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桜の初めてpart3

 桜はアンの執務室で話を聞いて衝撃を受けた。

 それというのも、アンの手掛けている事業を初めて知ったからだ。何もせずにただお世話になるのでは申し訳無いと、手伝いを買って出た迄は良かった。

 桜は、雑用だとばかり思っていたのだが、そもそもその考えが甘かった。

 アンの仕事は桜が考えているよりも多岐にわたっていたのだ。

 娼館を運営しているのが女性であることにもとても驚いたが、桜はそこまで嫌悪感を持っている訳じゃない。逞しく活きる女性は尊敬すらする。

 とはいえ、一時の夢を見せるのは何も、身体を繋げるだけじゃないらしい。

 その点は桜の知識不足だった。

 心を癒やしに女性と語らいながらお酒を飲むだけの場合もある様だ。

 アンさんの娼館はイメージ的に複合施設に近く、会社にいる女性を派遣業や、秘書や家政婦として仕事を斡旋したりもしているらしい……純粋に遣手だと思う。

 地球で言うところのキャリア・ウーマンなのだろう。

 格好良い女性だ。


「娼館…………」


 呆けている桜を面白そうにハードは見ていた。

 生娘、では無いのだが、経験が浅い桜では衝撃がさぞ大きいことだろうと慮ったからなのだが、どうも驚いている内容はバードが考えていた物とは違って斜め上を行っているようだった。

 アンさんの執務室から出て、2階にある桜の部屋に2人で戻った当たりから、何やら桜はブツブツ言い出した。


「知識………無い。経験………無いに等しい……何より…………いや、ちょっと待って‼…圧倒的に色気が足りてない!」

「⁉」


 桜の呟きに驚いたのはハードの方だった。

 まさか、王太子妃である桜が自分が接待をする側の仕事を連想しているとは誰が思うだろう。

 万が一そんな事になれば、あの嫉妬深い王太子殿下の事だ、間違いなく相手の男とバードは苦痛を味わいながら悲痛のうちに殺されることだろう。


「いや、待って桜。まさかそちら側の仕事をするつもりじゃないだろうね⁉」

「えっ⁉…いや今の私じゃ足手まといにしかならないじゃ無いですか!あのアンさんがオーナーですよ⁉完璧とは程遠い、しかも覚悟もない私を人前に出すとは思えません‼」


 恐れ多いです!と言っている桜を横目に、それって技術があればやっても良いってことかな?とは流石のバードも怖くて聞くことは出来なかった。

 どうも話が噛み合っていなさそうだが、絶対に答え合わせはしない。それは自らの首を締める行為だと理解していたからだ。


 まあ、案の定桜の仕事は裏方なのだが、もともと料理上手な桜だ。料理部門の熱烈なアプローチによりお客に出す料理を担当する事になった。

 こういった場所では、畏まった料理よりも家庭の手料理の方が好まれることが多い。その為、お客様の要望により担当を分け、仕事の接待で使用する料理は元々の料理人が、癒やしを求めて来店するお客様にお出しする分は桜と、担当分けする事になったのだ。


 ◇◇◇


「バードさん、お料理出来上がりました!」

「はいよ!じゃあ運んでもらうね」


 バードは、たまにアンさんからこれ幸い使える者は使ってやれと、違う仕事を振られるが、それ以外は桜の護衛を兼ねている以上、常に側にいて桜の補佐の様な仕事をする事になったのだ。

 仕事を選ばず何でも熟せる。サーキュスの副官だけあってバードは有能だった。


 この日も桜は料理を作っていた。

 忙しい日々は煩わしい思考が停止するから良い。

 ただ、この日は何時もと違っていた。

 給仕係が急病で欠員が出ていたのと、ハードが運悪くたまたま、アンさんから違う仕事を頼まれ桜の側にいなかった、という運の悪さが重なり作った料理を桜自身が運んで行くことになったのだ。


「確か、孔雀の間だったわね」


 桜は間違えてはいけないとちゃんとオーダーを確認しながら料理を孔雀の間のお客様へ届けに上がった時だった。


「失礼します…お料理をお持ちしました」


 桜が声を掛けると、


「どうぞ?」


 と中から声がする。

 何やらやけに色気がする男性の声で、しかもどうやら若そうだ。詮索は頂けない行為だが、何故ここに来ているのだろう?と桜は疑問に感じてしまった。

 許可が出たので桜が入室すると、豪華なベットの上で上半身裸の男女が抱き合っていたのだ。(下は寝具で見えないので、多分としか言いようがないが……)

 ギョッとして危うく手に持っていた料理を落とすところだった。耐えた自分を褒めてあげたい。

 そんな桜に声をかけてきたのは女性の方だった。


「あら?……お料理を運んできたの、桜ちゃんだったの?」


 驚きから回復し良く見たら、女性の方はこの娼館のNo.1である紫姉さんではないか。

 アンさんに匹敵する美貌と色気、それに教養もある魅力的な女性だ。桜にもとても優しく接してくれた。

 まあ、ここの人は皆優しいのだが、紫姉さんは気遣いが半端ないのだ。


「はい……(お客様の前で誰もいないから私が持ってきました、とは言えないよね…)」


『はい』とだけしか答えられない桜の状況を的確に理解した紫姉さんは話を合わせてくれた。


「お客様が若様だから、料理人である桜ちゃんが持ってきてくれたのね、有難う。……若様、この娘が若様がお気に入りの当館の料理を担当している桜です」


 紫姉さんは桜から視線を若様と呼ばれた男性に移すとそう説明した。

 貴方が特別だから敢えて桜が持ってきたんです、と話を転換する。

 上手いな、と思う。こういった機転が彼女がNo.1たる所以なのだろう。



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