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桜捜索:リュート編part8

 リュートは、カムイに調べさせた案件を頭の中で全て展開し探し始める。 元々誰よりも記憶力の良いリュートは頭の中に知識を記憶し、内容を記した本を保管する図書館の様な部屋がある。 表現が悪いが、辞書でもあるように全ての事柄が項目ごとに本となり、図書室のように並べられている状態を想像してもらいたい。 それを探し出し確認するだけでいつでも知識を取り出すことができた。 恐ろしい記憶力、それは魔法とどう違う? 一芸に特価した能力、それだけを武器にリュートは今まで生き延びてきたのだ。 ただ、具体的にこのことを知っているのはカムイと父である国王だけ。 幼年期リュートの才能を知った国王が戦う術のまだ無い息子のために隠匿したのだ。 ()()()()()()()()()()世間にはそう思われている。

『今はまだ早い』 そうリュートに言って頭を撫でられたのをリュートは今さっき起こった事の様に覚えている。


 そんなリュートが王女の魔法について覚えていない。 ということは見聞きしたことが無いという事だ。 では、カムイが調べ損なったのか? いや、カムイの捜査能力は誰よりも高い。 そのカムイが調べ上げ上げて無いということは、調べられない何かがあったと言うことだ。

 それはすなわち双樹国内でも、王女は魔法が使えない物として扱われているという事になり、今のジュリ王女の発言を裏付ける物が何も無い以上、新たな知識としてリュート自身が裏付けなく判断しなければならなかった。

 王女の話は俄かには信じがたい。 だが、ここでリュートに嘘偽りを言うことに果たしてどれだけの価値がある?無いだろう。 むしろそんなことをすれば今度こそ双樹国の信用は地に落ちる、それくらいにこの国の国力は高く、国家間の纏め役をも担っている。 王女の話が事実だとして、では何故彼女に魔法が解る? あの国には魔法を使える者はいなかった筈だ。 魔法は通常、師に理を学ばなければ扱う事は出来ない。 何も学ばず呼吸するように魔法が使えるのは、女神に愛されたこの国の王だけなのだ。 それ故に魔法使い自体が稀少だった。

 だとするなら、リュートが知らないところで魔法使いが双樹国にいる事になる。 それは力の均衡が崩れる事に繋がりかねない。 


「王女が魔法を使えるという情報は入ってない」

「調べていらっしゃるのですね」

「当然だろう?」


 ジュリは、リュートの目からそらすこと無く、そう答えた。 調べるなんてことは国対国なら当然のことだ。 ジュリが皮肉めいて言ったのはそこじゃ無い。 情報がないと云う事をリュートが隠さずに云った事実にだった。 通常なら知らない事を隠し行うべき国家間の駆け引き。 暗にリュートは、ジュリを駆け引きする相手じゃ無いと見なしているという、その事がジュリを何より傷つけた。


「それで? 王女に魔法が解るとして、今のこの状況をどう見るというのです? 私の最愛と右腕が行方不明になっている。 それも、桜がいなくなった原因のひとつが貴方かも知れないのに? その原因に魔法使いが絡んでいる事実を他国の貴女が知っている?」

「知っている訳ではありません。 魔法を使った形跡が解るというだけです」

「貴女の立場なら、魔法使いがとても希少な存在だと理解している筈だ。 なら、何故貴女に魔法が解る?」


 西日が店の窓から入ってきて、綺麗に並べられたテーブルにその日差しを優しく当てている。 通常ならとても心地よく癒やされる時間帯に、類を見ない美男美女が見つめ合っているというのに、話している内容に一つも色気はない。


「お察しの通り、我が国には少し前まで魔法使いが滞在しておりました」

「それなら、情報として俺の耳にも入っている筈だ」

「魔法使いがいた事実を我が国の者も知りません。 偶然に私が個人的に知り合う事が出来たのです。 ご存じの通り魔法使いは通常、人に紛れ暮らしているため何処にいるのか正確に知っている者はおりません。 私が知り合ったのは本当に偶然でした。 そして、秘密にする事を条件に私に魔法の基礎を教えてくれたのです」

「いま俺に云ったら意味が無いんじゃないのか?」


 リュートは腕を組み、その形の良い眉を片方上げまるで人の悪い顔をした。 それでも魅力が損なわないどころかどこかニヒルな表情すら魅力的に映るのだから、美形とは得である。


「…もう師匠が何処にいるのか解りません。 そもそも秘密にする約束は(双樹国に滞在する間は)、ということでしたから問題ありません。 ただ、言いふらす事では有りませんので黙っていただけに過ぎません」

「自身の国にも秘密にしていた事を俺に言って良いのか?」

「黙ったままでは、貴方は納得しないでしょう」


 その通りだから、リュートは黙っていた。 そもそも女という存在を信用していない。 何よりも大事な桜も女性だがそれは性別ではなく、桜という存在を信じているだけだ。

 なら、目の前の王女など信じるべき相手ですらないのだ。 桜やカムイの事が無ければとっくに王宮の一室にでも押し込んでいるところだ。


「私の国はもう、長くはありません…」


 王女が最後に言った一言だけは、リュートにも解っていた事だった。








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