運んで二人で食べることにしていた。

 本当はクロも一緒に食べようといつも誘っているのだが、彼女は「メイドが主人と同じテーブルに上がるなど有り得ません」と言って頑なに断っていた。それと「せっかくの兄妹の水入らずの邪魔をしたくもありません」とも。変な所で義理堅い女性である。

 そんなわけで今オーピィと二人で食事中だったわけだが、俺が考え事をしていたのでオーピィに心配をかけてしまったようだ。


「あ、ああ。何でもないよ」

「……もしかしてパーティメンバー集め上手くいってないの?」


 ……まさしくその通りである。

 しかし妹を不安がらせるわけにはいかない。


「……そんなことない。めちゃくちゃ凄い奴を二人も見つけた」

「え、ほんとに?」

「ああ、本当だ」


 ウソは言っていない。見つけたのは本当である。

 今はただ妹を不安がらせたくない。


「任せておけ。絶対にエリクサーを取って来てやるから」

「……本当に?」

「ああ。だから安心して待ってろ」


 俺は自信満々にそう言ってみせる。その想いは間違いなく本当だ。

 だが、ふと、オーピィの笑顔に影が差す。


「……あのさ、アニキ。あまり無理しないでね?」

「え?」

「あたしのせいでアニキが自分の好きなこと出来なかったら、あたしは死んでも死にきれないよ……」


 オーピィは今、切実な顔をしていた。怖いくらい真剣に。

 ……俺はバカだ。結局は妹を不安がらせてしまった。

 オーピィは俺の真意を見抜いたのだ。つまりパーティ集めに苦戦していることを見抜かれてしまったのである。

 俺たちの間に……妹に、建前は通じない。それを今思い知らされた。

 俺たちは兄妹なのだ。兄妹の間に嘘の言葉は通じない。


「オーピィ……」

「……なあアニキ。いっそのことあたしのことなんて見捨ててくれないかな……」

「な、なにを……」

「あたしは感謝しているんだ。血も繋がっていないあたしなんかのために、ここまで大事にしてもらって……。もしアニキに出会えなかったらとっくにあたしは死んでいたよ。だから感謝しかない。感謝しかないからこそ、これ以上アニキの負担になりたくないんだ……!」


 オーピィは涙を流していた。

 果たして……それはどのような涙か。

 ――自分が足手まといになっている悔しさ。――本当はこんなこと言いたくなかったという悲しさ。――本当は俺のことが好きだという想い。――だからこそ迷惑かけたくないのだという辛さ。

 その全てが彼女の瞳から流れ落ちている。

 彼女の涙を見て俺は自分の不甲斐なさに腹が立った。兄なのに、妹を助けてやれない自分に嫌気がさした。

 ――同時に、俺はある決意をした。

 どんなことをしてでも妹を助け出す決意を。


「オーピィ。泣くな」

「……え?」

「最終的に全部上手くいく。俺が全てハッピーエンドにまとめてやる」


 俺がそう言い切ると、オーピィがぽかんとした顔をした。

 涙の残るその顔で、じっと俺の目を見てくる。


「俺が嘘を言っていると思うか?」


 そのように訊くと、ややあってからオーピィの顔に笑みが浮かぶ。


「ううん。言っているとは思えない」


 その通り。俺は嘘は言っていない。建前も使っていない。

 何故ならそれは本気の想いだからだ。

 絶対になんとかしてみせる。

 そう。俺は最初から選択肢を狭めていたのだ。有り得ないことだと考えてしまっていた。

 ――まだあの二人に聞いてすらいないのに。

 だったら俺はどんな手を使ってでも……いや、真っ直ぐぶつかるだけだ。

 それで絶対に……。


「だろ? 最後にはみんな幸せだ。俺に任せておけ」

「不思議だな。アニキがそう言うと、本当にそうなりそうだから凄いよ」

「そうするんだよ。これまで俺が嘘を言ったことがあるか?」

「あるよ」

「ええっ!?」


 何故か俺が驚くことになってしまった。


「え、な、なにしたっけ……?」

「……覚えてないの?」


 オーピィはあからさまに不満そうな顔をした。


「ご、ごめん。覚えていない。教えてくれないか?」

「やだ」

「ええっ? た、頼むよ」

「やだ。教えなーい」


 オーピィはぷいっと顔を逸らしてしまう。

 が、オロオロする俺を横目でちらっと見ると、ぷっと吹き出した。


「あははっ、変なの。さっきまでアニキに迷惑かけたくないとか思ってたのに、今は困っているアニキを見るのが楽しいや」

「お、お前なあ」

「ごめんごめん。でも……ありがとねアニキ。あたし、アニキの妹で本当に良かったよ。あたし、幸せだよ?」


 オーピィの瞳には再び涙が溜まっていた。それを見て俺ももらい泣きしそうになるのをグッと堪える。


「な、なに言ってんだ、今さら」

「あ、照れてる?」

「て、照れてないって」

「あー、照れてるー。アニキの照れ顔、珍しー」


 そう言って顔を覗きこんでこようとするオーピィから必死に逃れる俺。

 そこには先程までの陰鬱とした雰囲気はない。

 俺は妹とこうしている時間が一番愛おしい。

 ――この時間を失いたくない。

 だから俺は、絶対にあの二人を……。




明日も22:00までに投稿します。

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