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リュートと第一側妃part2

 騎馬部隊は到着すると馬を降りリュートの側迄駆け寄ってきた。


「遅くなり申し訳御座いません!!」


 部隊長と思わしき騎士が勢いよくリュートに頭を下げた。


「いや、隊を振り切ったのは私だ。………そなたらのせいではない」


「……リュート様、捕縛しても?」


 話は既についていたのだろう事が、騎士様の言葉からも理解できた。捕縛する相手は、第一側妃とそのお付きの者達、船の乗組員。


「ああ……捕縛し尋問を開始してくれ…」


 チラリと第一側妃を横目で見たリュートは騎士達に命令すると、騎士は手をかざして部隊に合図した。

 その合図が出ると素早く部隊が動いた。

 第一側妃に魔法呪縛付きの縄をかける。


「何をする!!!…ええい!!離さぬか!!私はこの国の王妃だ!そなたらが触れて良い存在ではない!!」


 騎士達の誰一人として彼女の言うことを聞くものは、勿論いない。


 わめき散らす様は、大国の第一側妃の威厳等かなぐり捨てしまった様に浅ましく見えた。

 出来れば、最後まで高貴であって欲しかった。桜はそんな事を思い、自身を抱き締めるリュートの顔をそっと見上げた。

 その瞬間、リュートと目が合った。

 その表情は、無の様でいて、誰より近くで見ていた桜じゃなきゃ解らない複雑な瞳に何も言えなくなった。

 自分の命を狙っていた相手、でも自分が大切にしている兄弟の母親。

 優しいリュートが何も思わない筈がなかった。

 私が顔を突っ込まなければ、捕まえなきゃ行けなかったとしても、リュートが自身の手で引導を渡す事は無かったかも知れない……そう思うと情けなくて、申し訳無かった。


 そんな私の心情を組んでくれたのだろう。

 リュートは頭をポンポンと優しく撫でて、『よく頑張ったね…』と声を掛けてくれた。

 私は……ただ抱き締められた腕にしがみつく事しか出来なかった。



 ◇◇◇


 あれからリュートは後処理が忙しそうだったけれど、桜はその分暇だった。

 何も守られているだけで、出来ない存在なのが、どうにも悔しかった。

 実際には桜だけが女神のいる空間に行き事が出来る存在で桜が異空間に行ったから、その結果魔剣を持ち帰りその魔剣で、リュートが敵を蹴散らし、桜は運命番の力でリュートの体を癒し、騎士達の傷を癒し勝利に導いたのだから…周りからは勝利の女神として人気が爆上がりなのだが、桜本人は知る由もないので、自分は役立たずだと思い込んでしまっていた。


 リュートもリュートで忙しくて桜の心のフォロー迄気にしている余裕がなかったから、桜の憂鬱が消える筈もなかったのだ。

 其に、そこまで桜が気にしている何て思ってもいなかった。

 桜は王太子妃になる存在。リュート以外は、誰しも迂闊に近寄る事など出来ない。

 それらが重なってしまったが為に、意識に食い違いが出来てしまっていた。


 元々、今回の戦事態、仕組まれた罠だったから後処理も通常よりはスムーズなのだと、ユリアから教えてもらった。それでも守られているだけの自分が不甲斐なかった。


 その夜………リュートは夜分も遅くに桜の部屋にやって来た。


「桜………遅くにごめん」


「……うーん、リュート、お疲れ様」


 もっと気の効いた言葉を掛けてあげられたら良いのに、こんな時に限って言葉は出て来てくれない。

 弟君達の事とか聞きたいことは沢山有るのに。


「……少し話せるかな?」


「大丈夫だよ……リュート、ご飯は食べた?」


 部屋に招き入れ、ソファーに座って貰う様に促しながら、きっと何も食べてはいないんじゃないかってそう思って、桜は聞いた。


「軽く食べたから……大丈夫だよ。ねえ、桜…隣に座ってくれる?」


 きっとリュートは、食事何て取っていないのだろうとは思ったが、敢えて深く追及せずに桜は頷くとリュートの隣に腰掛けた。

 リュートが座ったのは三人掛けのソファー。初めから一人掛けに敢えて座らなかったのは、桜に近くに来て欲しかったから。

 リュートは隣に座った桜との少しの距離感も許すことが出来ないかのように、距離を詰め太腿の上に置いてあった手に自らの手を重ねた。


「……」


 桜からは………話し掛けられない。リュートが、何かを話してくれるのをずっと待った。

 その時間は、時間にしたら数秒位なのだろうがとても長く感じられた。リュートは重ねた手に力を込めて、遠くを見詰めながら、それでもしっかりとした口調で話し始めた。


「……第一側妃は、前々から密輸を繰り返していた。………国を売る罪を犯した」


 話の腰を折る何て、すべきでは無いけれどどうしても気になった。


「……第一側妃って、名前が有るのに名称だけでしか呼ばれない何て何か嫌……」


「桜………」


「私は……名前で呼んで欲しい。両親がつけてくれた名前は私の宝物だから…」


 リュートは握っていた手をもう片方と変えると、空いた手で、寄り添う様に桜の肩を抱き締めた。


「俺はずっと、君の名を呼ぶよ。……公式では難しいだろうけど、ユリア達も、桜をきっと名前で呼ぶと思う。信頼の証として………大丈夫。桜は桜だ。………義理の母(母上)が、名を呼ばれなかったのは…彼女の行いがそうさせたんだ。身分が何より大切な人だったから」


「ごめんなさい………変な事を言って…」


「変じゃないよ。………大切な事だ。話してくれて嬉しいよ」


「……彼女はどうなったの?」


「……明後日、国王から毒を賜る。………せめて最後は気高く有るように」




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