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第二話 マイパーティ

 エリクサーは回復薬の最高峰であり、どんな病気も怪我も一瞬にして治してしまう『神の霊薬』である。

 エリクサーを超える回復薬はこの世に存在しない。

『精霊水』である奇跡の雫でも妹の病気は治らないのなら、もう『神の薬』と呼ばれるエリクサーに頼るしかないだろう。

 だが、オーピィは不安そうに訊いてくる。


「……エリクサーはどこで手に入るの?」

「『神の祠』だ」


 オーピィが顔を青ざめさせる。


「『神の祠』といえば難易度S級ダンジョンじゃないか! そんなのいくらアニキでも無理だよ……!」


 未だかつて誰もクリアしたことのないダンジョン。それがS級なのである。

 今回俺がクリアしてきた難易度A級のダンジョンは最難関ダンジョンではあるものの、あくまで誰かによって一度クリアされている実績があるものだ。

 しかもS級の中でも特に難易度が高いダンジョンが七つあり、『神の祠』はその七大ダンジョンの一つだった。

 ちなみに負のマナの集合体であるモンスターは、マナが濃いところの方が当然強い個体が生まれる。

 ダンジョンは深ければ深いほど……難易度が高ければ高いほどマナが濃くなる性質がある。

 噂によると七大ダンジョンはマナの濃さが別格らしい。

 恐らく、あのベヘモスが比較にならないほど強いモンスターがいると考えた方がいいだろう。


「確かに『神の祠』は俺一人で攻略するには厳しいだろうな」

「……や、やっぱりそうだよね……」

「だから今回は仲間を見つけてパーティを作ろうと思う」

「……へ?」


 オーピィが呆気に取られた顔をする。


「……仲間を見つける? アニキが?」

「ああ」


 オーピィは愕然とした表情になった。


「コミュ障で、人見知りで、基本的にあたしとクロ以外の人とはまともに喋れないアニキが!?」

「……うるさいよ」


 ……失礼な奴だな。

 でもオーピィが言う通り、俺は人と話すのが少し苦手だ。

 だけどしょうがないだろう? 俺は賢者になるくらいずっと引きこもって勉強ばかりしていたのだから。それに何より俺はスライムなのだ。人と喋れるだけ奇跡だと思う。

 しかし実際『神の祠』を攻略するには強力な仲間がいないと無理だ。

 俺がそう言うとオーピィは腕を組む。


「でもさあ、高ランクの冒険者って既に同ランクの仲間とパーティを作っているものだよね?」

「そうだな」

「しかも超が付くほどのコミュ障のどうしょうもないアニキを受け入れてくれるくらい心が広い冒険者じゃないとダメだし……そんな人いるわけないよ! やっぱり絶望的じゃないか!」

「おい、さりげなく滅茶苦茶失礼なことを言うな……」


 この子、何気に辛口なんだよね……。

 と思ったら、今度は上目遣いで申し訳なさそうな顔を向けてくるオーピィ。


「あの……ごめんね、アニキ。あたしのせいで……」


 強がっていても結局こいつはこういう奴なんだよな。


「心配するな。これでも俺は『青賢者』で名が通っているんだ。パーティメンバーくらいすぐに見つかるよ」

「……本当に大丈夫?」

「お前は色々と気にし過ぎなんだよ。もっと兄に甘えろ」


 そう言って俺はオーピィの髪をくしゃくしゃと撫でてやる。


「わー、やめろ! 髪型がめちゃくちゃになるじゃないか!」

「いいじゃないか。久々に会った兄妹なんだからスキンシップくらいさせろ」

「セクハラです。ご主人様」


 うおっ!? 気付けば首元に鋭い爪を突きつけられていた。

 この声はクロか!? い、いつの間に俺の後ろを取ってたんだ!?

 俺はスライムなので首を掻っ切られたくらいでは死なないが、しかしまさか俺に気付かせないくらいに気配を絶つとは……。

 さすがはクロと言わざるを得ないが、取りあえず俺は文句を言うしかなかった。


「あ、あのさ、クロ。ご主人様の俺の首に爪を突きつけているこの状況はどうなの……?」

「私はご主人様よりオーピィ様のことを頼まれております。そのオーピィ様に不埒をする輩は例えご主人様でも排除いたします」


 ……だからどうなのそれ? 

 でもクロはそれほどオーピィのことを大事に想ってくれているのだろう。少しやり過ぎな気もするが……。


「わ、分かった。俺が悪かった……」

「分かっていただけて光栄です。気を付けてください。私としても雇い主がいなくなるのは困りますので」

「う、うん。本当にごめん……」


 何か釈然としなかったが素直に謝った俺は偉いと思う。

 クロは俺の首元から爪をどけて、一礼してからまた部屋を出て行った。


「………」


 うん。一人目のパーティメンバーはあいつに決まりだな。




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