影の情報
「……」
リュートが黙って手紙を読んでいる間、ニヤニヤしながらジンは影に近付いた。
全身黒尽くめなので表情は読み取り辛いが顔がひきつった様に見えたのは気のせいだろうか?
「よお!…影よ、久しいな。息災だったか?」
「…………お陰様で……師匠もお元気そうで何よりです」
一瞬にして存在や表情の全てを無に戻した影に、ジンは表情一つ変えずにほくそ笑む。
「して、お前さんは何処に行っていたのかな?」
ジンは影の肩に手を回して顔を近付けてくる。
「…………言えません、主の許可が無い限りは言えません」
言えない…そう伝えただけでも師匠であるジンに対してかなり譲歩した形だ。
「ま………そうだわな」
満足だった様でジンは逸れきり影を構わなくなった。
影とすれば、だったら聞かないで欲しいと思うのだが、ジンにしてみれば愛弟子の成長を確かめるのが今の生き甲斐なのだから、止めるつもりは毛頭なかった。
暫し無言だったリュートが影と呼ばれる男に話し掛けた。
「この件、国王には伝えたか?」
「私の主はリュート様であって国王では有りません。…よってお伝えして降りません」
影は己の命を掛ける主を自分で決める。それは国王であっても変えることは出来ない。
生涯仕える主はただ一人だけです、だからこそ決定権は影にあった。
「そうか……」
神妙な顔を崩さないリュート。
「お伝えした方が宜しければ直ぐにでもお伝えしますが?」
「いや、いい。…尤も、親父の事だから既にわかっている可能性は高いがな。……わざわざ俺が今伝える必要はない」
そう言うと、手紙をリュートはジンに渡した。
読み終わったら燃やしてくださいと伝えながら。
「ほう、やはり」
ジンは手紙を読むと知っていた情報を再度確認したかのような素振りを見せて、懐から取り出した鉄で出来たケースから火種を取り出すとそのまま燃やし灰にした。
「これで確定しましたな……」
「はい……」
解っていたけど知りたくなかった、そんな顔を見せるリュートとは裏腹にジンは気にした素振りもない。
「して、どうするおつもりです?」
何に対してリュートが危惧し、心を痛めているかは重々承知しているが、だからと言って見過ごす訳にはいかない。
「先生は流石ですね……動じない」
「まあ、女を見る目がないあいつが悪い。…こんなことは最初から解っていた筈だ」
あいつとは、この国の国王であり、リュートの父親を指して言っている。父もまた、ジンの教え子だったのだ。
リュートにとっては義理の母であり腹違いの弟が今回の騒動を起こした張本人だったのだから複雑以上の感情が渦巻いている。
それが影の調査でハッキリと裏がとれたのだ。
本来なら国王である父に進言し相応の罰を与えるのが正しいだろう。国益にも関わる問題なのだから。
でも………リュートは影を止めた。それが正しくないとジンに暗に言われているのだ。
返す言葉が無かった。
出来れば弟に迄害が及ぶのだけは避けたいのが本音だった。
「この土地から取れる鉱物で作る刀や鉄は軍事力にも影響が出てきます。それを他国に横流し、あまつさえ国防に関わる軍事力配置迄伝えたのが事実であれば……もう黙っているわけにはいきません。俺の手で終らせます……」
今回この領地を治める貴族から嘆願書が上がった。
その内容が、どのような軍事力の配置で守りを固めるか?また、攻撃するか?を隣国に情報を流している者がいる。しかもそれがどうやら王族の誰かだろう、という内容だった。
そのタイミングでの戦争の勃発だ、例え小規模であってもリュートが動かない訳にはいかなかった。
桜がいない今、出来れば避けたかった。
後、自分の体力が持つのは何れくらいか、果して予想通りに行くのか皆目検討もつかなかったから。
「今回の黒幕はまだ俺が証拠を掴んでいるとは思っていないでしょう」
(いや、桜の失踪も奴等が咬んでいて、俺が敵軍に殺されなければ、体調を崩して死ねばいい位に考えていたのなら、……また、今回の一件全てが俺の王太子としての能力不足を訴える餌なのだとしたら………良くできた筋書きなのだろう………)
「まあ、あらゆる問題を考慮する必要は有るでしょうな……」
ジンにはリュートの考えている事などお見通しだった。
影はと言うと、無言を貫いていて何を考えているのかすら読めない。
「漏れた情報を逆手にとる。………ジン将軍、申し訳ありませんが城の守りを固めて貰っても?」
「では、予定通り先陣はリュート様が?」
「はい……俺が行きます」
「承知しました。………背後はこの老いぼれにお任せください」
年を重ねて、永き時を経て尚ギラついた目をして戦に赴く、この将軍が背後を護ってくれるなら怖いものはなかった。
安心して突っ走る事が出来る。




