魔女の家part2
「バード……ちょっと来い。話がある」
二人の様子に危機感を覚えたカムイがバードの肩を抱き無理やり家の外に連れ出した。
そんな様子をマルタはやれやれと呆れ顔で、ジトアは元々興味がないからやっと静かになったな、といった表情で見ていた。
「何でしょうか?カムイ様」
「お前、解っていて言ってるだろう?」
「側近様の砕けた口調は新鮮ですね」
「………」
無言で睨みつけてくるカムイだったが、バードは蛙の面に小便だった。
双方タイプは違うが整った容姿をしているから傍目で見て居れば眼福なのだが、飄々としているバードに対してカムイは、ピリピリした雰囲気を醸し出している。
バードにつられているのだろうか? 普段なら決してしない表情だ。まして、感情を読ませる事など絶対にしない。
この家に来てから随分と、自身の感情に正直になっている気がする。
「まあ良い。……今回の事は礼を言うが、命が欲しかったら桜様との距離感に気をつけろ。リュート様は桜様の事だけには独占欲が爆発する。…絶対に例えその相手が俺だったとしても、側にいることを許していない」
「あんなに美形で、女性一人に余裕が無いなんて信じられます?気にし過ぎじゃないですか?」
バードがそういうのも無理はない事だった
バードの立場では雲の上の存在である王太子にお目通りすることも叶わない。何より桜が側にいない時のリュートは氷の人形の様に冷たく無表情か戦場にいる時の鬼神の如き猛るリュートしか知らないのだ。
まあ、上官であるサーキュスからそれとなく異常とも言える警護体制のことは聞いて知っているが、重要な運命の乙女だからだと思っていた節がある。
バードの部隊は主に市井警護が主なのも理由の一つだ。
「冗談で俺がこんなのとを言うと思うのか?……サーキュスが信頼する部下をそんな事で無くしたくはないから言っているんだ」
「解りましたよ。王太子様の前ではやりません。それでいいですか?」
「移り香が桜様に香ってしまう距離は例えリュート様がその場にいなくても危険だ。…桜様に関することには犬並みに鼻が利く」
「王太子を犬扱いって,あんた」
バードの口調は元からだが、カムイの口調は砕けすぎている。もしや魔女の家が関係しているのか?
母親が魔女だったバードには純血ではないが魔女の血が流れている。魔法に丹精があったとしてもおかしく無い。この家の空気感はおかしい。それはバードも少ない違和感だが感じていた。
それはマルタの魔力ではない。 となると十中八九ジトアの魔力だろう。
それすら予想の範囲を超えておないのだから本当なら、上官に伝えるべきではないが、バードの六感がカムイに伝えるべきだと言っている。
「カムイ様。……ここにいるマルタさんとジトアさんは魔女です。多分、としか言えませんがこの家には心の声を表面化する何か力のような物を感じます。気をつけてください」
「何故、バード、お前がそれを解る?」
「それは……」
バードは、言葉を詰まらせた。何故なら、それはカムイに自分の出生を伝える事になるからだ。
男として尊敬するサーキュスにすらまだ、伝えていないのだ。
「まあ良いさ。……お前がそういうならそうなのだろう。承知した。気をつけるとしよう」
バードの言葉を裏付けすら伝える事も出来ずに、それでも次代の王の側近は信じると言う。
何とも心が湧き踊る感覚が、バードの心を締め付けた。
国のトップにいる貴族なんて糞だと思っていた。
平民を道具としか思っていないのだと諦めてさえいたのだ。 でもバードにとってカムイは、信じに値する相手だと思い始めていた。 まだ仮説の段階を超えてはいないが、この場所は内なる声を表面化させてしまう効果がある。そんな中での発言は本心そのものだろう。
そんな考えの人間がこの国を支える次世代なのだ。 少しは期待しても良いのだろうか?
変わって行くのだと信じても良いのだろうか?
「そうしてください」
バードは、それしか言えなかった。
だが、鉄の意志を持つ次代の宰相様ですら影響がある中、おかしな事に桜はそのままのような気がする。
素直なのだが、それは桜の元々の正確であってこの家の影響ではないような? いや、それすらも見誤っているのだろうか?
彼女を判断するのは難しい。
この国の女性達は笑顔で隠すのが上手い。 桜も隠そうとする事は有るようだが、それは我儘を言わないように我慢しているだけで、打算では無い、そんな気がするのだ。
「済まなかったな。……もう戻ろう、桜様が心配する」
「一つ教えてください。王太子様は桜様を愛していらっしゃいますか?」
「それじゃ足りない………溺れている。きっと、失ったらリュートは今度こそ生きることを放棄するだろうな」
「‼……」
そこまでとは考えてなかった。
では、双樹国の王女の輿入れは王太子様の意思ではなく、彼は反対の立場だと言うことか?
だとするのなら、今回何故桜様は家出する事になったのだろう。 大事な女のために細心の注意を払っていたはずだ。 あの頭がキレる男が、最愛の女性を逃がす、そんなヘマをするだろうか?




