第二十七話 それぞれの道
俺たちはギアを囲んでいた。
ギアは床に横たわり、指一本動かせないほど衰弱している。
あの一撃をまともに受けたのだ。ダメージは大きかろう。
ギアは力なく笑った。
「ひどいなぁ、ネル……ぼろぼろだよ……」
「俺を殺そうとしていた奴が何を言う。その程度で済んで恩の字だろ」
「……まったく、ネルは厳しいね……」
やはり弱々しく笑うギアに俺は告げる。
「俺の勝ちだ。約束通りこの世界を滅ぼすのはやめてもらうぞ」
「……そうだね。僕の完敗だ。さすがにこれ以上恥を晒すことはしないよ」
ギアはため息を吐く。
「これからどうしようかな……」
「俺たちと一緒に来い」
「……そうはいかない。けじめはつけなければいけないからね……」
そのセリフに俺は歯がゆく思う。
「つまんないことにこだわってんじゃねえよ! 俺と一緒に来い! 仲間だろうが!」
俺はギアに触手を差し伸べた。
ギアは大きく目を見開いてそのスライムの触手を見つめている。
ややあってから目元がふっと笑った。
「ネルは嫌になるほど優しいね……」
その皮肉めいた言い方に俺も笑うしかなかった。
「こんな時まで皮肉かよ? ほらいいから手を出せ」
「……本心なんだけどな……。ところで申し訳ないけど指一本動かせないんだ。少し手を貸してくれないかな?」
「ああ、分かったよ」
俺はギアに少し近付いて、もう一本触手を出して抱き起そうとする。
しかし――その瞬間だった。
「ネルは優しいよ……でも、甘いね」
「え?」
ギアの手が急に伸びてきて、触手を引っ張られ引き寄せられる。
そしてスライムのボディにギアのパンチが埋まっていた。
「ぐはっ!」
あまりの不意打ちに俺は避けられなかった。衝撃がコアまで響き俺は意識が薄くなる。
俺はそのまま引き寄せられてギアに耳打ちされた。
「ネル……その甘さがいつか命取りになる。気を付けて……ラピス王女が隠し事をしているのは本当だから」
ギアは俺を手離し、俺の体は地面にずるりと落ちた。
「ネル様!」
「ネル殿!」
「ご主人様!」
ラピスとリリィが駆け寄ってきて、クロがギアに向かって短剣を振りかぶる。
そこまでは見えた。
しかし――そこで俺の意識は闇に沈んだ。




