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逃亡[リュート編NO.2]

 例え、誰も部屋には入らないでというのが桜の意思だとしても、マリアが恐ろしく冷たい視線を送ってくるが、桜が寂しい思いをしていたと知ってそのまま会わずに帰る何て選択肢はリュートには端から無かった。


 ノックをして声を掛けても桜からの返事はなく、リュートは躊躇いながらも二人の寝室のドアを開けた。

 眠っていても良い。それなら起きる迄抱き締めていれば良いだけの話だ。


「桜?…」


 眠っている事を考慮して小声で問い掛けながらリュートはベットサイド迄近付いて行く。

 本来なら番としてその存在を細胞レベルで感じる事が出来る為、近付くことなく何処にいるか分かる筈なのだが、この時のリュートは連日続いた事後処理と立て続く激務、そして睡眠不足で正しい思考回路ではなかった事……()()()()()()()()()()()()()()()()全てが悪い方に災いしていた。

 そう……気付けない筈がない場面でリュートは気付けなかったのだ。


 近付いても桜の姿は何処にも無かった。


「桜!!くそ!!、マリア!!」


 桜がいた筈の部屋でリュートが大声を出したので、その声音だけでマリアは素早く駆け付けていた。


「何故桜がいない!!…この部屋で休んでいる筈では無かったのか!?」

 リュートの恐ろしい剣幕に流石のマリアも気圧されたが、直ぐに気持ちを立て直すと、リュートの問い掛けに答えた。


「え!?…確かに桜様はこちらでお休みになられていました。私がずっとドアの前で待機しておりましたから間違いありません。バルコニーも護衛騎士が警護に当たっていますから気付かないことなんて……」


 困惑しているのはマリアも同じだ。

 この宮殿で、誰にも見付からずに抜け出す何て不可能だ。特に今は海外からの来賓が入国している為、国の至宝たる運命の乙女、桜の警護は厳重に行われていたのだ。部屋のドア前にはマリアが離れずにいた。

 仮にバルコニーから出たのなら直ぐに護衛騎士からマリアに連絡が来る筈なのだ。

 それが、まるで神隠しにでもあったかのように忽然と姿を消した。


 リュートはマリアに、カムイに捜索部隊を編成するように伝える指示を出すと自身はバルコニーから飛び出した。マリアがドア前にずっといたと言う事は、少なくともドアから出たという事はない。それくらいには、リュートはマリアを信頼していた。

 バルコニーからは庭に出られる。リュートがバルコニーから飛び出して来たことで、騎士達は驚いていたが、其処にはちゃんと護衛騎士が警護に当たっていた。


「桜が庭に出なかったか!?」


 逸る気持ちを抑えられずにリュートは問い質した。


「王太子殿下!!桜様は一度もお出になられて降りません。」


 嘘を言っているようには感じない。育った環境が特種だった為、リュートは嘘をついている人間は簡単に見破る事が出来る。

 ただ、なら何処から桜は消えたのか!?

 寝室は、部屋の主以外が掛けた魔法……は無効になるから、少なくとも魔法で消えた線は薄い。


「この場所から例え少しでも離れた時間はあったか!?」


「……いえ、ずっとおりました!!…あっ、そう言えば……」


「そう言えば何だ!?」


「王太子妃宮殿に滞在されている王女殿下が庭を通じて此方の様子を伺っている様でしたので、お止めするためほんの僅な時間ですが離れましたが、直ぐに此方の女官に引き継ぎました」


 目眩が起きそうなのを必死に堪えながらリュートは鈍っている頭をフル回転させていた。

 王女が此方に入って来ただと!?


「用件は何だ?……」


 国を代表とする王族である以上馬鹿じゃない。

 立場もわきまえている筈だ。

 ここが王太子宮殿で、例え妃候補であったとしても勝手に入ることは許されない。それが解らないとは考えにくい。


「世話になった此方の黒髪の侍女にお礼がしたい、との事でしたが…」


「黒髪……世話になった?……」


 髪の色が黒色なのは桜しかこの国にはいない。有り得ない筈だが、嫌な予感がする。


「申し訳御座いません。長く護衛を離れる訳にはいきませんでしたので、私共も詳しくは……」


 申確かに桜の安全がが最優先だ。これが賊が押し入ったのなら話は別になってくるだろうが、相手は王女だ。対応を引き継ぎ直ぐに護衛に戻った騎士達の行動は間違ってはいない。


 何だろう?違和感でしかない。タイミングが重なりすぎている。

 あまり関わりたくは無かったが、侍女に話を聞くよりも王女に話を聞く方が早そうだ。

 リュートはその足で王太子妃宮殿迄赴いた。

 先触れも無しに行くことは失礼に当たるだろうが気にしている時間はない。最愛の桜が行方不明なのだ。それは外交よりも優先される。

 こんなことなら、気持ちが良い事では無いが先に桜に王女が来ている経緯を伝えておくんだったと後悔した。全て片付けてから話そうと思っていた。

 桜の心の負担を少しでも減らそうと考えていたのだが、それが裏目に出てしまったのではないか?

 そもそもこの件は桜には決して伝わらない様箝口令を引いていたのに。

 どうして二人が接触する事になったのだ?

 いや、そう決めつけるのは尚早か……。

 リュートは自身も入った事がない、王太子妃宮殿に初めて足を踏み入れた。

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