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桜の初めてpart5

 桜が仕事を終えて風呂に入り部屋で寛いでいると、バードがアンさんから与えられた仕事を片付けて帰って来って来た。

 ノックをして入室してくるなり『今日何か変わった事は有りませんでしたか?』といつもの様に尋ねられた。

 バードさんだって疲れている筈なのに、桜を優先させてくれる。本人は何も言わないけれど、服装を見ただけで、直接来てくれた事くらい桜にも分る。


 それが日常になりつつあるのは、それだけアンさんの家(ここでの暮らし)が長くなっているという事でもあるから心情としては複雑だった、まあ自分から家出をしておいて何様だと分かっているのだけれど。

 それにしてもと桜は考える。

 バードは少し過保護だと思う。

 そんなところも桜がバードをお兄ちゃんの様な存在だと感じる所以なのだが、きっと私を護衛しているせいなのだろうと、申し訳無く感じてしまうから、ちゃんと自分から日々の行動は伝えるようにしている。

 ただ、今回の事は、桜の中で大した出来事ではなかった為、何も伝えなかった。

 もうどうせ会うことは無いのだし、と思っていたから。それが後にちょっと困ったことになるとは考えもも依らず……。


 何故か、あの色気だだ漏れ浅黒のお客様は、あれから結構な頻度で来店する様になってしまった。

 初めのうちは、『まああんなに美人な紫姉さんだから、頻繁に会いたくなるのも頷けるな~』等と安易に考えていたのだ、いたのだが……。

 結構な頻度で頻繁に会ううちには名前を覚迄覚えてしまった。それくらいランさんはここに通っている。

 一体幾ら注ぎ込んだのだろうか?恐ろしいから聞けないが、庶民の桜は気になってしまう。

 それくらいここはお高いのだと務めて初めて聞いて驚いた。まあ、それくらいスパっと出せるお金持ちなのだろうが。

 そのランさんが、桜が仕事している厨房に迄来たときには、流石の桜もおかしいと感じ始めたが、それでも桜にできることは無いし、どうする事も出来ない。

 打つ手なしといったところだ。

 ただ、理由が解らないのだ。

 紫姉さんがここに来ることは無い。他のお姉様達も厨房には絶対に来ないのに、どうして?、と。

 他のお客様の機密事項を調べたいのなら厨房に来る筈がない。

 だけど、自分に女としての魅力なんて無いのは誰より解ってるから、後理由があるとすれば、リュートの妻として、いいえ、アストリアの王太子妃としての利用価値だろう。


「利用価値……か」


 桜が休憩時間に入り、お客様の来ない裏庭で休もうと、使用人が使う為に設置されているベンチに腰掛けて独り言ちていると背後から件の人が声をかけてきた。


「桜ちゃん、何を呟いているのかな?」


 ……聞こえてたかな?、聞こえていたよね。

 迂闊だったと言わざる終えない。けれど、言い訳させてほしい。使用人しか入ってこれない場所にVIPがいると誰が思うだろう?

 それにしてもと桜は思う。ここまで来ると、ランさんのターゲットは自分だと見て間違いないなさそうだ。よくよく考えれば、ランが桜の前に現れるのは何時だってバードがいない時だった。

 なぜもっと早く気付けなかったのか?


「独り言ですよ?」


 意味など無いのだから、これ以上この件で突っ込んでくれるな、とやんわり釘を刺す。

 すると、こちらが調子抜けするほどあっさりとこの会話から手を引いてくれた。


「隣りに座っていいかい?」


 駄目、とは言えないだろう。だってランさんはこの店のVIP。自分は使用人だ。


「どうぞ?」


 有難うと答えると流れる様な動作で桜の隣に腰掛けた。それもだ。警戒されないギリギリの範囲で近い距離に腰掛けてきた。何もなければ気の所為だろうと思える絶妙な位置。

 これでは注意も出来はしない。


「ねえ、桜ちゃんは何処の出身なの?」

「御免なさい、ここでは過去の詮索はご法度何です。勿論、雇用主であるアンさんはご存知ですが……」


 まあ、嘘だ。でも本当の事を言う必要はない。

 だってここは一時の夢を買うところだから。だからこそ、お客側も詮索されない。


「それにですよ?……女性の過去を聞くのは野暮と言うものです」


 普段の桜なら絶対に言わないであろう言葉選びだ。


「それもそうだね。格好悪いところを見せちゃったね。お詫びになにかご馳走するよ!レディを詮索するなんて男として無粋だった」

「解って頂ければ結構です。お礼も頂けません。その代わりこの店をご贔屓にして頂ければ嬉しいです」

「おやおや、商売上手だね。桜ちゃん、俺が頼めば君もご指名出来るのかな?」


「そこまでですよラン様。これ以上うちの子を困らせるなら、ラン様であっても出禁に致します。今引くなら、ここに勝手に入ってきたことは不問に致します」


 助け舟を出してくれたのはアンさんだった。

『助かった……』と思ったのも束の間、桜は違和感を感じた。常に使用人にも気を配ってくれるアンさんだけれど、この時間にこの場所に来れる程暇な人ではない。誰よりも仕事をしているアンさんだ。スケジュールだって分刻みだろう。


「アンに見つかってしまっては、引かざる終えないね。わかったよ、ここは引こう。でもアン?…桜ちゃんが良いと言えば俺に専属(つけて)くれるかい?」

「桜ちゃんが良いと言えば構いませんが、……無理矢理言うことを聞かせるなら、私は黙っていません」


 アンさんの例え上客だろうが、一歩も引かずに庇ってくれる姿勢は雇用主としてとても心強くて、カッコ良かった。

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