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魔女の家part4

 バードに表情を指摘された桜は、自分の頬を両手で触りながら、もう一度バードを見上げた。


「何時もと変わらないと思うのですが?」


 ホントに解っていない様子の桜にバードは苦笑した。勿論馬鹿にしての事じゃない。

 色恋沙汰に無縁で生きてきた事が今の桜を見ていると良く分かったからだ。


「いつもより顔が強張っているよ。ねえ桜ちゃん、嫌なら嫌って言って良いんだよ?」


 バードは桜の心を落ち着かせる様に未だ自分の頬を触っている桜の手事自分の掌で包み込んだ。

 それを見ていたリュートは頭に血が上り、勢い良くバードを桜から引き離そうとした。……したのだが、桜に思いっ切り拒絶されて、今度はリュートの表情が凍りついた。 元々桜至上主義のリュートだ。その桜に触ることを拒絶されたリュートは呼吸の仕方が解らなくなったんじゃないか?というくらい苦しそうな顔になった。

 そんなリュートを黙って見ていた王女だが、見兼ねて桜に話し掛ける。

 振り切ったリュートに無理矢理ついてきたのは自分のほうだ。


「桜様、誤解です。私達の間には何もやましいことなど御座いません」


 王女はその美しい顔を曇らせると懇願するかの様に訴えてくる。

 だからといって桜が素直にそれを聞くかと言うと、そんな事はあり得ない。ホントのことはどうあれ、桜と王女は世間一般的に見れば、言わば恋敵の間柄なのだ。

 火に油を注ぐだけの行為だった。


「貴方方が何処で何をそていたのか?本当のところは貴方方にしか解らないことですものね。きっと、お二方以外には関係ない事なのでしょうね。そして私にも関係ない事何ですね……」


 日頃聞き分けの良い人間が怒ったら手に負えない。

 桜は無表情のまま言い切った。

 そんな桜の発言に輪を掛けて凍りつくリュート。


「桜様は私とリュート様がどうなっても良いと言うのですか?」

「元々私に何を言う権利も有りませんから……貴女だって彼との婚姻を望んでこの国迄来られたのでしょうし」


『それは違う!』とそう言いたいのにリュートは声が出なかった。


「桜様はそれで宜しいの?」


 普段の桜なら絶対に言わないような口調で淡々と話している。バードは、桜の心を第一に考え静観して見守っていた。


「良いも悪いも、私はこの国では役立たずの居候です。彼が貴女を選ぶのなら、私はこの国を出ていきます」


 桜のその言葉で、リュートかは凍りから溶けた。


「駄目だ‼…それだけは絶対に許さない!」

「許すも許さないも、私は出ていくと言ったら出ていきます。貴方の指図は受けません」

「違う!桜、指図じゃない!俺が君に側にいて欲しいんだ!」

「私は嫌だと言っているんです」


 二人のやり取りを見ていた王女が止めようと動くところをバードとカムイが止めた。


「王女、貴女が行くと余計拗れます」

 とバードの言葉に対し、

「こうなることは判ったうえで輿入れの打診に来られたのでしょう?………どうです?思い通りになって良かったですか?」

 カムイの言葉は辛辣だった。

 それもそのはず、誰よりもリュートの側にいて、彼がどれ程桜を大事にしているか分かっていたのだから。

 元々が、リュート側にとって王女は招かざる客以外の何者でも無かった。

 だが、有ろうことかカムイの言葉を諌めたのはリュートだった。まあ、リュートの立場からして隣国の王族に対する臣下の言葉を諌めるのは王太子としては当然だったのだが。


「王子さん、今のは完全に悪手だ…」


 バードは王族に対する言葉遣いを忘れる程呆れていた。

 リュートは大事にする者を履き違えてる。

 何なら王女がこの場にいるという事は、魔女の秘密を知っているということで、だとするならば王女の事は、マルタやこの家の魔女の力が及ぶ範囲内だろう。

 マルタが桜に危害が及ぶのを見過ごすとは思えない。

 だが、そんな事を知らないリュートが止めに入るのは間違ってはいないのだが、この時においては正解じゃない。

 案の定桜の表情は強張っている。


「桜、違う……」


 その事に気付いたリュートが誤解を解こうとするが、既に拗れてしまった桜の感情は解ける事は無かった。

 そもそもこの家は人の心の奥底にある感情を浮き彫りにさせる。

 桜の怒りは今だけの事じゃない。

 今まで彼女がずっと抑えていた心の叫びなのだ。


「マルタさん、私を違う場所に送ることは出来ますか?」


 リュートに向き合う事なく桜はマルタに問い掛けた。


「‼」


 驚いたリュートが桜に近寄ろうとするも何か別の力に阻まれて、手を触れる事すら出来ない。


「出来るよ。何処に行きたいんだい?」

「ここじゃない場所なら何処でも。そうですね、もし選べるのなら海のある国が良いです」

「お安い御用さ」


「ああ、マルタさん。桜様が行くなら俺も一緒に送ってくれ。護衛は必要だろ?」

「判った」


 マルタがそう言うが早いか、光が桜達を包んでいく。


「リュート様、桜様の安全は守りますのでご安心ください」


 バードはリュートにそう伝えると二人は光の中に消えていった。

 残されたリュートは一瞬呆然としていたが直ぐに戻るとマルタに詰め寄った。


「桜を何処に行かせたのです⁉」

「お前さんに教えてやる義理はないね」


 マルタは殺気が籠もったリュートの言葉に臆する事なく不敵に笑った。

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