バードの生い立ちpart4
忘れないで読み続けてくれたあなたへ
感謝を込めて……
「王にとって運命の番とは、女神の血が薄れてしまった事により弱まってしまった力を補う事が出来る相手、という訳なのさ」
「なっ……!、それじゃああんまりにも桜様が…」
それ以上の言葉を告げる事はバードには憚れた。不敬になるから、という理由ではない。
まるで、器としてしか必要とされていないみたいに見えるだなんて…これじゃああまりにも桜という女性が不憫だったからだ。
彼女その者を誰も見ていない様な気がしてならない。
「桜様は、どうして城から逃げてしまわれたのですか?…貴女は何かご存知なんじゃ無いですか?」
他国の王女の輿入れ希望だけが理由でいなくなったとは思えない。ついつい見た目老女にガタイの良い大の男が詰め寄る様に喰い付く。
まあ、当のマルタは蛙の面にしょんべんだ。
「情緒が不安定になっていた事も原因と言えば原因だが、あえて言えば彼女の意思ではない、とだけ言っておこうか」
悪名高いマルタだ。本来ならリップサービスナンテする程安い女じゃ無いが、そこは親友の息子という事で少しは絆されてしまう。結果いつもは固い口が柔らかくなってしまっても仕方がないだろう。
「では、やはり女神が絡んで…」
推測が当たってしまったのか?
あの桜大事の王太子が必要以上に厳重に張り巡らせた警護という名の檻の中から抜け出すのは人外の力が働いたとしか思えない。
「それも違う……あの子等は複雑なのさ」
マルタはこれ以上桜が城を出た理由を教えてはくれなかった。ただ、自分達は彼女の意志を尊重して保護をしているだけだとは言っていたが。
「さて……桜に会いに行くかい?」
「会わせて頂けるんですか?」
あまりにもアッケラカンと言ってくるからついつい素で切替してしまった。敬語何て何処に飛んで行ってしまったのやら、だ。
「ああ、お前だけなら構わない。ただ、あの坊やは駄目だ。自力で見つけて会いに来ない限りは、会えない」
マルタは会えないといった。マルタが会わせないのでは無くて何らかの理由で会えないのだろう。なら、自分だけでも彼女の側に行って守るべきなのでは無いだろうか。
バードはそう判断するとマルタに、彼女の側にいさせて欲しいと頼んだ。
ゴネるかと思ったが、母親の親友らしき彼女は2つ返事で了承してくれたのだ。それはバードがバードだから出はなく、母の息子だからだと思うと思いの外其のことがショックだった。
軽く打ちのめされていると、年老いた女性の姿だった彼女は妖艶な美女の姿に変わっていくではないか。
「ぇ?何で変身したんですか?…」
「はあ!?…変身じゃなくて変装してたのを解いて元の姿に戻っただけだろうが……」
何言ってんだ、コイツ。と目が全てを語っている。
「いや、だって、母さんと同い年何でしょう!?ならその外見は反則ですって!!どう見たって俺とそんなに変わんないから!」
「魔女は普通の人間より長生きなんだよ。…面倒だからあの姿になっているだけさ」
まあ、この見た目なら言い寄る男は星の数だろう。
それを考えて、バードは自分の中でモヤッとした感情が生まれたのを何とか握り潰した。
それだけでは無くマルタは肉体年齢に合わせて衣装も若返らせた。
ボディラインを活かした胸元と背中が大きく開いた黒のドレスは彼女のスタイルの良さを際立たさせた。脚の付け根から入ったスリットが余計に艶めかしい。
似合い過ぎているけど、何故かどんな男でもマルタのこの姿を見られたくなかった。
ああ、そうだよ、此処まで来たら認めるよ。認めるよ。俺は生まれて始めて嫉妬してるんだ。
「何時までゴネてるんだい?…ほら行くよ!」
そう言うと、バードの首から上をヘッドロックをカマスみたいに掴んで呪文を唱えだす。
彼女の豊満な胸の片方に顔を埋める形になっているバードは、初心な少年に戻った様に真っ赤になっていた。
幼い頃、英雄に憧れるのと同じ様に、母親が話す彼女の武勇伝を聞かされていたバードだ。
無理も無いことだった。
輝く光が収まると一軒の小ぢんまりした民家の家の中に二人は立っていた。
正確にはバードはまだマルタにヘッドロックされたままなのだが。
「お前さんは他人の家に不法侵入するのをいい加減止めたらどうだい?」
声のする方を見ると、老女と、桜がビックリした顔でこちらを顔見していた。(正確には驚いていたのは桜だけだが……)
「煩いね…アンタが人の行動をとやかく言えた口かい!…用がなきゃこんなとこには来たりしないんだよ!」
「しかも姿まで戻して……らしく無いね」
「……大きなお世話だよ…」
二人にとっては何時もの様に言い合いしていたのだが、桜が驚いているのをみて言い合いを止めた。
「綺麗なお姉さん……がヘッドロック……」
「綺麗なお姉さんって、桜。この女はマルタだよ…」
桜は驚きで鳥の雛の様に口をパクパクさせていた。
「私が言うのも何だけどさ。疑わないんだね?」
「ぇ?…嘘何です?!」
「いや、ホントだが‥」
こうしてバードは近くからは始めて桜と対面したのだった。




