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リュートと第一側妃part3

「!!!」


 桜は何も言えなくなってしまった。


 流石に、この世界の人間ではない桜も何も、彼女が何の罪にもを問われないとは考えていなかった。

 きっと、………重い罪だろうとも考えていたけど、実際にリュートの口から聞かされると、それは考えていたよりも重く心にのし掛かった。


 命は何よりも尊い。


 桜はそう両親から教えられて育ってきた。

 兄弟が多く消して楽な生活では無かったけれど、父も母もちゃんと人として何が大事かを教育してくれたと自負している。それを根本から覆す様な事が目の前に起こっていた事に少なからず拒否反応が起こったのだろう。

 桜がいたことだろう世界にも勿論死刑はあるし、戦争をしている国も確かにあった。

 あったけど、それが少なくとも身近にはなかった。


 彼女の罪は命を奪われなければならない程の物だったのだろうか?

 この世界に、この国の事情に深く携わっていない、言ってみれば部外者の桜は………今回の事を詳しく聞かされてはいなかった。

 国を売った?

 麻薬を密輸をした………。それによって、罪もない人が壊れてしまう事もあるだろう。

 場合によっては、亡くなってしまうことも……。

 でも、それで死刑になる事は……多分私のいた国では無かった……。


 今更だと思われるかも知れないが、解っている様で解っていなかったのだ。

 突如として、この国で、そしてリュートの隣で生きている事の重みを理解した。

 勿論、絶対に彼女の様に、人として道に外れる事はしないけれど………。


 黙り混んだ桜をリュートはただ側で優しく抱き締めて、背中をポンポンと撫でてくれた。

 それだけで、暗く沈んでいった心が癒されて浮上していくのが解った。

 だから、やっと……今辛いのも、慰めが必要なのも、桜では無い事実を思い出した。


 優しい腕の中で、桜は『……ごめんなさい…』と呟いた。聞こえるか聞こえないかと言う声だったけど、距離感が1未満なリュートは、声を音として出はなく言葉として拾い上げた。


「どうして良いのか桜が謝るの?……桜は俺との未来をちゃんと考えてくれたんだろう?……ちゃんと考えてくれたから怖くなった………それはおかしな事じゃない。人であれば当然だ。権力を持ち、それを使うのなら、それによる責任が生じるのもまた、当然なんだ。罪も重くなるのも当然。義理の母(母上)はそれを履き違えた。」


 リュートはその言葉の間も…背中を撫でるのを止めなかった。


「………もう、俺といたくない?………帰りたくなった?」


 顔が見れないから、何を思ってリュートがその言葉を言ったのか、予測するしか出来ない。

 彼は今、何を考えているのだろう。


 桜のなかに、不思議とリュートと離れると言う選択肢は全く無かった。


「……怖いのは、絶対に越えなくては行けないものだから…考える事を止めることも出来ない事だから」


「桜?…」


 リュートは抱き締め、撫でている手を止めて、驚いたように私の顔を見詰めてきた。


「私………もう、リュートと離れる事なんて絶対に出来ない。……一緒に生きていくなら越えなくては行けない事。だから、とても怖かったの……」


 今度はちゃんと真っ直ぐ目を見る事が出来た。


「側にいるから、俺が守るから、義理の母(母上)の様に独りで逝かせる事はしないから………だから、俺を捨てないで…………」


 小さな子供見たいに不安そうな顔をする、桜は涙めになったリュートの頬を撫でた。



「バカだなあ……リュートも怖くなっちゃった?」


 自身の頬を撫でる桜の手を自分の手を重ねて握りしめた。

 桜は知らない事だが、リュートが他の女に、と言うより他人に自分の顔を触れさせる事は貴重だ。

 医療行為や武術訓練を除けば初めての事だった。

 師匠であるジンにも触らせたことはない。

 育ってきた生きざまのせいでも有るだろうが、其くらい、リュートの闇もまた深かった。

 無条件でその行為(顔に触れる)を受け入れるのは桜だけだ。


「怖いよ……桜が離れて行くことが何より怖い」


「離れないよ。……私はリュートのお母様に誓ったの、ずっと死ぬまで側にいるって……今度はリュートに誓うから」


「桜!!!」


「うわ!!」


 いきなりだったから桜は驚きの声をあげた。

 リュートは無邪気に喜んで力一杯抱き締めたのだ。


 普段はただカッコ良くて、凛々しいのに。

 恐ろしく整った顔をした青年が、まるで小さな子供みたいに喜んだ。


 二人はどちらかともなく眼を閉じた。

 顔と顔がが近付き、唇が重なる。

 それは、そうする事がまるで自然な行為であるかの様に、自分の心が寸なり受け入れた。

 初めての行為では無いのに……まるで生まれて初めてした様に、心がドキドキする。



 この先に進む不安はもう無かった。




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