桜捜索:リュート編part4
カムイは目の前のお婆さんが見た目通りの存在では無い事だけは気付いていたが、まさか今は絶滅した筈の魔女だと迄は気付いていなかった。
桜を匿っているのは十中八九このお婆さんだろうが、事実今もなお桜の行方は鴉でさえ追うことが出来ていない。
バードもおそらくは桜と一緒にいるだろうからこのままついていけば自分もバード同様行方不明者の仲間入りになってしまうことは明らかだった。
カムイは自分が一時以上戻らなければリュートにその旨を報告する様に部下に指示している。
抜かりはない筈だ。
絶対に自分が桜を見付けて見せると、カムイは誰よりも今回の事に責任を感じていた。
警備の上でも王太子妃宮を使用するのは正しい選択だった。リュートが桜を大切しているのは周知の事実だったし、桜は王太子宮で暮らしている(リュートの完全な我儘だが、この国の人間では無い桜も一緒に暮らすことに、何ら違和感を感じていなかった)のだから、経費が掛かっている物を有効活用するのは良いことだ。国の金は国民の尊い血税なのだから。問題は、桜に正しく情報が伝わらなかったこと。そもそも桜の宮殿なのだから、使用許可は宮の主たる桜に取らなければ行けなかったのだ。
「さて,じゃあ行こうかい……」
声をかけた、というより独り言に近い言葉を放つとマルタはカムイの服に杖を添えるとあっという間にジトアの家まで時空間移動をしてみせた。
突然現れたカムイに、ちゃんと驚いたのは桜だけで、バードは表面を取り繕い、ジトアに至っては気にもとめていなかった。
時空間移動が初めてのカムイもとても驚いたのだが、そこは胆力で堪えたのは流石といえる。
「カムイさん!!」
先に声をかけたのは桜だった。
時空間移動して到着して直ぐに、カムイは桜の存在を認識してた。彼女を探しに来たのだから当然といえるかも知れないが、それは時空間移動をした事がない者の発言だった。適性のないものは酷い船酔い状態となり立っているのだってやっとになる。
それでも気合だけで平然と見せ掛けるカムイはやはりリュートの側近に相応しかった。
「桜様、ご無事で何よりです」
心から心配している表情に考えが足りなかったと罪悪感が込み上げてくる。
カムイさんを困らせたかった訳ではなかったのに。
「黙ってお城を出てきてしまってごめんなさい」
「リュート様に落ち度がありますからそれは良いのですが、出来れば妻にだけでも教えてあげて下さい。とても心配していましたから……」
「……」
桜にとってユリアは、この世界で初めて出来た友だった。その友達に迄心配かけたのは、桜としても本意じゃない。会ったら謝らなければ。
「でも、どうやってお城から出たんですか?リュート様は、それはそれは(監禁かと思う位に、見ているこちらが引きそうなレベルで)警備を強化していた筈なんですが?」
「え?そうだったんですか?………ごめんなさい、気付きませんでした。誰もいなかったから、結構すんなり出てくる事が出来ました」
「「……」」
驚いていたのはカムイだけじゃない。バードもだ。リュートの桜への執着はとても強く蟻一匹だって通さない程だった。
ここまで来ると、人外の力が働いていると見て先ず間違い無いのだが、この様子だと桜本人は何も知らないと見て間違いない。
女神の力か、それともまた違う何かの力が働いているのか?を見極め無ければならなくなった。
「一つだけ聞いても良いでしょうか?」
「はい……」
「どうして桜様は、お城を出ようと思ったのでしょうか?」
「リュートに縁談が上がっている事を知りました。お相手の王女様にお会いして………生まれも育ちも平凡な私と違って、とても綺麗で、あんなひ女性がリュートの側にいれば、彼の役に立つことが出来るんだと思うと………私はいるべきじゃ無いと思ったんです」
「‼」
リュートが今の桜の話を聞いていたらブチ切れて、大暴れしていただろう。
リュート自身は、桜を誰にも見せずどんな苦労も気鬱藻感じさせずに囲い込みたいと結構本気で考えていた程に、カムイから見ても彼女に溺れている。
本来なら合うはずじゃなかった。
桜が王太子妃宮殿を使用していれば、彼の王女を王太子妃の宮になど宿泊させる何て絶対にあり得ない事だった。リュートが桜を離さず、自分の宮で一緒に暮らして等いなければ王女は貴賓館で滞在させ、桜には気付かれる事も無いまま国に戻って貰う、そうなる筈だったのに。一度間違えたパズルは元に戻す事は出来なかった。
「桜様は、何より王太子殿下の………いや、申し訳御座いません。桜様、今はリュートの幼馴染として発言することをお許し下さい」
桜が頷くのを確認すると何時もより砕けた口調でカムイは話しだした。
「ねえ、桜さん。桜さんは疲れたとき安心したい、癒やされたいとは思いませんか?」
「思います。私の場合は家族と一緒に過ごす事が一番安心できて、母に話を聞いて貰うと、明日も頑張ろうと思いました」
今はもう、会うことさえ出来ないけれど。
「男も同じなんです。安らぐ時間が欲しい。心から安心できる場所で癒やされて初めて、仕事を頑張ろうと思える。大切な人がいるから、その人のところに帰ろうと思うんですよ。リュートにとって、桜さんは帰れる家何です。ただの一人の男に戻れる場所なんです。
あいつにだって帰れる場所があっても良いじゃないですか。息をつける場所を求めてはいけないのか?……俺はそうは思わない。何も求めなかったあいつが唯一欲した貴女は、側に居てくれるだけで力になる。明日へと頑張る活力になる。それは誰にも出来る事じゃない。そうは考えてはくれないだろうか?
どうか………あいつを見捨てないでやって欲しい」
それは、友としての切実は願いだった。




