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リュートと第一側妃

 リュートが来てくれた事で桜の気持ちは落ち着きを取り戻す事ができた。

 それはユリアも同じだった様で、桜から見ても気は張っているものの方の力は抜けていた。

 その中で唯一第一側妃だけがリュートの訪れに驚きを隠せない様だった。

 無理もない。戦の全線で戦っている筈の人間が、この場所に駆けつけたのだから。


「リュート王子何故此方に!?…全線で指揮を取っていた筈です!!」

 リュートは桜を庇う様に前のでると、桜が見たことがない、冷たい人形の様な美しい笑顔で義理の母と対峙した。


「それはこちらの台詞ですよ、母上。……何故貴女様が此方に?…それに私の妃と何やら揉めていた様ですが?」


 あくまでも冷静に、優雅さすら称えてリュートは立っていた。


「危険な者達と一緒にいたから保護しようとしていただけです……」


 白々しい。

 確かに危険な荷物を運ぼうとしていた男達だけど、保護ではなく捕獲だろうに。


「…何故貴女がこの場所にいるのです?」


 物腰こそ柔らかだが、リュートは畳み掛ける様に同じ言葉を繰り返した。


「この領地が危険に更さているのを王族の一人として黙って見ているのがいるのが心苦しく、見回っていたのですよ」


「「…………」」


 私とユリアは顔を見合わせて無言になる。


「何故この領地が危険になるとお考えに?」


「!!………視察に来ていた際に報告が入ったのですよ」


 初めこそ顔に驚きの表情を浮かべていたが、この時にはそれも上手く隠れているところは流石と言えるだろう。まあ、誰の役にも立ってはいない特技だけれど。


「……おかしいですね。……この地の近くまで戦場が近付いていることは極秘となっており、父上とその側近迄しか情報は行っていない筈ですが?」


「私は国王の妃ですよ?……云わば国母と言える立場にある私が知っていてもおかしくはないでしょう?」


「何か勘違いしている様だ。……第一側妃はあくまでも側妃。……国母と呼ばれる身分ではない」


「!!!」


 今度こそ第一側妃は苦虫を歯で擂り潰した顔をした。

 余程屈辱だったのだろう。

 元は他国の王女だとユリアから習った。


「次期皇后は(わたくし)です!!」


「……父上は貴女を皇后にするつもりならとっくにしていますよ………母上が亡くなって直ぐにでもね。……今回、父上には戦場を此方の領地に移す旨は()()伝えていましたが………」


「!!!」


 第一側妃は初めて知る情報に内心狼狽えていた。

 戦場が近付いている事を知ったのは国王と側近が話しているのを聞いたからだ。

 会話の内容からも初めて聞いたような言い方だった。

 その話し合いに違和感を感じる所など無かった。

 貿易の要であるこの領地の視察は特別珍しい事じゃない。国王が御忍びで出掛けてくる事も今回が初めてじゃない。その際に自分が着いていくことも……だからこそ気付けなかった。

 視察に行くと言われても何ら不審なことでは無かったからだ。

 確かに、他国との小競り合いがある時に視察とは国王らしくもない…とは思ったが、此方の武力を持ってすれば圧勝は間違い無かった。国王が心を砕く必要もない……だから視察の場所と時期は偶然が重なったものと思ったのだ。

 視察後は行動を別にする事など今までにも有った事だし、今回もそれと疑わなかった。

 近く迄移動して来たと言ってもこの領地ではない。

 国境線に設けられた不可侵領域での事だ。

 それでもこの港から人が一時的に避難し無人と成ることに代わりない。

 予定とは違くなってしまったが、それでの大きな違いなど無かった筈だった。

 だから、国王が何処かに忍で出掛ける事も特別と感じなかった。詳しく確認することで煩わしい女だとも思われたく無かった。

 それに自分にとっても都合が良かった。


 視察の先がこの領地でも国王にも気付かれる事なく、作戦を進められると考えたのだ。

 今回の取引は何時もより大きい。

 それと言うのも、この麻薬の取引を嗅ぎ回る輩が出てきていた為、この機を最後に妃と彫りが覚めるまで取引を中止しようと段戸っていた。

 その為に、実家の力を使い彼の地、公爵領近くで戦が勃発するように仕組んだ。

 念には念を入れる為に。

 国の注意がそちらに向かう様にするために。

 まさか、それすらもこの王太子の手の平の上だったと言うのか!?


 では…では国王は今何処に!?


「父上は、この地の領主の取り調べをおこなっていますよ」


「!!!」


 心を読んだようにリュートは答えた。

 実際は表情から読み取っただけなのだが。


「………何故?………」


「|義理母(母上)貴女が関与している事は調べが着いていました。……後は証拠を抑えるだけだった。」


「!!!……国王は………王様も私が関わっているとお思いか!?…」


「さあ?……父上のお考えなど私にも解りませんよ。……解る事が有るとすれば、それは父上はこの領地の事は注意深く観察していた、と言う事だけです。……ああ、丁度私の部下も追い付いて来たようだ」


 リュートの言葉で遠くを見つめると、騎馬隊が此方に向かって凄い勢いで近付いていた。






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