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王子様?は誰part2

 そんな会話をしていると、リュート君が訪ねて来てくれた。

 大変だとは思うけど、来てくれれば、やはり嬉しい。


「桜、頑張ってますね」

「リュート様…」


 ユリアは立ち上がり頭を下げ様としたが、リュート君はそれを手で制した。

 私も立ち上がるべきだったんだろうなあ、と思ったが咄嗟には動けなかった。

 リュート君は、そのまま円卓で勉強していた私たちの前の席に腰かけた。

 こちらの世界に来たからだろうか?私をリュート君は"桜"とさんを取り外して呼ぶ様になった。

 まあ彼は王子様だから、逆にさん付けで呼ばれる事の方がおかしいのかもしれない。

 それに、………正直嫌じゃない。

 そのリュート君の問い掛けに答えたのは私ではなくユリアだった。


「当然です。桜は真面目な良い子ですもの」

「ユリア!!」


 ユリアに誉めてもらい嬉しくなった私はつい隣に座っているユリアに抱き付いてしまった。

 ユリアは抱き返して、頭を撫でてくれる。

 桜からは死角になり見えなかったが、ユリアはリュートに向かい、『羨ましいかろう?』と言った表情で挑発した。

 悔しがるリュートだったが、桜の手前顔に出す事はしなかった。

『ユリア、後で覚えてろよ…』とは心の声だ。


「いつの間に、そんなに二人は仲良くなったの?」


 熱い包容を終えた桜にニッコリ笑いかけるリュートの口元は若干歪んでいる。

 他人が相手なら、また政敵相手なら、絶対に感情を読み取らせる事などないリュートの表情を崩す事が出来るのは、桜だけだった。


「初めから、私はユリアが好きだったよ?」

「おや、可愛い子に告白されるのは嬉しいね」

「…………まあ、仲が良いのは良いことだけれど、出来れば僕の事もリュートと呼んで欲しいな」


 見た目が子供なのを良いことに、泣き落としに入ったリュートを憐れんだ目で見るユリアは、口だけで『お前、情けなく無いか?』と言ってくる。

 リュートは視線だけで、『どうとでも言えばいい。……俺は実を取る』と答える。

 気付かないのは桜だけである。


「え?…悪いよ。だってリュート君は王子様でしょう?」

「俺だって、桜って呼んでるんだから桜にも呼んで欲しい。俺だけさん付け何て、距離が有るようで寂しいんだ」


 伏せ目勝ちに言うリュートは、勿論自分の見た目の破壊力を熟知していての動作だった。


「………う~、解った、解ったよ、リュート。……これでいい?」


 ……押し負けてしまった。

 私はこの顔に弱い。


「はい!!」


 今日一番の良い返事をしたリュートに笑顔を向けるのは桜だけで、ユリアと、実は側に控えていたカムイは、始めてみる幼なじみの表情に驚きつつも呆れていた。


「ああ、そうだ。桜にお願いがあって来たんだよ」

「私にお願いって?」


「桜が目を覚ました時にいた青年を覚えてる?」

「覚えてるよ?…それがどうしたの?」

「一週間後に、桜のお披露目の為のパーティーを開催するんだけどね。……本当は俺がエスコートしたいんだけど、訳あって子供じゃ出来ないんだ。……だから、彼に頼んだんだけど……桜はそれでいい?」

「……パーティーに出たくない…」


 訳あって、の訳が知りたいけど、言えないこともあるのだろうし、正直言って出席したくない。

 だってマナーも知らないのだ、当然だろう。


「心配しなくても、当日は私も桜の側に控えてるから安心していいよ」


 ユリアがだめ押しをしてくる。

 何だろう、聞いているのに、聞いてなくて、確認じゃなくて、確定、みたいな。


「駄目かな?」

「私………正装も持ってないよ?」

「勿論、俺が用意するから桜は体だけ来てくれればいいよ」


 最後は、もう来ること前提で会話が終わってしまった。


「ああ、そうだ。……俺はこの国の王の子供だけれど、訳あって表舞台にたっていないんだ。……だから、桜も出来れば話を合わせれ欲しい」

「?……解った………」


 疑問はたくさん残ったけれど、取り敢えず私は頷いた。

 リュートに迷惑をかける為にここまでは来た訳では無いからだ。

 何故かは、追々説明するから。言うだけ言って、リュートは、仕事が有るからと帰っていった。

 本当に忙しい様で、それだけを伝えに時間を割いて来たのだろう。だったら、伝言でもいいと私は思うのだが、そこは彼の誠意なのだろう。……まだ小さいのに、そんな所まで気を使うだなんて、それが王族と言うものだろうか?

 私には解らないけれど、少しでも負担が減ればいいと願うばかりだ。

 リュートは自分は当分これない代わりに、彼が直ぐ側にいるとだけ伝えて…帰っていった。

 残された私とユリアは、勉強も今日の分は終わっていたから、お茶をする事にした。


「ねえ、ユリア。何でお披露目をしなくちゃいけないの?…リュートは私に助けて欲しいって言って、だからこの世界に来たんだけれど、ただ勉強しているだけだし。それでリュートの助けに何てなっているとも思えないんだけれど」

「この国では、異世界から来た女性は運命の乙女と呼ばれていてね。……国に災いが降りかかるとき、救いをもたらす、救世主として崇められているんだ。だから、桜が姿を見せてくれる事で人々は安心するんだよ」

「何でリュートは表舞台に出てはいないの?」

「私の口からは言えないけれど、ひとつだけ教えて上げられる事が有るとすれば…この国に起こった災いの性だとだけ言っておくね」


 聞いちゃいけない事だったろうか?

 だって王子でありながら、存在を隠している様なものでしょう?

 リュートはどんな思いでいるのだろうか?



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