第一側妃の野望part2
ユリアは港の警備隊に連絡して応援要請を依頼した。
そこは日本でいうところの交番見ないな所らしいが、王都が派遣している部隊ではなく、町の自衛隊に近い。国家が運営している場所ではないが、腕利きの傭兵を雇っており統率もされている事から町の住人には信用されている様だ。
程なくして領主お抱えの護衛部隊が到着した。
「どういう事です?……私はリュート様に連絡する様に依頼した筈です」
到着した護衛部隊を確認したユリアが鋭い声で威嚇した。素人がしゃしゃり出れば迷惑になるため黙っていた桜もユリアのただ事ならない様子から、異常を察知した。
ユリアは桜をその背中に庇う様に前に出た。
「大人しく彼らの身柄を渡してください」
隊長と思われる20代と思われる青年がユリアに伝える。
「…誰に向かって言っているのです?……」
そうだ。ユリアは公爵家の令嬢であり、王太子であるリュートの側近を夫に持つ位の高い女性だった。
早々ユリアに命令できる人なんていないのだと桜は改めて思い知った。
この青年は低姿勢でもユリアに指示している。
それはこの国では許されない事の筈だ。
「そなたに言っているのだ」
答えたのは見るからに高そうなドレスに身を包んでいる偉そうな中年の女性。
はて、何処かで見たことが有ったような?
「第一側妃様!!…何故ここにいらっしゃるのです!?」
ユリアの言葉で、偉そうな女性が第一側妃であることが桜にも解った。
「私が何処に居ようとそなたに文句を言われる謂れはない」
「………!!」
今現在がおいて、第一側妃がこの国で一番位の高い女性だった。
リュートのお母様がお亡くなりになったから。
「そなたの背にいるのは、確か運命の乙女であろう?……同じ王室の女人同士……運命の乙女も私が保護しようではないか。……身柄を此方に引き渡すのだ」
「桜様の護衛はリュート様直々に私に依頼されたこと……貴女様の指示は受けません」
ユリアは第一側妃の言葉を突っぱねた。
「誰に向かって口を利いておるのか解っているのか!!」
怒った第一側妃が怒鳴り付けてくる。
気位の高い性格なのだろう。反抗されるのが許せないらしい。ここは一緒に行った方が穏便に済みそうだが……行けばどうなるか解ったものじゃないし、桜自身この癇癪持ちで傲慢な女性がどうしても好きには慣れなかった。
「桜様は、貴女様よりも位が上です。……従う理由は御座いません」
………そうだったのか。
知らなかった。桜は境遇を特別枠だと思ってはいたがそこまでとは考えていなかった。
「私はユリアと一緒にいます。……貴女とは行きません!」
桜は庇われていたユリアの背中からひょっこり出ると第一側妃に向かって吠えた。
少しでもユリアの加勢になればと思っての事だった。
それを許せないのは第一側妃だ。
反抗された事など今まで無かったかのように怒り狂った。
どうやら火に油を注いでしまったらしい。
どうも、ヤっちまった様だ。
まあ、今更考えても遅いけどね。
日頃大人しい性格の桜だが、腹を括れば肝が据わっている。
行っても行かなくても同じなら、気分がスッキリした方が良いに決まっている。
ユリアに迷惑が掛からないから大人しく言うことも聞こうと言うものだが、それすらも怪しいのだから。
「もう良い!!…衛兵運命の乙女も一緒に連れて来るのだ!!」
ユリアが腰を落とし剣に手を掛ける。
桜は言うと、お母様の魔剣を握り締めた。
一触即発な場面に馬に乗って割って入ったのは……リュートだった。
「誰に向かって剣を向けているのだ!」
リュートの恫喝が辺りに響いた。
桜とユリアに剣を向けているのを駆けつけながら見えたのだろう、ブチキレる寸前と言った容貌だ。
「リュート!!」
桜が声かけるとリュートは馬から降りて桜に近寄ってきた。
「桜、大丈夫!?…怪我はない!?」
桜の肩を掴んで身体検査を始めてしまった。
心配してくれるのは嬉しいけど、時と場合を考えてほしい。
「リュート!…大丈夫だから落ち着いて!!」
元気な姿を見て少しは感情が落ち着いたのだろう。
リュートはユリアに視線を移すと説明を促した。
その間も桜を抱き締めて離さない。
「成る程ね………それにしても危ないだろう!?…こんな連中より安全が最優先だ!」
「リュート!!……ユリアは悪くないの!!私が言ったの!!」
ユリアを叱りつけ様とするリュートを慌てて桜が止めに入った。
「勿論桜にも言っているんだよ。……少しは俺の身にもなってくれ。……突如魔剣が光だして飛んでいったから何かあったのかも知れないと駆けつけてみれば、心臓が止まるかと思ったよ」
「う………ごめんなさい」
「桜は後でお仕置きだからね?」
何も片付かないままだけど、桜はこの後の事が気掛かりになってしまった。




