桜とユリアの共同作戦
「リュート様より……桜の安全が全てにおいて最優先事項だと命令されております…」
どんなに親しい間柄でも、例え幼馴染でも、そこには圧倒的な身分の差があるのだろう。
桜には理解し難い事だが………。
「……リュートとユリアの間柄でも命令は絶対なのね」
何気に言った一言にユリアが反応する。
「……桜。誤解しないで聞いてね?確かに王太子であるルークの命令は絶対だけど。私や夫が桜を守りたいと思っているのは何も命令だからではないのよ。勿論桜が大事だから、と言うのも本当だけれど、それがリュートの為だから」
「リュートの為?……ああ、運命の乙女がいないとリュートが大変だから……」
「桜がリュートの瞳に人間らしい光を灯してくれたからよ」
「?…」
リュートは初めから表情豊かだったけど?
「リュートは何処か人形の様で、感情に乏しい子供でだった。…生きることに諦めていたのでしょうね。…それが桜と出逢って嫉妬はするわ、ヘタレにはなるわ、仕事はサボろうとするしで」
「ちょっと待って!!それってダメになってしまってるって事じゃない!!」
何て事だ。私と出逢ってから駄目男になってしまう何て、もしかして私って下げ◯!?
異様にショックを受けている桜に、ユリアが首を左右に降りながら、それは違うと言った。
「……非常事態だから……この辺でお喋りは止めるけど後でその辺も教えてあげるわね…いいわ、彼奴等を取り押さえましょう」
桜と話している間もユリアの視線は奴らから外れない。ユリアは令嬢で有りながら、お祖父さんに鍛えられていたのだから当然か。
桜はリュートの話で完全に意識がそれから外れたが。
「そうだった…今はお喋りしている暇なんてなかったんだ」
視線を戻すと、まだ奴らは荷を積んでいる。
何をそんなに積み込む物が有るのか?
「あれ?……積み込んでいるだけじゃ無くて、積み荷を下ろしてる?」
初めはただ積み込んでいるだけだと思っていた。
でも良く見ると違う。
積み荷を下ろしている船員もいる。
積み荷を下ろしている船員の方は周囲を警戒しながら、積み荷を積んでいる船員の影に隠れる様にしている為解り辛いけど、間違いは無い筈だ。
「あれは!!…」
ユリアは下ろしている積み荷に見覚えが有るらしい。
「ユリアは何を下ろしているのか知っているの?」
「私の記憶が正しければ………あれは麻薬よ」
「!!…なっ……」
大声を出しそうになったのを何とか手で抑え込んだ。ここで大声を出したのでは意味がない。
「どうして麻薬と解るの?」
桜にはただの木製の箱に見える。
「あの箱の印に見覚えがあるの」
「印?」
その印に視線を集中すると、確かに独特の印が押されている。
「もしも私が考えている通りの物なら………あれはとても危険で、この国では禁止されている薬物筈……」
「普通の麻薬と何が違うの?…って麻薬ってだけで危険なのは知っているけど」
麻薬なら桜がいる世界にもある。
桜自身は授業の一環で知っているだけだが。
「……あの薬は人を操る事が出来るのよ」
桜に伝えるべきか迷っていたユリアだが、桜を信じて教えてくれた。一般の市民も、勿論貴族でさえも限られた物しか知らない薬物を、非合法でこの国に密輸している。もうどう考えても、白でもグレーでも有り得ない……黒だ。
「人を操る……」
「……詳しくは後でリュート様から教えて貰って?…今は彼奴を取り押さえる事が先決だから」
「そうだね。…私から言っておいて何だけど…でもどうやって?」
何も考えなしに取り押さえる何て言ってしまった桜だが、ノープランも良いとこだった。
「私が取り押さえるから、桜はここに隠れてて。良いわね?」
「……解った」
私も戦う、そう言いたいけど訓練されているユリアと素人の桜では、戦力どころか足手まといになってしまうのは明らかだった。
そこでやっと桜も自分の浅はかさを理解した。
取り押さえたい何て、他力本願もいいとこだった。
自分では何も出来ない癖に正義感を振りかざす何て口にするべきでは無かったのに。
「……ごめんなさい」
「どうして桜が謝るの?…大丈夫だから任せてね」
ユリアはそう口にするが速いか、音もなく奴らに斬りかかった。
切り口からは血が出てきていないところを見るとおそらく峰打ちで気絶されているのだろう。
殺してしまえば、黒幕が判明出来ない。
それにしても、鮮やかに一人二人と倒していくユリアはさながら鬼神の様な強さだった。
それもそうだろう。そうでなければ、桜の護衛にする筈もないのだから。
同じ女性として見惚れてしまう程だ。
それにしても、何故護衛の数を増やすと言ったのを辞退してしまったのか?
いやあの時は自分の為に人を割くよりももっと大事な事に使って欲しいと思ったからなのだが、こんなことなら素直にお願いしておくんだった。そうすればユリア一人に戦わせる事も無かったのに。
後悔は先にたたないとは正にこの事だと桜は痛感したのだった。




