神さまの戯れ
今日はクリスマス……のはずなんですが……なんなんですか、この状況は……
私、白塚清香は目の前の状況を整理できず、呆然と立ち尽くしていた。私は状況を整理するため、数分前のこと思い出してみる。
―――数分前。
私は最高の冬休みを過ごしていた。いや、正確には『ぐうたらな生活』をしていた。
私の冬休みの生活と言えば、お昼近くまで寝て、朝食ではない朝食代わりの昼食を食べ、漫画を読んだり、パソコンをやったり、気が向けば本屋に行ってみたりと、それはそれは私としては最高の冬休みだった。
そんな中、昨日の夜、久し振りに友達とカラオケにでも行こうか何て言うことを携帯で話、私としては珍しく少し早めに起きて、『たまには……』と思い、普通は余り着ない服を出してみたりと、友達とのカラオケを心待ちにしていた。
そんな時、私の目の前に女の子が現れた。
「呼ばれて☆ 飛び出て☆ ジャジャジャジャーン♪ 福の神、福ちゃんの登場ですぅ♪」
と言って現れたのは、ふわふわ髪にクリックリな可愛らしい丸い瞳、大きさは手の平サイズで、雲に乗った女の子だった。
私は突然のことで、体が硬直した。女の子は不思議そうな顔をする。
「あれぇ~。反応ありませんねぇ。おーい、あなた、白塚清香さんですよねぇ?」
女の子はオタクがいう萌えな仕草で私に聞いてきた。
数秒後。
「誰ぇー!!!!!?」
「やっと反応しましたぁ。立ったまま気絶でもしたのかと思いましたよぉ」
私は持っていた服やアクセサリーを落とし、後ずさりした。
「誰?女の子?つか、どうやって?いやいや、そもそも何この状況っっ!!!というか、現実?」
「現実ですよぉ。試にカッターでも使いますかぁ?」
女の子はどこから取り出したやらカッターを私に渡してきた。
「いやいや、この状況がわけ分んないからって自殺はしないよぉ?というか、現実かどうかっていうのは普通頬つねるとかじゃないの?」
あーもう、なんなのこの状況はーー!!!
心の中で叫ぶが、状況は変わらず、自分を冷静にするため、試に頬をつねってみた。
うん、痛い。ということは、一応これは現実ということ―――らしい……。
「はぁ現世では頬をつねるんですかぁ。初耳です」
「カッターで試す方が初耳だよっ!というか、誰?」
「私の名前は福の神、福ちゃんです」
自称:福の神、福ちゃんは可愛くポーズをとり言った。というか、福の神?
「福の神?と言うことは、神様?」
「はいですぅ」
「自称:福の神様が何故ここに?」
「何を言ってるんですか!私は本当に福の神なんですよ。そもそも、自称ってなんですかっ!」
自称:福の神様はそう言って、小さな雲の上でじたばたした。しかし、小さくて可愛いのでちっとも怖くない。
「はいはい、分りました。で、何の用があったんですか?」
「フッフッフ。良くぞ聞いてくれました!ズバリ!あなたを天界に連れて行きます!」
「おぅ、なるほどー……って、納得するかぁ!というか、天界っ!!!?」
「はいですぅ。今天界では神たちと悪魔たちが争っているんですぅ。つまり、戦争ですねぇ。で、神たちは勝利を手にするため、神様の方々が平等且つ、ランダムに現世から人間を一人選ぶのです。そして、あなたは選ばれた人間なのですぅ」
自称:福の神様はパチパチパチ~と手を叩く。
「待った!天界?神と悪魔の戦争?何それ。なんかのゲームの内容?私が選ばれたって?神は全知全能で、不可能なことはないんじゃないの?悪魔たちに勝つなんて朝飯前でしょ?」
「確かに。神は全知全能ですぅ。なので、現世にいる貴方の名前を知っているのはあたりまえのようなものです。けれど、神は全知全能だとしても、万能ではありません」
『それは、人間も神も同じなのですよ』 私はその言葉が妙に心に響いた。
「では、説明も終わりましたので、早速天界に行きましょう♪」
自称:福の神様は高々と人差し指を上げると、その先から光が溢れ、私の部屋を光が包んだ。
「えぇぇぇぇぇえええええー!!!!?」
私は悲鳴とも叫びともとれぬ声をあげ、光の中に飲み込まれた。
そして、今にいたるのだった―――。
***
空は同じだった。青々とした、雲一つない空。けれど私は、その空に不気味なものを感じていた。
ゆっくりと目線を下げる。すると、そこに広がっていたのは雲海だった。
「えー、これを現実だというのでしょうかぁ……というか、ありえないって」
雲海の上に煉瓦造りの家が立っている。私は雲の上に立っていて、足踏みすると、フワッフワな布団の上にいるみたい。
今まで経験してきた常識からはかけ離れている……本当に、なんなんでしょう、この状況は……
「これが、さっき言ってた天界……?」
「そうですよ」
いきなり後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。
「えーっと。すみませんが、誰ですか?」
「あら、忘れちゃいましたか?」
女性は微笑む。私はじーっと女性を見る。髪の色、目の色が誰かと同じのように見え、ようやく思い出した。
「自称:福の神様!」
「まだ自称をつけるんですね」
女性は苦笑いする。
「それと、言い忘れていましたが、私の名前は『福ちゃん』でもいいのですが、『福音』と言う名前があります」
「ふくね?福音ってかいて、ふくね?」
「はい」
「あのさ、聞いていいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「ついさっきまで、自分のこと『福の神、福ちゃんですぅ♪』って、あんなハイテンションで言っていたのに、今は落ち着いてるの?それに、姿も変わったみたいだけど……」
「それは、現世に行った時の副作用のようなものですので、余り気にしないで下さい」
「副作用かぁ……神様にもあるんだね。で、私は神様の方々に選ばれ、福音にここまで連れてきたわけですが、私はどうすればいいの?」
「まず、今回の戦争の指揮などをしている神の方々に会いましょう。私が案内します」
福音はそういうと私の手を握り、何かを唱えた。すると、また私たちは光に包まれた。
目を開けると、私たちは宮殿と思われる建物の前にいた。扉は大きく、私の身長の五倍はありそうだ。
「ここが今回の戦争で指揮などをしている神の方々いる宮殿です」
福音はそういった。私はへーと感心したようにいい、大きな扉を見上げる。すると、突然扉が動き出した。ギギィーと音を立てて開いていく。
「こちらです。付いて来て下さい」
福音はそういい、私の前を歩く。私は言われるがまま、福音についていった。
宮殿の中は物凄く広かった。煌びやかな飾りがあちこちに施されている。
しばらく歩くと、再び扉が現れた。先ほどの扉よりは小さくなったが、それになりに大きかった。その扉もギギィーと音を立てて開いて行く。
扉の向こう側には、六人ほどの老人がいた。多分、この人たちが神様の方々なのだろう。
「神の皆様、白塚清香を連れてきました」
福音は片膝をつき、胸を手に当て深々と頭を下げていった。
「うむ、福音、ご苦労であった。下がってよいぞ」
「はい」
福音はそう言うと立ち上がり、私の横を通りすぎていった。
「おぬしが、白塚か?」
白髭印象的なおじいさん。よくアニメや漫画などで出てくる神様に似ていた。
「はい」
「良くぞここまで参った。早速だが、本題に入る」
「えっと、一つ質問良いですか?」
「良かろう。何だ?」
「今回戦争してるそうですが、実際にどこでやっているんですか?」
私がそう聞くと、神様たちが何を言ってるんだこいつはと言いたげな顔で見てきた。私は気にせず続ける。
「私は戦争と言うものを体験したことはありませんが、少なからず家が倒されていたり、爆音が聞こえてきたり、そう言ったものがあるのかと思っていたんですけど、実際来てみたらそう言ったものがなかったので、実際どこでやっているのかな……と」
「それか。確かに、人間達はそのような戦争を想像するのか。しかしな、我らはそういう戦争はしておらん。まぁ戦争はしているが」
神様そう言った。しかし、意味が分からない。
「意味が分からんようだな。分りやすく言えば、ここではない場所で行っていると言うことだ。それだったら分るか?」
「……はい」
「それでは本題だ。直球だが、おぬしに悪魔と交渉してもらいたい」
「はい、いいですよ………となるとでも思いますか?悪魔と交渉?」
「そうだ。人間に悪魔と交渉してもらい、悪魔が交渉に合意すれば我らの勝ち。しかし、交渉が決裂すれば、我らの敗北と言うことだ」
「簡単のようだが、我らが勝利するかどうかが、おぬしにかかっていると言うわけだ」
「そんな重要なこと、人間に委ねてどうするんですか!交渉の上手な方にお願いしてくださいよ!」
「おぬし、福音から聞かなかったのか?神は全知全能だが、万能ではないと。我らに交渉に長けている者がおらぬ。だから人間から選んだのだ」
「だからと言って私じゃなくても……」
「ランダム且つ、平等にやったらおぬしだったのだ。我らが当てたのだ。間違いはない」
なんだか、言ってることがムチャクチャだな。色んな意味で……私は溜息を吐いた。
「で、一つ聞きますけど、私が交渉して結果、勝利を掴むことができたのなら、私はもとの場所へ戻れますよね?」
「うぬ。喜べ、もしおぬしが交渉に勝利したら現世に戻れるだけではなく、我らが一つだけおぬしの願いを聞いてやろう。しかし、おぬしが交渉で敗北した時は、本当に地獄の底に突き落としてやるぞ」
私はその言葉が本当のように感じて、数歩後ずさりした。
「では、悪魔との交渉の内容だが……」
それから数分間、悪魔との交渉の内容を聞いたり、悪魔がいるところまでの道順のようなものを聞いたりした。
本当に、私がこんなことを任せられて、良かったのかが未だに疑問なんですが……
そして、今、私の目の前には、黒々とした空を背にした、黒光りしている大きな扉がある。そう、ここは、悪魔がいる場所。
「ここで、良かったんだよね。それに、いかにも悪魔が住んでいますよぉって感じだし……」
私はそう言うと大きく深呼吸をし、よし!と気合を入れると、思いっきり扉を押した。
扉はゆっくりとギギィーと鈍く、低い音を立てながら開いて行く。見た目ほど、扉を重くなかった。
そしてようやく、私が通れるほど開き、私は少し怖がりながらも、歩を進めた。
しばらく歩くと、木でできた扉があった。私はその扉をあけようと扉へ手を伸ばす。扉は先ほどとは違い、普通の扉のように開いた。
「すみませーん」
中は暗く、ほとんど何も見えなかった。 すると、突然近くにあった蝋燭に火がついた。
「やぁ、いらっしゃい。待っていたよ」
次々に蝋燭に火がついて行く中、階段を下りながら誰かがそう言った。
全ての蝋燭に火がつき、当たりがよく見えると、さっき言った人が見えた。
階段を下りる、男の人がいた―――。
黒いような、青いような、そんなような髪に、金色の瞳。見た目、二十代後半ぐらいに見える、普通の人だ。
「やぁ君が、白塚清香……だね」
優しい声が響く。私は少し驚いていた。私が思っていた悪魔とは違っていた。全然違っていた。
「おや?何をボーっとしているんだい?」
「え?あ、あの。あなたに交渉しに来ました」
「ほぉ、珍しい客人が着たかと思えば、交渉か。いいよ。ゆっくり話をするとしようか」
男の人は優しい声でそう言い、階段を上って行く。付いて来て……と言う意味らしい。
「本当に、久し振りだったんだよ、客人が来るの。何年ぶりかなぁ」
男の人は楽しそうにそう話していた。私は曖昧な相槌を打ちながら、恐る恐る男の人に付いていっていた。
しばらく歩き、男の人は一つの部屋のドアの前で立ち止まり、優しい表情を浮べ、どうぞと私を部屋の中へと入れた。
中は普通の部屋だった。いや、表現がおかしいな。私が思っていたのは、もっと広く、いるのも苦労するぐらい気味が悪い部屋かと思っていたけど、部屋の中は昔のヨーロッパ貴族の部屋。そんな感じだった。
私は呆気にとられ、ボーっとドアのところで立ち尽くしてしまった。
「どうしたんだい?」
私は男の人にそういわれ、やっと我に帰った。
「いえ、何でも……」
「そう。じゃぁこっちに座って、早速交渉の内容を聞かせていただこうか」
「……はい」
私は男が座る椅子の前にある椅子にすわり、神様たちから聞いた交渉の内容を話した。
「ふむ、内容は分った。……しかし、僕はその内容に合意することはできない」
「何故です?あなたにとって、悪い話ではないはずですが……」
「確かにそうだ。しかし、今回の交渉に合意することはできない」
「……」
私は口を噤んでしまった。だから私は無理だったんだ。何故私なのだろう?苛立ちや絶望に似た虚しさ、申し訳なさなどが溢れ、頭がどんどん混乱していった。
頭の中で、神様たちや福音、目の前にいる悪魔の言葉がぐるぐると駆け巡る。
すると、私は一つ気付いた。
「あの……交渉とは関係ないんですが、質問して良いですか?」
「いいよ」
「今回の戦争は、どちらが優勢なんですか?」
「どちらが優勢か?そんなことどうするんだい?君には関係のないことじゃないのかな?まぁいい、今回はこちら側、つまり悪魔側が優勢かな?」
「そうですか。それでは、今回があったということは、前回もあったんですか?」
「……何のことかな?」
「とぼけないで下さい。神様たちとあなたたち悪魔は、戦争という名のゲームをしているんじゃないですか?」
男は怪しげな笑みを作る。私は自分の中でできた答えを話していく。
「始め疑問だったのは、戦争をしている場所。
神と悪魔の戦争と言っていたから、私は憎しみに溢れた世界になっているのかと思っていた。けれど、それは違っていて、神様たちは『ここではない場所でやっている』と言った。
そして、神様たちは『我らに交渉に長けている者がいないから、人間の中からランダム且つ平等に選んだ』そう言った。ここでも、私は疑問を覚えた。何故緊迫感がある戦争なのに、神より貧弱と思われる人間を選ぶのか。何故人間を選ぶ際の方法が、安易過ぎるのか。何故神様たちは悪魔と交渉しなければならないのか。
それに、神様たちは何度もこの言葉を口にしていた。私を連れてきた福音さえ言っていた……」
私は椅子から立ち上がり、窓の方へと進む。そして、くるりと回り、男……悪魔の方を見る。
「今回の戦争……と」
ちょうどよく、雷が鳴った。男は相変わらず、怪しい笑みをつくり私を見ていた。
「戦争をしているとき、今回の戦争は……とは言わないように私は思う。
今回があったのなら、前回も戦争があった。私はそう思った。最初、そう思ったとき私はただの自分の勘違いかと思った。けれど、神様たちの話を聞いたり、あなたの話を聞いたりして確信できた。
あなたたちは、気まぐれに戦争という名のゲームをしているのだと」
すると、男は笑みを深くした。
「君は、興味深い人間だね。さすがというべきかな」
男はそう言うと立ち上がり、私に歩み寄ってきた。
「交渉に合意しよう。我らの負けだ」
男はそう言い、優しい表情で微笑み、私に握手を求めてきた。私はそれに応じ、右手を出した。
「君が言った通り、我々神と悪魔は戦争という名のゲームをしている。
ルールは簡単で、百対百で兵士を決め、相手の王と呼ばれるものを倒せば、ゲームは終了。途中、自分の勢力が弱まり、危うくなった場合、『人間』という切り札を使う。つまり、人間界から人間を一人選んで、相手に交渉を応じさせる。そして、後は君が彼らから聞いたことと同じ。合意すれば勝利。決裂すれば敗北。
毎回、交渉の内容は変わるのだけれど、今回はルールが一味違っていたからかな?
彼らは前回と同じ交渉内容だったね」
男は優しく笑った。本当に、普通の人に見えるのが不思議だった。
「じゃぁ話はこれで終わり。彼らの所まで送ってってあげるよ」
「え、あぁ。ありがとうございます……」
男は私をお姫様抱っこで抱き上げ、何かを唱えた。すると、男の背中から黒い翼が生え、部屋の窓を開けるとそこから飛び立った。
「えぇぇぇええええ!!!」
私は叫ぶが、男は優しく笑っているだけだった。
あっという間に、神様たちがいる宮殿へと着いてしまった。私が行くときは戻ってくる時の十倍の時間はかかったのに……
宮殿の前で、福音が私に向かって手を振っていた。その他に、若い男の人が六人ほどいた。
静かに降り立ち、すぐさま私は福音の方へと駆けた。
「おかえり、清香。あなたは勝ったようですね」
微笑みながら福音は言った。私もただいまと返す。
「ねぇ、そっちにいる人たちって……」
「はい、神の方々ですよ。あの老人だった」
私はあんぐりと口をあけてしまった。何となく、今回の事は気まぐれな神様たちのことだからと予想はしていたけど……見た目70代の老人から、いきなり20代の人になられると、いくら予想していても、結構驚くものだ。
「それでは、今回の戦争ゲームは俺らの勝ちということで。では、白塚清香を人間界へと戻すこととしよう」
「最後に一つ、何か願うことはない?」
急に私へ視線が集中する。いきなりそんな事を言われても…… 私は困り、何かないか考えてみる。
「じゃぁ……」
「じゃぁ?」
「何もいりません」
「? どういうことかな?」
「こんなチャンス、ないかもしれないんですよ?いいんですか?」
「はい。私は何も望みません。だから、早くもとの世界へ戻してください」
「………」
私の答えに、全員戸惑っているようだった。
「君は、それで良いんだね?」
「はい」
男は納得したように微笑む。そして、神様たちの方へと向くと、分ったと言った。
「しょうがない。お前の言う通り、このまま人間界へ戻してやろう。それで、本当にいいというのなら……」
神さま六人が私を囲み、何かを唱え始めた。
「あなたは、本当に珍しい人ですね。また、人間界に遊びに行きますね」
「できれば、私が驚かない方法でね」
「……考えてみます。 では清香さん、お元気で」
福音が優しい表情で手を振る。私のそれに返す。私の体が光に包み込まれ始め、皆が私に手を振った。
目を覚ますと、いつもの私の部屋だった。
まだ朝早いらしい。部屋の中が薄暗かった。
目をこすり、枕の傍に置いてある目覚まし時計を見ると、私が友達とカラオケに行く時に起きた時間と同じだった。試に、自分の携帯を開いてみる。
すると、カレンダーには『友達とのカラオケ!』と書いてあるのと、染まっている日にちが重なっていた。
「……ということは」
今日は、福音に連れて行かれた日か…… それを思うと、なんだかおかしく思った。
時間が戻って、この時間というわけか。 これは、神様たちの親切な行為なのか、それとも元々そうなるのか。 どちらにしろ、私は嬉しかった。
「それじゃぁ、着替えよう」
そう言って私はベッドから出る。すると、何かを踏んだ。そこには、一枚の紙が四つ折にしてあった。
私はそれを、開いて読んでみた。
『 これを読んでいるということは、無事に戻れたということですね。安心しました。
あなたがも戻ったのは、あなたが約束していたカラオケの日の朝です。
これは、我らからの、ちょっとしたおまけです。あなたは本当に珍しくて、面白い人で した。あなたを神の方々が気に入ったようです。
これもちょっとしたおまけですが、たびたび、私や神の方々、または悪魔の方々があ なたの夢に出てくるでしょう。そのとき、何か願うことはないか?と訊ねます。
もし、何か願いがあるのなら、その時願うといいでしょう。 あの時願わなかった分、 だそうです。
福音より 白塚清華さまへ 』
私はそれを読み終えて、どのくらいいたのか分らないけど、多分そんなにいなかったと思う天界に、もう一度だけでもいいから戻りたいと思ったのは、多分、福音の言葉があったからだと思う。
『神はたとえ全知全能だとしても、万能ではありません』
優しい福音の声が、私の脳裏に響いた。 それと一緒に、私の心も響く。
心が温かくなっていき、私は一粒の涙を流した。 私はそれを拭くと、よしっ!と気合を入れ、友達とのカラオケに着て行く洋服などを選び始めた。
他のサイトにて掲載していたものです。
そちらを消すことにしたので、移しました。
掲載時期を見ると2009年ですので、10年前の作品なんですね……。
感慨深いものがあります。
それから変わらずこんなところで地味に小説を書いているのですから。
お題【クリスマス・勘違い・涙】