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ご機嫌な理由は…part2

 もう細かい事に突っ込むのは止めよう。

 早く慣れないと居たたまれない。

 元々桜は、大家族で育ってきた為、順応性が高かった。其に性格上大抵の事はそのまま受け入れてしまう器の出かさもある。

 それは、誰にでもあるスキルじゃない。

 桜の性格だから、異世界から自分の国に来たというリュートを寸なり受け入れた。


「リュート……身体は大丈夫?……もう苦しくなったりしないの?」


 大事なのは、初めから一つだ。

 それ以外はきっとどうでもいい。


 隣で見上げる様な素振りをする桜。リュートとは身長差が有るから座っていてもリュートの方が必然的に高くなる。


「ああ、桜のお陰で生まれて初めて身体が軽いんだ。原理はまだ解らないけど、今のところ、魔力も安定している」


「そっか………なら良かった。もう具合悪くなったりしないのね……」


 ホッとする桜を愛しいそうに見詰めるリュート。

 それを見ていて、カムイやユリア迄嬉しそうだ。


 いつも幸薄そうだった幼馴染。魔力が不安定な性で身体が弱く二十歳迄生きられないと言われていた男が、殺しても死にそうも無いくらい元気に最愛の女性と共にある姿を見れた事は、二人にとって何よりも嬉しく、また安心もしたのだ。


 生きられないと思われていたから、周りから蔑ろにされていた。居ないも者と思われていた廃棄王子。

 女神の祝福を受けていたから辛うじて生かされていただけの存在。

 それを本人も、しょうがないことと受け入れていた節があった。

 その癖、カムイやユリア達は守ろうとするから居たたまれない。

 いくらユリア達が大事だ、大切だと言っても、本当の意味で救われる事が無かったから、二人は誰よりも桜に感謝をしていた。


「うん……桜のおかげだよ……有り難う」


「私は何もしてないよ?……リュートが元気になれたのは、カムイさんやユリアさん達が今まで支えてくれていたからでしょう?……有り難うってちゃんと言ったの?」


 まるで母親が小さな子どもに教える様な言動だが、大の男が若い女性に言われて大人しく従っている姿は傍目で見ても意外で面白い。


「え………うっ、………有り難う…御座います…」


 感謝は勿論している。大事だとも思っているが、家族に言葉を伝えるのを恥ずかしいと思ってしまう様に、カムイ達にそれを伝えるのはむず痒い。


「私に言っても駄目でしょう?……私に言えるのだから、言える筈だよ」


 周りの男達への牽制もあり、桜に愛を伝えるのを恥ずかしい事だとは微塵も思っていないから、その例えは正直納得が出来ない。

 出来ないけど、リュートだってカムイ達には、心から感謝をしているから腹を括った。


 姿勢を正しく、桜の肩にあった手を自身の膝の上に拳を作って乗せた。


「心配かけて申し訳無かった。……今まで側で支えてくれて有り難う。……これからはどうか桜の事も支えてあげて欲しい。……その代わり、俺がお前達や将来の子供達が苦しむ事が無い幸せな国にして見せるから」


 将来国を背負う王としての気概の言葉だ。

 真っ直ぐ見詰めて頭を下げる姿は、誰よりも凛々しかった。


 カムイとユリアは揃って立ち上がると臣下の礼をする。


「永久にこの身を捧げ、リュート様と桜様に忠誠を誓います…………リュート、お前も桜さんも俺達が最後まで守るよ」


 最後は友としての言葉だった。

 その後、カムイ達はこれからの事を話し合い執務室を出ていった。

 2時間後にまた、来ますと言って。

 その中には第一側妃やリュートの弟達の事も含まれていた。

 臣下に下り、公爵とは名ばかりの辺境の土地に生涯幽閉される弟殿下。リュートが何も感じない訳はない。でも、生きていればきっと彼女はリュートの命を狙い続けるだろう。それを思うと複雑だった。


 二人が出ていった後どうなったかというと、執務室の奥の部屋は仮眠が取れるように簡易ベットが置かれていて休める様になっているのだが、そこにリュートと二人でベットに腰掛けて座っている。

 はて、話をするなら執務室でも良いのではないか?其に寝室と違いこの部屋のベットはシングルサイズで、桜にとっては見慣れた大きさだが、長身のリュートと共に座っているには小さい。


「…そう言えば、リュート、儀式ってなんの事?」


 桜は、昨日の今日で照れもあり、先程の事を聞いて見る事にした。


「俺が初めて桜の中に入った時、二人で互いの左手の薬指を噛んだのを覚えてる?」


「!!!!!」


 あの時は、痛いやら恥ずかしいやらで正直記憶が曖昧だったけど、リュートが指を口に入れてきて、『噛んで?』と言ったことを思い出して来た。しかも結構思いっきり噛んでしまった。

 リュートも桜の指を噛んでいたけれど、それが左手の薬指だなんて解るほど余裕もなく、噛まれていても破爪の痛みで、桜にとっては些細な事だったのだ。


「…思い…………出した」


「うん、それが儀式。指から少し血が滲む位噛んだでしょ?その互いの血を舐めるんだ……その行為が儀式だった」


 桜に何も説明せずになし崩し的に、事後承諾の形で伝えるリュートは確信犯だ。

 元々、嫌だと言われても離すつもりなんて初めから無かった。



 まるで、毒に侵され感情が支配されている様に桜を愛している。その愛情は、いっそ狂喜だと当のリュートも理解していた。


 離してあげられない代わりに生涯の愛を誓う。大切にすると誓うから……………。

 どうかずっと側にいて………出来れば望んで側にいて欲しい。

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