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間男はどちらだ⁉

 何故だ?

 何故着かない?

 本当ならとっくに陸が見えている筈なのに、一向に見えてこないのは流石におかしい。

 リュート達を乗せた船は順調に航路を進んでいた。本当なら、翌朝には陸が見えている筈だったのに、一向に見える気配すらしないのは流石におかしいだろう。


 初めのうちは、風向きのせいだとか、そんなに疑問にも思っていなかったから気付かなかったが、ここまで来ると、人ならざるものの妨害を感じた。

 精神を研ぎ澄ませば、結界のようなものを感じて、どうやらそこから進めないようだと分った。

 魔力をぶつけて見たがびくともしない。

 食料も底をつき始めた為、予定の国の隣に着陸したが、陸からも桜がいる国には行けそうも無かった。


「女神の妨害か?それとも他の神の妨害か?………それとも両方か?」

「何ボソボソ言ってんのよ?」


 遠いどこまでも続く海を睨んでいたリュートの隣に来た女は、名をジュリアという。

 訳合って今は一緒に旅をしている格好になっているのだが、どうしても隣にいるのが桜だったら、と考えてしまうのだ。


「あなた、今失礼な事を考えているでしょう⁉」


 結構鋭いところをついてくるから、人の感情を読む事に長けている様だ。

 その後もブツブツと『無視すんな』とか言っていたが、リュートはそれどころでは無かった。

 その整った甘い容姿から忘れられがちだが、リュートは元々女性嫌いで人に興味が無い。

 大事な者とそうでない者とを大別している。

 こんな扱いだが、ジュリアはリュートにとっては、区別した線引の内側にいるのは間違いない。

 陸からだと首都に到着するには時間が掛かり過ぎる為、船長や乗組員達には巻き込んで悪いが、再度乗船して予定の港を目指すことになった。

 幸い…この船に乗船していた人々は食料補給で立ち寄ったこの国でも下船するのに問題が無かった為、料金を減額して降りてもらった。

 勿論、料金はリュート持ちだ。よって乗船している客はリュートと隣の女だけである。

 リュートはブツブツ言っているジュリアを置いて自分の客室に戻っていった。


「まあ、失礼なのは今に始まった事じゃないから、別に良いけどね」


 去っていくリュートの背中にジュリアは言葉をかけた。勿論返答を期待しての言葉じゃない。

 こうなったリュートにジュリアの言葉は届かないのはここ数日でよく理解した。


「本当……ここまで一途に思われてみたいもんだわ」


 この言葉も(これも)今この場にいる者に向けられているものでは無い。


 ◇◇◇

 客室に戻ったリュートは魔力を込めて何とか船1隻でも通れる風穴が開けられないかと試行錯誤していたが、流石に神の力はだけじゃない。

 無理だった。

 一縷の望みにかけて、魔法の剣に念力で話しかけた。


『母さん、聞こえているなら返事をしてくれ』

『聞こえているわよ?ずっと側にいるんだから』


 すると直ぐに返事が帰って来た。


『側にいたのなら教えてくれ!どうしたら桜のいる国に入れる⁉』

『桜ちゃんの側には結界が張ってあるわ。だから貴方は入れないの。でも、この結界には一つだけ抜け道があるのよ………それはね』



 ◇◇◇


 桜とランの、デートと名がつくかは解らない街案内は既に数回に及んでいた。

 正直言って、最初こそ警戒していたけれど、話上手なランの案内は楽しかった。


「今日は、何処に行くんですか?」

「軍部病院だよ」

「軍部病院?」


 聞き慣れない病院名に桜が問いかけた。


「戦で傷ついた兵士を治す為の病院で、入院患者は全て外傷を負った者たちだ」

「どうして私をそこに連れて行くのですか?」

「料理をね、作って食べさせて上げて欲しいんだ」

「私は素人ですよ?それならプロの料理人を頼んだほうが良いのでは?」


 桜の意見は最もだった。

 だが、馬車の中で向かい合わせに座っているランはフッと優しく笑うと桜の目を黙って見つめた。


「故郷を離れ、国の為に戦ってくれた者達だ。直ぐには帰れない迄も、出来れば家庭の味を振る舞ってやりたい。桜の料理は懐かしい味がするんだ」

「ラン様」


 普段見せない本心を見せられた様で、桜は何も言えなくなってしまった。

 でも、傷ついた人を思いやる心があるのは本当なのだろう。


(不真面目かと思えば真面目で、ナンパだと思えば、誠実。本当にわからない人ね……)


 馬車は街道を走り抜け、人里を少し離れた大きな建物の前で停車した。

 馬車のドアが開くとラン様が先に降りて、桜の手を取りエスコートしてくれた。

 でも、慣れない桜に併せて過剰に接触して来ようとはしなかった。


 洋風の赤レンガの建物の中に入ると、そこは古いながらも掃除が行き届いており、清潔に保たれていた。

 ランの姿を見つけた管理人らしき人物が、廊下を駆け寄ってくる。


「ラン様、要らして頂けたのですね!」


 その様子はまるで主人を見つけて、尻尾を振って喜んでいる忠犬のようだったが、それくらい目の前の彼はラン様を慕っているのだろう。


「ああ、余り来れずにすまない。足りない物は無いか?物資は足りているのか?」

「ラン様は心配性だな~。大丈夫ですよ、ちゃんと行き届いていますし、皆回復に向かっております」

「そうか、それなら良かった」


 病室のドアは換気のためか、今は何処も開いたままになっている。桜が病室の一室を除くと、足を切断され包帯を巻かれた男性が天井を見つめているのが目に入った。

 治らない外傷を負った人も多いのだろう。

 この国と戦争をしたとは聞いていないが、もしかしたらアストリアとの戦いで傷を負った兵士物はいるのだろうか?

 もしかしたらリュートも同じ様になっていた?


 そう思うと、無事でいる事に安堵し、そして猜疑心に苛まれた。


 リュートジャナクテヨカッタ


 何て、考えてしまったから。

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