小さなリュートと大人なリュート
カムイに問い詰められたリュートは渋々、本当に言いたくなかったと言った気で、白状した。
元々、子供の頃からの付き合いの彼に隠し事等出来る筈も無いのだ。
何処にでも一人はいるだろう、勘の良い者。
それが彼だった。
「……無理やり連れてきたんじゃないのは確かだ」
それでも回りくどい言い方をしてしまうのは、自分でもカッコ悪いと思っているからだった。
「確かだ………で、その先は?」
でも彼の取締りは容赦がない。
「助けて欲しいと言った」
「は?」
何言っってんだ、こいつ?と言う表情を隠そうともしないのは流石に、将来の王に対して失礼じゃないか?とは思ったが、寧ろだからこそ、歯に衣着せない彼のような存在は貴重だ。
「だから、プロポーズしたら、子供姿のままだったから本気にされなくて、切羽詰まった俺は小さな子供を助けてあげようと言う彼女の良心に菅って、優しい桜は着いてきてくれたんだ!これでいいだろ!?」
結局皆まで言わされるならリュート最初から言えば良かったと言う後悔が少しだけリュートの頭をかすった。
「……はあ、情けない。これが将来の国王とは、いやはや、はあ……」
「何だよ!?……俺だってなあ………まあいい。だから、本当の姿の俺を桜は知らないんだ。…桜は運命の番だから、キスをすれば向こうでも元に戻れたが、襲うような真似は出来なかったんだよ」
「今はしたくせに?」
「こうでもしなかったら戻れなかったし、俺はちゃんと告白したからな。…後は俺自身を桜に好きになって貰う努力をする迄さ」
最後はもう開き直りだった。
想いを信じて貰えないなら、信じてくれるまで強硬的に伝え続けるまでだ。
この国は元々人が生きられる場所ではなかった。
この国の国王はその大きな魔力によって国を人が生きられる場所に変えた。その恩恵で民はこの国でも生きていく事が出来たのだ。。
だが、力は有限ではない。その力の使い方は身を切るような物だった。
その功績を称えた神は、人のために生きる国王を神の力で守ったのがこの国の始まりだった。
但し、数十年に一度その守りの力が弱くなると、守りの力に綻びができ、反動で力が弱くなる。
その力を補うのが運命の番。
だがその呼び方は一部の限られた王族と側近しか知らない。
一般的には、運命の乙女と呼ばれ異世界から来るとだけ言い伝えられている。
実際には、王自らが異世界まで赴き花嫁を連れ帰ってくるのだが、これも知られてはいない。
そして…リュートの曾祖母が正に、この運命の番だった。
まさか、現国王は息子の時代に運命の番を探さなければいけない事態になるとは思っても見なかった。
そう王太子であるリュートが生まれる前迄は……。
王太子であるリュートは産まれた時から魔力が安定していなかった。成人まで持たないかも知れない、そう医師からは言われていた。
だから、運命の番をリュートが探しに行くことは、産まれた時から決まっていたことだったのだ。
但し、恩恵もある。
運命の番を得た王の時代は繁栄すると言われており、現に曾祖父の時代は栄えた。
だが、そんな事を桜が知るのはずっとずっと後の事である。
◇◇◇
桜が次に目覚めた時に側にいたのは、小さな見知ったリュート君だった。
「…リュート君、もう用事は終わったの?」
「終わりました……すみません、こんな時に桜さんの側を離れてしまって…」
「う~ん、大丈夫だよ。…あれ、えっとリュート君に良く似た男の人がいたと思ったんだけど?」
「はい………僕が側にいられないから、代わりに側に付いていて貰ったんです。…ただ、彼の方が僕より忙しいから、あまり会えないかも…」
「じゃあ、リュート君からお礼を伝えてくれる?」
「解りました、任せてください」
「其れで?そちらの方は?」
桜の視線の先にはカムイが綺麗な所作で、立ってこちらを見守っている。
ただしリュートにはわかっていた。
カムイはその視線で、『何故に嘘をつくのか?…』と言っているのを。
「ああ、彼は僕の側近です」
「側近って………じゃあやっぱりリュート君はお坊ちゃんだったんだね」
桜の知識では、お金持ちのお坊ちゃんだと思っても仕方がないのかもしれない。
「一応、………この国の王の息子です」
何とも間抜けな自己紹介になってしまった。
カムイは小声で『だから言ったでしょうが』等と言っている。
「じゃあ、リュート君は王子さまだったの!?」
驚いたのは桜である。
「桜さん、黙っていてすみませんでした」
「いいえ、立場が有れば安全のために言えないは解るから、気にしないで?」
ちょっと寂しい気持ちは確かに有るが、それは言葉通り立場が有ればしょうがないと理解してる。
だから気にしないで欲しいと伝えたのだが、リュート君は複雑そうな顔をしている。
それもその筈、リュートは自分自身を見て桜に選んで欲しいと思ったから、言わなかっただけなのだから。




