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桜の花嫁修業part6

 リュートは食べ終わるとまるでそれが当然の様に食器を片付け始めた。


「ちょっと、いいよ!!…リュートまだ仕事が有るでしょう?私がやるから!!」


 慌てたのは桜だ。

 だってリュートは王太子様だ。そして何よりかなり多忙を極めている。過労死するんじゃないかって心配になるレベルなのに、その上後片付け迄させてしまっては何の為に桜がこの部屋に引っ越して来たのか解らなくなってしまうではないか。

 寛いで欲しい。安らいで欲しい。少しでも癒されて疲れを取ってあげたい、その思いで食べる行為に無気力で、ほっといたらずっと何も食べないリュートの為に食事を作ったのだから。

(カムイに桜が作った物なら残さず食べるだろうからと頼みます!!と懇願されてしまった)


「ダメだよ。…向こうの世界で桜が俺に教えてくれたんじゃないか。"お片付け"……あれ、確かになって、思ったんだ。だから、桜が作ってくれたときは俺が片付けます」


 リュートにとっても桜は大事だ。

 出来れば二人でいるときは住んでいた場所と同じ様な暮らしをさせてあげたかった。

 それが自分の我儘で、半ば強引にこちらの世界に巻き込んで連れてきてしまったリュートに出来るせめてもの事だったから。

 勿論、自分の全てで幸せにするという事は当然だから言うまでもない。

 どちらも一歩も引かず押し問答をしていると、マリアが入室してきて食器を二人から取り上げた。


「恐れ入りますが、こちらは私の仕事ですので」


 有無を言わせない迫力にうっかりマリアに手渡してしまった。


「私、やるよ?」


 何とか桜が声を掛けるがマリアは引かなかった。


「運命の乙女にして、王太子妃となられる桜様のお言葉でもこればかりは聞けません。これは(わたくし)達侍女の仕事です」


「「はい…」」


 ふたりして声を揃えて答えると、にっこりと微笑んだマリアは紅茶を入れてまた部屋を出ていった。


「ビックリした」


 桜の言葉に同意したリュートが桜に複雑そうな表情を見せた。


「確かにね。…二人だけの日々が少しだけ、懐かしいね」


 二人しかいなかったあの狭いアパート。その中ではこんな風に誰かが入ってくる事何て、当然の事ながらなかった。

 それを楽しく幸せだったとリュートは言った。

 あの日々が幸せだったと言ってくれるリュートだから私はこれからもきっとこの世界で生きていけると思うのだ。

 紅茶を一杯飲んで、桜に"いってらしゃい"のキスを、滅多に見せない王子様キラキラスマイルで要望したリュートは、根負けして恥ずかしがりながらも頬に口付けた桜の顔をそのままホールドして、ディープキスを堪能したあと仕事に戻っていった。

 完璧に降り回わされている。


 リュートが仕事に行った後程無くしてマリアが入室してきた。


「マリア、後片付け有り難うね」


 桜がお礼を言うと日頃リュートに負けず劣らず無表情のマリアが、どうして良いか解らないといった感じでおろおろし始めた。


「どうしたのマリア?」


 心配して桜が声を掛けると顔を真っ赤にしたマリアがしどろもどろになりながらも説明した。


「この国の王侯貴族の方々で、桜様の様にお礼を言ってくださる方など降りませんでしたから……」


 俯きながらそんな事を言うマリアに桜の胸はざわついた。確か彼女は第一側妃の宮殿にいた侍女だった筈だ。マリアは彼女の息の掛かった者達は大抵解雇された中で、毒されいない、カムイさんのお眼鏡にかなった人だけ残された者の一人だった。

 かなり過酷でブラックな職場だったと聞く。

 と言っても、リュートもカムイさんも桜にはあまりその辺を教えようとはしなかったが……。


「私が嬉しかったし助かったから、マリアにお礼を言いたかったの」


「……桜様…………」


 ◇◇◇


 それから念入りにお風呂で肌の手入れをされてしまった。正直恥ずかしくて死にそうだ。


「桜様のお肌は赤ちゃん見たいにすべすべですね。シミもないですし、触り心地最高で嬉しいです。(ずっと触っていたい……リュート様が羨ましい…!ボソッ)」


 ちょっと変な事を言っているマリアの言葉はスルーする事に決めた。

 見た目は美少女なマリアの言動は何かリュートみたいだ。 全身の肌にマリアお手製のミルクを念入りに塗り込まれている。


「恥ずかしいけど、とても気持ちいいね有り難う」


 ニコッと笑う桜の笑顔で顔を朱くするマリア。ここにリュートがいたら嫉妬して割り込んで来る事だろう。

 あまりの気持ちよさにいつの間にか眠ってしまった桜は、刺激的なマッサージの刺激によって目を覚ました。


「うっ……ん。あれ?……マリア?……」


 ちょっと強すぎる刺激を止めて貰いたくて俯せ状態から顔をあげると、何とマッサージをしてくれている人がマリアからリュートに変更されていたのだ。

 マリアはというと遠くの柱の影で服を噛んで悔しがっていた。


「何で………リュート?」


 訳も解らず疑問を浮かべる桜にリュートは、


「桜の身体のこの位置、…………触れて良いのは俺だけでしょう?……例え女性でも俺は許していない」


 さも今マッサージしている状態を当然だと言っている。


「……ちょっと意味解んない」




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