表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/103

秋人とリュート

 後片付けをして一緒の布団で眠りに着いた。

 誓ってわざとじゃない。

 一組しか布団が無いから、それに男の子とはいえ小さな子供だから、大丈夫だと思っていた。

 しかし、何故かリュート君は凄く遠慮していたが、それはきっと彼が気遣い屋さんだからだろうと私は勝手に思っていた。


 心臓の音と人の温もりに安心した私は、ぐっすりと深い眠りに着いていた。


 ◇◇◇

 夜更けにリュートは目を覚ました。

 名誉のために言っておくが、別にトイレに起きたわけではない。

 寝覚めようとして目覚めたのだ。

 リュートは桜が深い眠りに着いているのを確認すると、日本語ではない言葉で呪文らしき物を唱え始めた。

 すると直径20cm位の球体が鏡のようになり、その中には人らしき者が浮かび上がった。


「リュート様、ご無事の様で何よりです」


「ああ、そちらはどうなっている?」


「リュート様が旅立たれてから3ヶ月ほどたっており、隣国とは未だ冷戦状態が続いております」


「そうか……急がねばならないな」


「して……彼の君は見付かりましたかな?」


「ああ……見付かったよ」


「それはようございました。…お会いできる日を楽しみにしておりますぞ。それまでは、何としてでも堪えてみせましょうぞ。ですが、老体故、なるべく早いと有難いですな」


 鏡の様な球体から見える老人は笑いながらそんな事を言ってくる。

 正直言って、見た目だけでは殺しても死にそうにない位屈強な見た目をしていた。

 ケラケラと軽い言い方をしていたが、リュートはこの老将にどれ程負担を強いているかをよく理解していたから、重く受け止めたのだ。

 現状が持っているんじゃない。

 持たせてくれているのだ。


「解っている。…天下の猛将を過労死させる前には連れ帰るさ」


 会話はそれで終了した。

 異界を無理矢理繋げている為、あまり長く話せないのだ。


「時間はあまり掛けられないか…」


 人知れず呟くと、リュートはまた、桜が寝ている布団に潜り込み眠りに着いた。

 桜の側は良く眠れた。心なしか疲れも良く取れる。

 それにしてもこの体は、眠くなるのが欠点だ。

 それ以外は、役得と思える事も多いのだが。

 さて、桜は自分の本当の姿を知った後でも今と同じように接してくれるのだろうか?

 それが今のリュートの目下の悩みだった。


 ◇◇◇


 桜は自分の胸の辺りにある温もりで暖をとろうとぎゅっと抱き寄せたところで、目が覚めた。

 腕の中にあるプラチナブロンドヘアーの頭はリュート君の物だと理解するのは早かった。


「またやってしまった……癖とは恐ろしい……」


 いつも下の子の面倒を見てきた桜は、癖で腕枕をして寝てしまうのだ。

 母親は一人だし、でもまだ一人で眠るには幼い兄弟もいたから、上の弟は桜と一緒に眠ることが多かった。

 無意識でリュート君を抱き寄せてしまっていたようだ。


「またやってしまったとは何ですか?」


「やだ、リュート君起きてたの!?」


 まさか寝ていたと思っていたから、リュートが起きていることにとても驚いてしまった。

 寝てればバレないと思っていたのに!


「今起きました。(嘘、桜が目覚めた頃には起きていた)」

「ごめんね、起こしちゃった?」


「いえ、大丈夫ですが?」


 リュートは先程の質問の答えを桜に促した。

 事と次第では後で教育(?)が必要だと思ったからだ。


「ああ、恥ずかしながら弟を良く寝かしつけてて、その癖がでちゃったらしく、リュート君を抱き締めていたみたいなの。…ごめんね、苦しかったよね?」

「いえ?そんな事は無いですよ。…暖かくて気持ち良かったです」


「ああ、解る!!人肌の暖かさってホッとするよね!!」

「そうですね」


 ニッコリ笑うリュート。

 絶対に意味が違うのだが。鈍い桜は気付く筈もなかった。


「桜さん、今日行ってみたい場所が有るんですが、連れていって頂けますか?」

「今日?」


 今日は大学がある。

 何時もなら断るところだが、身寄りのない(少なくともここにはいないし、何時帰れるとも解らない)リュート君の希望は出きるだけ叶えてあげたかったのかもしれない。


 ◇◇◇


「まさか……もう一度ここに来るとは思わなかったな」


 そう、リュート君は桜が生まれ育った町、桜の家があった場所に来たいと言ったのだ。

 まあ、実際は家を見たいと言ったのだが、もう更地になっております、家は跡形もなく無くなっている。

 そこに弟の服を着たリュート君と一緒に来たのは正直複雑だが、こんなことでもなければ、絶対に自分からは来ることは出来なかった。

 それくらい、この場所は思い出が詰まっていて辛かった。

 何もない町だけど、穏やかで人に優しかった。

 ここから高校に通って、生活して、普通に暮らしていたのに。

 この土地から逃げようとしたからバチが当たったのだろうか?

 少しの間黙って土地を見ていたが、何時までいてももう、どうする事も出来ないから、移動しようと思っていたら、桜を呼ぶ声がした。


「桜!!…お前どうして!?」


 その声の主に桜は聞き覚えがあった。


「秋人…」


 ああしまった。

 この場所にくれば、秋人に会う確率もあったのに、失念していた。


「どうして電話にも出なかったんだよ!?」


 怒っている秋人に視線を向けると、自分とは違う小柄で可愛らしい女の子が横にいた。

 もしかしなくても、彼女だろう事は桜にも解った。


「別に私の勝手でしょ?…それに、デート中に他の女を怒る彼氏じゃ愛想つかれるから、止めるのね」


「何だよ!?…何で電話にでないことがお前の勝手なんだよ!?」


 反応したのは、そこかにか?

 桜が彼女の方をチラッと確認すると、彼女は複雑そうな顔をしていた。


「どうでも良いから、早く彼女と何処かに行きなさいよ?予定があるんですしょ?私の事はほっといて、可愛い彼女との時間を大切にするのね」


「何いってんだよ!?…今はこっちの方が大事だろ!?」


 本当に、今も昔も女心が解らない男だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ