学校見学
私とリュート君は天気も良かったから歩いて大学まで行くことにした。
今の今まで、全然気にもならなかったが、今日は何やら視線が痛い。
その意味を私はやっと理解した。
リュート君の顔が整い過ぎているのだ。
銀髪にちかい金髪に、青い目。
天使のような顔に白い陶器の様な肌は、正直羨ましい。
名匠が作り上げた究極の芸術が歩いているのだから、目を惹いて当然である。
今まで気付かなかった方がどうかしていた。
勿論、可愛い子だな、位には認識していたけど、深く考えるだけの余裕が無かったのだ。
私はリュート君の顔をまともに見ていなかった事に、とほほと思いつつ、あまりの可愛さに誘拐されないか心配になってきてしまった。
「リュート君、手を繋ごう」
「良いんですか?」
嬉しそうにするリュート君に若干申し訳なく思いながらも、私達は手を繋いで歩いた。
大学のやたら立派な門の近く迄来ると、リュート君を見つけたお姉様方がざわつき始める。
ショタじゃなくても、リュート君なら気になって仕方がない。
それくらいの可愛さだ。
でも保護者(私)がいるから、側までは依ってこないのは幸いだった。
ぞろぞろ来られたら見学になんてなりゃしないから。
だが、何処にでも強者はいる。
「君、可愛いね」
ある一人の女子大生がリュート君に声を掛けた。
まあ私の先輩か何かだろうけど。
「有難う御座います」
リュート君は、照れもせずにいるところを見ると、多分いや、絶対に言われなれているのだろう。
「では、僕たちはこれで失礼します。桜さん、行きましょう?」
「えっ?…ええ」
エンジュルスマイルを見せるリュート君。
文字通り、魅せるが正しいか?
でも、何処か営業スマイルに見えてしまったのは、私だけだろうか?
まさか自分に話し掛けてくると思っていなかったから、驚いてしまった。
でも『僕たちは』って強調して言ってくれた事が凄く嬉しかった。
ポカンとしている彼女を横目に、私の手を引いて歩き出すリュート君は、こんなに小さいのに頼もしい。
結構歩いて、人気のない場所迄来たら、丁度良くベンチがあった。
「すいません、桜さん。疲れたでしょう?…あそこに座りましょう」
「…有り難う」
何だろう?
どちらが年上か解らなくなってくる。
このこなれた感、将来が不安だ。
プレイボーイにならなければ良いが。お姉さんは心配だよ。
隣通しに座ると、
「ここが、桜さんの通っている学校何ですね。…」
「そうだよ。…まあ、そんなに物珍しい物は無いけどね」
私達は、この後学食に行ったが、案の定リュート君のカリスマ性にどよめきが起こった為、買い物をして家で食べる事にしたのだ。
◇◇◇
「座ってて?」
「僕も手伝います」
「お手伝いしてくれるの?」
弟たちの面倒を見ながら家事をしていた時の事を思い出す。
すっごく、とても可愛かったなあ……。
いけない、せっかくリュート君が手伝ってくれるのに、大切な思い出なのに後ろ向きな考え方は、亡くなった家族に失礼だ。
少し前なら前向きになんて考えられなかったのに、これはリュート君に感謝だな。
「桜さん?」
「ごめんね、弟たちを思い出してさ。…リュート君がいなかったら、私今頃一人で泣いてたよ。有り難うね」
笑顔を見せた私にほっとしたリュート君は、ホッとした顔をして、テーブルにお皿を列べてくれた。
本日の献立は、カレーにフルーツサラダにポトフ。
どれも子供が好きそうな物ばかり。
野菜も、カレーとポトフにすれば、弟たちは食べてくれたのだ。
ご飯を食べている間、他愛ない話を私達はした。
「私、元々大家族だったんだけど、皆死んじゃって…ここではもう天涯孤独でさ。…リュート君がいてくれて本当に良かった」
「……桜さんはお一人何ですね……ねえ、桜さん」
「どうしたの?」
言いよどんでいる様に見えるが、どうしたのだろうか?
「ご飯、美味しくなかった?口に合わなかったかな?」
「いえ、このカレーですか。初めて食べましたけど、とても美味しいです。毎日食べたいと思えるくらい、好きになりました。正直、国では食事の時間が憂鬱だったんですが、桜さんは料理上手ですね」
「それは良かった」
ホッとしたけど、じゃあ何だと言うのか?
「僕が一緒に来て下さいと言ったら、桜さん、どうしますか?」
「嬉しいな。…これから先もリュート君がいてくれたら、きっと楽しいね」
きっと同情してくれているのだろう。
私は簡単に考えていた。
勿論、楽しそうだと思ったのは本当。生き甲斐の無かった毎日に彩りが生まれたのもまた、本当だけど。
「そうですか。…良かった」
それ以上、何も言わないからやっぱり社交辞令だったのだろう、そう私は思っていたのだ。
それに、確かリュート君は帰れない筈だもの。
何れ帰るのだとしても、まだその時ではないだろう。
私は、そう思っていたのだ。