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宮殿での生活

 桜の戸惑いの言葉は華麗にスルーされ、リュートは動作を一度も止める事なく満面の笑みのまま念入りに桜の身体をマッサージしていく。


「リュート………仕事は?」


 桜は元々大人しいだけの女じゃない。自分の意志はちゃんと持っているし、発言も出来る。

 けれど不満を露にし氷点下迄下がった桜の声音にもリュートは動じなかった。何故なら、マッサージの魅力の方が凌駕されているから。

 マリアがしてくれていた時よりもかなり際どい場所を念入りに、剣蛸が出来た大きな男の人の手で撫で回した。

 後ろからするりと滑り込む大きな手が、胸の膨らみにそっと触れれ、その手は足の付け根、お尻に背中に太腿と次々に撫で回していく。優しいが力強いその手は的確に桜の弱い部分を探り当て…そして翻弄する。

 その手のリアルな感触に否が応でも高まる心と身体が、次第に覚えたての熱を呼び覚ましていった。

 やめて欲しい……止めないで欲しい。桜の中でも相反する感情がぶつかっては消えて行く。

 マリアも近くにいる(正確には近くではないが)ただ……こんなところで声なんて出したくない。

 マッサージと言うよりは愛撫に近いその行為に頭がくらくらして、正しい判断が段々出来なくなってくる。


「勿論終わらせてきたよ」


 特に気にした様子もなく伝えてくるリュートに桜は過度な刺激も相成って少し目眩がした。

 手の掛かる子供の面倒を見ている様だ。

 やっている事はとてもじゃ無いが可愛げ何て無いけれど。


「じゃあ、こんなことをしてないでもう休んで?……疲れているんだから」


「ヤダ………」


 まるでだだっ子見たいなリュートを、それでも何とか休んで貰いたくて桜は考えた。

 ただ怒っただけでは聞きそうもない………となると、後は……。


「私がリュートのマッサージをしてあげるから、ね?」


 日頃忙しいリュートを本気で心配する余り一杯一杯だった桜は、それが墓穴を掘る事になろうとは夢にも思わなかったのだ。

 だがリュートはこんな美味しい状況を見逃す程甘くはない。


「………本当?……じゃあお風呂で背中も洗ってくれる?…」


「勿論……って?、え?…」


「有り難う!!さすがは俺の奥さんは優しいね!!」


 リュートは若干被せ気味に言葉を重ねてくる。

 やられた!!…そう気付いた時には既に遅かった。


「ちょっ!!……待って!!」


 その言葉を聞く事なくリュートはマリアにお風呂の準備を頼んでいた。

 桜はあれよあれよという間に準備の整えられた浴場に保々無防備な姿で立っていた。

 大きく神殿の泉のような御風呂は、一人で入っていたなら、また気の知れた女同士で入っていたなら、テンションが否が応でもでも上がっていた事だろう。

 唖然としたのは桜だけで、リュートは浮き浮きとしている。

 何故にこうなってしまったのか?


 バスタオルを身体に巻き付けた桜が同じくタオル一枚でいるリュートと二人で大きな大浴場にいる。


「良いお湯だよ、桜」


 桶を使い身体にお湯を掛けながらそんな発言をしているリュート。


「………」


 誰より大切で大好きな夫とだから、勿論嫌じゃない。

 ただ恥ずかしいだけ。

 でも、全部を見られる事に抵抗が無い、何て事は有り得なかった。自分よりも綺麗な男を前にして自信を持てる女が何処にいるだろう?


「私はもうお風呂に入ったから遠慮します………」


 恨めしくも細やかな抵抗を見せたが、リュートには効かない。


「何度入っても良いゃない?……桜は俺の背中を洗ってくれるんでしょう?」


 何の躊躇いもなく全裸でお風呂に入ろうとしたリュートを桜が全力で止めて、前だけはタオルで隠して貰っている。

 ギリシャ神話の彫刻見たいな格好は、彫刻ならただ美しいと思って終わるだろうが、生身ならとてもじゃ無いが冗談じゃない。

 リュートの鍛え抜かれた肉体は均整がとれて綺麗だが直視してしまっては、自分の中の外れてはいけない何かがガラガラと音をたてて壊れてしまう。

 身体に無数にある大小の傷さえ誂えた様に美しかった。



 腰掛けて何時でもスタンバイオーケーなリュートに覚悟を決めた桜は、タオルを掛けていても解ってしまう形を、何とか見ないようにしながら背中を優しくしっかりと洗っていく。


「誰かに洗って貰えるのって嬉しいものだね。それが自分が愛した奥さん何だから余計に嬉しいや」


 その声音だけで……彼が寛いでくれているのが解る。


「そう言って貰えると洗っている甲斐があるね」


 リュートの素直な言葉にいつの間にか桜も心が穏やかになっていくのが解った。


「じゃあ桜は俺が洗ってあげるね。…一緒に気持ちよくなろうね」


「ん!?…」


 いつの間にか不穏な空気になってきた。


「私はもう洗ったからいいの!!」


 断固拒否だ。


「………そんなに嫌がらなくてもいいのに。…俺が桜に触れるのは………嫌?」


『クッ!!』

 桜は人知れず心のなかで悪態を付いた。

 リュートは尚も汐らしく傷付いた表情を見せる。

 女性よりも儚く見える姿に、何故だか負けた気にすらなってしまう。

 でも洗ってもらうのは絶対に違う筈だ。


「嫌じゃないけど、今はリュートの疲れをとる方が先決だから、私はいいの!!」





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