バードの生い立ちpart2
どんな機密を漏らせと言われても従うしかないとバードは考えていた。
この国で、運命の乙女である桜様よりも優先すべき事項何て無いと考えているからだ。
彼女がこの国の王太子であるリュート様に嫁いで来てから、天候が安定し食物が良く育つようになった。
貿易も活発になり、海沿いの街では魚も良く捕れ漁師達の生活も向上した。
伝染病等病の類いすら改善しつつあると報告が上がっている。
全体として守りの力が働いている事は間違いなかった。生活が潤うから俺達のような孤児も少なっている
。王太子妃費から、自分には必要ないからと教会にも多額な寄付を寄せてくれたから、親のない子供達の衣食住は大きく改善していた。
彼女が定期的に訪問してくれる様になって、リュート様の視察も増え腐敗の温床だったかつての教会では無くなったのだ。
不正を行っていた、牧師や官僚達の首は全てすげ替えられた。感謝してもしたりない位だ。
弱い者に優しい国に変わって来ている。
……………餓えて死ぬ者がいなくなった……………
そんな矢先の今回の騒動だ。
バードは憤りを隠せなかった。
何故こんなにもこの国に貢献してくれている妃を蔑ろに出来るのだろうか?
上位貴族達はそうは考えていないのかも知れない。
桜様を多額の金と王に匹敵する権力を与えれば満足だろうと、浅はかにもそう考えているのだ。
バードは度々彼女の護衛につく事があった。遠くから近くから彼女を見ていれば、そんな物を欲しがる女じゃ無いことは簡単に解る。彼女が求めているのは愛した人との穏やかな生活だけだ。本来なら王太子妃何て立場も彼女にとっては邪魔なだけだろう。他者に優しく愛した男の為だけに文句も言わずにただひたすら努力し続ける姿は、近衛騎士や侍女も好感を持って見守っていた。
弱き者にとって優しい権力者は願ったりだったから。
そんなバードの思いとは裏腹にマルタが聞いてきたことはバード自身についてだった。
「えっ……?俺」
「ああ、あんたの両親、特に母親について聞きたい」
「桜様の事じゃなくて良いのか?」
戸惑いを隠せないバードだが、別段隠している事では無いのだが、簡単に教えられる事だとしても桜様安否確認と引き換えに教えてくれるならその方が断然いいに決まっている。
「ああ」
「俺が教えたら、桜様の事を教えてくれ」
「私は嘘はつかないから安心しな」
「俺は父親を知らないから、その点については答える事が出来ないんだが、母親についてなら知っている限り答える事が出来る。………それで、ばーさんは何が知りたいんだ?」
「あんたの母親の名前は?」
「エリス……家の名は俺も解らん。………まあ、気楽な平民だしな。元々無いのかも知れないが」
「!!!」
核心に近い物はマルタの中にあったとは思うがそれが確実になった。………エリスはマルタの同僚の魔女の名だった。少し変わった娘で魔女にしちゃ優しすぎた。
普通の人間の男を好きになったと言って姿を眩ました親友の名前をまさかもう一度聞けるとは思わなかった。魔女にとってのご法度を犯し追放された親友をマルタは助ける事が出来なかった。
正確には、逃げ切る迄の間の時間稼ぎ位しかしてやれなかったのだ。それすらも実はとても大変な事なのだが、それでもマルタの心に大きな痼が出来たのは事実だ。その事が原因でマルタは一族から離れて今ではここで姿を変えて暮らしている。
マルタは老婆の姿から年の頃にして20代後半の美女に戻りバードの前に立った。
いくら魔法が使える国だとしても普通の男なら驚きで腰を抜かすところだが、バードは驚きもしなかった。
「驚かないのかい?」
美女の姿になったマルタがバードに問う。
「ああ?……十分驚いてるさ」
と言っている割にはその表情は飄々としている。
「まあ、どうやらあんたは母さんと知り合いらしいしな。俺の母親も不思議な力を持っていたから、母さんの知り合いならそこまで意外な事じゃないさ」
「成る程ね。………まあ良いだろう。………それで?エリスは今どうしてるんだい?」
「母さんは俺が子供の頃になくなったよ」
「!!!!……何故?」
まさか、会えなくても何処かで元気に暮らしていると思っていた。いや、思いたかったのかも知れない。
「俺もあんたに一つ聞いていいかい?」
「ああ……」
マルタはショックを隠せなかった。
自分がもっと助けてやることが出来たのなら、親友の未来も変わっていたのだろうか?
「……貴女のお名前は?」
急に礼儀正しくなったバード。だからと言って今までが傍若無人だった訳ではないのだが……。
「……マルタ」
「貴女がマルタさんなのですね……」
「何だい急に改まって気持ち悪い奴だね」
ショックを受けたからと言ってマルタは腐っても上級魔女。表面上は感情を持ち直すと持ち前の毒舌で応対する。
「母が生前貴女にとても感謝していました。………自分達が生きていられるのは貴女のお陰だと。もう会えないけれど、叶うならお礼を伝えたいと言っていましたので…」
「止めておくれ!!……助けて何て無い。私は困っている親友を助けてやることも出来なかった!!」
「母達の一族にとって、あの時の貴女の行動はどれ程勇気がいるものだったか、母はちゃんと理解していました。………貴女に申し訳無いと、ずっとそれだけが心残りだと言っていました」
「お前さんは何処まで知っているんだい?」
「母からは知らない方が幸せな事もあると、あまり詳しくは教えられていませんでした。………ただ、あの母なので、ちょくちょく不思議な力を使っていましたから……特種な力を使う部族なのだろうな、とは子供心に思っていました。最も母自身は無意識何ので、俺が気付いているとは思ってもいなかった様ですが……」




