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  作者: もう
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第一章

日曜日は、彼女に会いに行く日。

特別なことではない、明日がいつもやってくるように、今日は日曜日、そしてこれは日曜日の行事。

学生寮から街の外れにある彼女の家へ行く、何かを届けに行くわけでも授業を受けに行くわけでもない、ただそこへ行け、という先生からの指示だったからだ。それをいつからやってきたのだろうか。もう覚えていない、数えてもいない、そもそも物を数える習慣が僕にはないのだ、それが自分のことになるとなおさらだ。

ただ僕は先生のことを何でも聞く良い子なのだ、周りの人もいつもそう言っている。


鳥の鳴き声が聞こえる。

ドアのかぎがちゃんとかけてあったことを二度確認してから出発した。

小川が横に眺める階段を降りる、足取りは軽快。手ぶらだけれど、手ぶらのせいではない。

気分が軽やかからだ、早起きしたおかげかもしれない。

早起きした一日は、長く感じられる。

それで実際に何かをやって、余った時間を有効活用できたわけでも決してなかったけれども。


街中はほとんど無人で、道中会った生き物は柴犬二匹。

公園を通った時、遠くに子供がはしゃぐ声が聞こえる。

一瞬、自分もその中に加わりたい気分がおこった。

すぐには収まらなかったけれど、なんとか我慢する。

そして、彼女が待ってくれている姿を思い浮かんだら、おのずと足早になった。

何でだろう、ダメなことだと分かっているのに、自分はそんなに遊びたいのか、と思った。

そっちに行けば、何か良いことが起こる予感がして落ち着かなくなる。

でもそういう種の予感は大体あたらない。僕の経験上では、予想外のパターンがほとんとで、そこから学んだことは、我慢が大事ということである。

うーん、余計な事を考えている。

今日の僕は浮ついているようだ。


街はずれにある森に近づく、うっそうとしている。

夜になると真っ暗になって怖いだろうなと思いながら、森の小径に入る。

そして彼女のことを考えた。

やさしくて、とても落ち着いた人。

いつもは、ご飯を作っているか机へに向けて本を読んでいるかなので、大体は僕に背を向けている姿だった。

そのためか、彼女の顔をしっかり覚えてはいない。

なんで先生がそんな指示を出したのかは分からない、理由がどうしても知りたくなった時にでも聞けばいい。

今は、別に嫌でもないし、そこが居心地が良いのだ。

森を抜けそうになったところで小径が二つに分かれ、そこを左へ歩く。

周りが低くなった。この辺は家が少ない。だから彼女の家もすぐに見つかる。最初に来た時も、僕としては珍しく苦労せずに辿り着いたものだ。その時のことは今でも不思議に思っている。


もう行き慣れた道順を辿り、彼女の家の前につく。


「いらっしゃい」

いつも、彼女が戸を開けてくれる。

「今日も早いですね」

と彼女が優しい声で言う。

きっと、部屋の前を通る姿を窓から捉えていたのでしょう。でもそれを彼女は言わない、これは彼女の優しさの一つだと僕は勝手に解釈している。もちろん、僕もそれを言わない。



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