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桜の花嫁修業?part2

「あのね……桜。……桜は俺にとって唯一無二の大切な女性なんだよ」


 隣で恋人に熱い愛の告白を言われれば、赤面ものだろう。どんなに面の皮が厚くても茹で蛸になってしまうのは仕方がないと桜は思う。

 思うけど、でもきっと真面目な話だと思うから慌てて話を中断させたくなくて、桜は腕を膝の上に乗せると心の温度の急上昇に耐える(悶える)様に手を拳に握り締めてぎゅっと体事心を押さえ込んだ。


「……」


 でも、答えられない。

 嬉しい、でも何て言って良いのか解らない。

 ……頭が正しく作動しない。

 誰にもこんなに強く自分を求められた経験何て皆無だ。親や兄弟は別枠だからカウント出来ない。


 もどかしい自分でもどう表現して良いのか持て余す感情、その心すら掬い上げる様に、リュートにはちゃんと伝わっていたらしい。

 ポンポンと頭を撫でられた。


「……子供扱いしてるでしょ?」


 好きな人に頭を撫でられる事は勿論嬉しいに決まってる。でも……上手な、手慣れている感にちょっと悔しくなって睨んでしまう。

 何より手慣れている感が、心をモヤモヤさせる。


「子供扱い何てしてないよ、ちゃんと大切な女の子として扱ってるでしょ?だって、子供扱いしていたらこんな事出来ないし?」


 リュートはチュッと桜の頭に口付けた。

 途端に又、押さえ込めていた筈の恥じらいが爆発する。もう、真っ赤になる顔を押さえられなかった。

 整い過ぎている目の前の愛しい男の顔が今は憎らしい。


「う~!!」


 ぽかぽかとリュートの胸を叩くがHPを削る事は出来なかった。リュートに取ってはまさしく痛くも痒くもないと言うやつだ。


「話をはぐらかさないで!」


 桜はリュートの顔を自分の両の手の平で包み込んで真っ直ぐに見詰めた。


「……はは、バレていたか。……でも言いたくない訳じゃ無いんだ。……ただ、俺は出来る事なら桜に要らない心配や不安はさせたくなくて……」


 リュートが不安になっているのが、その瞳を見ていれば良く解る。

 きっと私をとても大切にしてくれているからこそなのだろうと言う事も。


 桜は安心して欲しい、その願いを込めてリュートの首に抱きつき、そして抱き締めた。

 伝われば良い。

 体温から、くっついたゼロ距離の距離感から、私はずっと側に要るのだとお母様の様に貴方を置いて死んだりはしないのだと、誰よりも置いてかれる事を恐れる貴方に伝われば良い。


「桜……」


「大丈夫、大丈夫だよ。……リュートは独りにはならないから。……私はずっと側にいるから。……それにね、リュートのお母様もずっとリュートを見守っているんだよ」


 悲しそうに、情けなさそうな顔をする。

 きっと、この人のこんなの表情()を知っているのは私だけだと思うと、不謹慎にも嬉しさが沸き上がってしまう。

 生まれて初めて感じるこの手の罪悪感。

 リュートには消して知られたくない女の感情を桜は覚えた。


「……情けないね男は……女性の方が実は強いんだ。守っているようで何時だって心を守られてる」


 呟く様に『抱き締めていて…』、そう言うとリュートは意を決する様に重い口を開いた。


「桜と繋がったことで俺の力が安定した事は、桜も知っているだろう?」


「うん、リュートから聞いて知ってるよ」


「今までは俺はいてもいなくても良い存在だったから、面倒くさい連中から目をつけられる事もなかっんだ。……でも桜と言う運命の番を得て、この国の王位継承者として地位が確立してしまった今は、良くも悪くも色々と目立ってしまった。……別に俺だけならどうとでも出来るんだけど…………」


 リュートはそこまで言うと、また一度口をつぐんだ。

 桜は敢えて急かせる事はせずに黙ったまま抱き締めていた手で、背中をポンポンと撫でた。

 親が赤子を安心させる様に。


「奴等は俺のアキレス腱が桜だと解ってしまった。……桜を失えば俺が壊れて自滅することに気付いてしまったんだ。……これから先、きっと桜は奴等に狙われ始める。勿論、桜の事は絶対に守るし、奴等の目に触れさせない様に宮殿の中で誰の目にも触れさせずに真綿でくるむ様に俺だけの桜でいて欲しいって、厳重に囲って安心したいってそんな考えも正直過ったよ。……でも俺は………、二人でこれからを生きてくために、桜に……隣に立っていて欲しいと……」


 二人で正面から見詰めあった。

 お互いの感情を一つも取り零す事なく拾い上げ、理解しようとするかの様に、片時もその瞳を離さない。


「うん。……私はリュートの奥さんだから、ちゃんと頑張るから、今は出来ない事の方が多いと思うけど、頑張るから。命を狙われる事は、勿論怖いけど、でも……だからと言って、何も知らないまま、守られるままの存在にはしないで。私を信じて………私が貴方を守れるように頑張るから!」


「うん、うん…………あり………とう」


 リュートは涙ぐんで、最後の方は声にすらならなかった。

 それだけ、桜を失う事を恐れていたのだ。

 命を狙われる位なら手放す方が彼女の為かも知れないと思っても、絶対に離せないから。


 それに、自分の事も信じていなかった。

 もしも、桜が怖いからと離れていったらと思うと戦場では一度も感じたことがない恐怖を味わった。

 自分が死ぬ事を恐れた事は無いけれど、桜だけは失くせない。


 この恋情は執着で、綺麗な愛情とは程遠い事は自覚しても、依存していると気付いても、一度知ってしまったこの幸福を、もう手離す事は出来ないと誰よりもリュートが気付いてしまった。

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