間男はどちらだ⁉part2
「サクラ?………」
ラン様の声で桜は思考の奥から戻った。
「っつ………すみません。考え事をしていたもので……」
「いや、突然この様な場所に連れて来たんだ。驚いただろう」
ラン様は桜が黙っていた事を、違う意味に捉えた様だ。
「いえ、私に出来ることがあれば言ってくださいね」
そう答えるのがやっとだった。
◇◇◇
あれから、桜はこの軍事病院に居住を移し料理を作る様になっていた。
それというのも、桜が作った料理を食べた入院患者の治りが劇的に改善したというのだ。それを垣間見たランがアンに交渉し2週間限定でここで仕事をする手筈を整えてしまった。
勿論、バードも一緒に軍事病院に異動してきた。
俄には信じられなかった桜だが、前日迄は酷い傷口だったのに食べた翌日には塞がりかけていたり、傷口が化膿し熱が上がっていた人は熱が下がり体調が改善したのを目の当たりにすると信じざる終えなかった。
患者から桜はまるで天使か女神か⁉と言わんばかりの扱いをされる様になってしまった。
料理を作っただけなのに。偶然かもしれないのに、桜のと心中は複雑だ。
でも、この世界に来て初めて自分を必要として貰ったから、凄く、凄く嬉しかった。
ここにいて良いのだと言われているようで、リュートの妻だからでは無く、桜を桜として必要とされた事が純粋に嬉しかった。
警戒心を強めたのはバードだ。このままでは危険すぎる。この軍部病院の患者達は挙って桜を聖女か女神に様に崇め始めているのだ。
桜はアストリアのリュート様の妃だ。
この国にとって、なくてはならない存続であってはならない。今はこじれていても近い将来アストリアに帰る存在なのだから。
果たしてその時、無事にアストリアに帰れるのだろうか?
「何もたついているんだ……うちのリュート様は………」
バードがひとりごちている、まさにその時リュートは何とか打開策を母上から貰ってやっとこの国に辿り着いていたところだった。
「はっ…クシュ‼……噂かな?」
「何よ、風邪なんて引いてないでしょうね?」
「煩いな、心配しなくとも至って健康だ」
「なら良いけど、そのその姿で言われてもね~」
「うるさいな!」
「まあ良いわ。早くアンさんのところに行くわよ!この辺では一番の情報網を持っているんだから!!」
運良く一番の当たりくじを引いていたのだった。
アンが営んでいる娼館に着くと、リュートが知っているアンとジュリアが言っていたアンが同一人物であることが判明した。
「面白い偶然もあるものね……もしかして運命だったりして?」
ジュリアが誂い半分でそんな事を言ってくる。
「俺の運命は桜だけだ……」
「だから、そんなおこちゃまな姿でカッコつけてもカッコよくないって………」
「まさかうちの桜ちゃんの旦那がお子様だったなんてね~」
初めは黙って聞いていたアンが程よく突っ込んでくる。
「アンさん‼子供の姿については説明した筈です!」
「子供姿の事を言ってんじゃないわよ。……惚れた女一人まともに安心を与えてやれない男はガキだって言ってるの」
文末にハートマークがありそうなほど艶のある声だが、顔は笑ってない。
腰に携えている魔法剣もアンの言葉を聞いて頷いている。
「うぐっ‼……」
年上の女性2人から責められては絶対に口では勝つことが出来そうもない。(と言っても母上の言葉が聞こえるのは俺だけだが………)
「分かってます。……俺がガキな事くらい。それに離れていられないのは桜じゃない。………俺の方だ。彼女は一人でも生きていける強さがある。俺が彼女がいなくちゃダメなんだ」
子供の姿で俯いているリュートを見ているとアンもこれ以上虐めるのは止めようと思えてしまう。
リュートが桜を愛している事も、大切にし過ぎて駄目になった事も分ったアンはこれ以上意地悪せずに桜の居場所を教えてくれた。
「有難うございます!」
場所を聞いて飛び出していきそうなリュートをジュリアが止めに入った。
「貴方、もう暗くなるのに行くつもり⁉」
「当たり前だろう⁉…桜がいる場所がわかっているのに待つことなんてもう出来ない‼‼」
「あ~もう!…わかったわよ!私も一緒に行ってあげるから!」
そんなこんなで3人(内一人は魔剣)は桜のいる軍事病院に急ぎ向かったのだった。
◇◇◇
同じ頃桜は夜の後片付けと明日の仕込みまで終わらせると、お風呂に入るために病院の庭に出てきた。
桜とハードが間借りしている病院近くの小屋にはお風呂がない為、病院の職員が使用しているお風呂を貸してもらっている。
バードはアンさんに呼ばれている為今はいない。
1つしかなくて、必ずバードが桜を先に入れてくれ、自身は後から入るから、ならば待たせない様にしようと桜は先にお風呂に入りに来たのだが……。
「ラン様?……お帰りになられたのでは無かったのですか?」
その庭にはランが夜空を見上げて佇んでいた。
「ああ、サクラか。遅くまで有難う。今からお風呂に入るのかい?」
「はい、お風呂を頂こうと思いこちらに……」
「俺も一緒に入ろうかな?」
何て美男子がウィンクしながらそんな事を言ってくる。120%からかっているのがわかるから桜も軽口で応戦する。
「このお風じゃ、ラン様は大きくて一緒には入れませんよ?」
「じゃあ、一緒に入れるところに行こうか?」
「行くわけあるか‼‼‼」
何と、ランと桜の間に割って入ったのは、懐かしい小さなリュート君だった。




