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魔女の家part3

 王族が秘匿としている事をバードが知る由もない。

 そもそも次代の王の運命の乙女とはどんな存在なのか?

 国に繁栄を齎す存在として周知され、それが全国民に当然の事実として受け入れられている。 そんな一般的な内容位しか知らないが、それでも大切な存在だと言うことは理解している。

 その桜様がいるのに、他の国から妃を受け入れる事自体が考えられない。

 何よりリュート様御本人が誰よりも大切にしているのに、何故今になって、妃の輿入れ等という事になったのだろう? 国の為の側室等不要な筈だ。

 バードは、サーキュスから聞いていた第一側妃を思い出していた。

 既にこの世にいない彼女の幻影が今回の一件を起こしているのではないか?

 本来なら死んだ人間が影響している等考えもしないだろうが、バードは母親が魔女だ。

 人外の力に対して免疫と多少の知識がある。

 この家は心の中にある感情を曝け出させる何等かの作用があるとバードは考えている。

 その中で桜は、リュート様に対する嫉妬の類いを見せていない。 この場にリュート様がいないことも有るだろうが、カムイ様との一件でも、想いが家出する位辛かったのだとしたら、もっと感情的になっていたとしてもいいはずだ。

 緑深い場所にある、中は比較的広いが外から見た感じではとても小さな家の良く整えられた庭で、バードはその短く切り揃えられた頭を軽く振って考えていることを振り払った。


 考えても今は答えが出ない物よりも、取り敢えず距離感に注意して桜の手伝いに戻る事にした方が建設的だ。

 何があろうと今は桜の警護が最優先であると理解しているのだから。


 中に入るとテーブルには、料理が所狭しと並んでいた。どうやら外で考え事をしている間に桜は全て終わらせてしまったようだ。


「バードさん、ちょうど良かった!今呼びに行こうと思っていたところだったんです」


 にっこり笑った彼女は、とても可愛らしく良いお嫁さんになるだろうと簡単に想像できた。

 見た目よりもその素朴で素直な性格が安らぎを与えてくれる。リュート様が選んだ相手が桜様のような女性なら間違いなく、国民を苦しめるようなことはしないはずだ。


『次代の王様は、女の趣味が良い様だ……』


 バードはその言葉を心の中だけに留めた。

 だが、既に二人の魔女達と一緒に席についていたカムイが睨んでくるところを見るとどうやら、カムイにはハードが考えている事を等お見通しだったらしい。

 肩を軽く上げて降参をゼスチャーするとカムイは、視線を和らげた。


「バードさんも座って?…直ぐにバードさんの分のスープをよそるから」


 穏やかな微笑みを浮かべる彼女。

 気付いていないのは桜のみか。


 バードは、素直に従い席についた。 出された食事はどれも素朴だが、毎日食べても飽きないのでは?と思う程に美味しくかった。

 魔女二人は黙々と桜が作った食事を口に運んでいく。 なるべく多く摂取したいという思いが見て取れた。

 それもその筈、魔力とは無縁のカムイはその優れた感覚でしか解っていないようだが、桜が作った食事は体力と気力を大幅に回復させる効果がある事に二人は気付いている。 食材が本来持っている自然の力を最大限引き出す事が出来るようだ。 魔女の血が流れているバードにはそれが解った。

 これは、ちょっと周りに知れ渡ると危険だ。

 その事も含めて改めてカムイ様にご報告するべきか?バードがそんな事を考えていると、不意にこの家の持ち主であるジトアが食事の手を止めた。


「……」


 ジトアの雰囲気に桜も気付いて彼女を見つめているが、マルタだけは素知らぬ顔をしていた。


「お前、気付いていたな?」

「何のことだい?」

「私の弟子がお前の店に来ているだろう?」

「お前さんの弟子かは知らないが、招かざる客がいることは確かさね」

「チッ………」


 そういうとジトアは聞き取れない言葉を唱え始めた。

 刹那、部屋の一角に魔法陣が光とともに浮かび上がりその場に王女とリュートが現れた。

 ただ、間が悪かったのは咄嗟に王女を庇うように片腕に抱き締める形で桜の前に現れた事だった。


 初めに桜を見つけてたのはリュート。


「桜‼」


 破顔している嬉しそうにするリュートとは逆に、桜の顔は強張っている。


「………」


 桜の表情に自分が王女を抱き締める形になっている事に気づいて、慌ててその手を離した。


「リュート様……今更遅いです」


 半分呆れた声で突っ込んだのはカムイだった。

 何故日頃は完璧なのに、桜が絡むと情けなくなってしまうのか?カムイは頭を抱えたくなった。


「桜、違うんだ……これは!」

「何が違うの?…何をそんなに慌てているの?」


 慌てるリュートとは裏腹に桜の表情は消えていく。

 それをマルタがニヤニヤ観察していた。


「ニヤニヤしてないで、誤解を解いてくださいよ」


 見かねたバードが、マルタを促すが、『それは私の仕事じゃないね』とマルタは取り合わなかった。

 しょうが無いのでバードが桜に近付いて肩にポンと手を置いた。


「バードさん……」


 桜は隣に来たバードを見上げた


「桜ちゃん、顔が凍ってる」









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