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消えた桜と隣国との戦争

 ◇◇◇


 光の中に消えていった桜。

 何度叫んでも消えた彼女からの返事なんて有る筈もなく……でも叫けばずにはいられたかった。


 眩い光とリュートの声に驚いた神官達が神殿に入ってきたけれど、辛うじて桜が消えていった事を伝えるしか出来なかった。

 体裁何て気にしていられる状況じゃない。

 半身が失くなったかのような喪失感は、母親が死んだときすら感じた事は無かったのに。

 神官達は慌てて神殿を出ていくが、そんな事は知ったことではない。

 奴等に何かが出来るとは初めから思っていないのだから。


 ……………………リュートは信仰を信じない。………………


 探しようがない。

 だって、目の前で消えていったのだから。

 それでも神殿中を探した。くまなく、絶対にあり得ない様な場所でさえ……何度も何度も何度も。

 まるで探偵の様に、焦りながらでも細やかに探して得たのは………絶望だった。


 どれくらいそうしていただろうか?

 日の光が、夜の月へと役割をバトンタッチして行く所を見ると夕方か?それとも夜か?

 リュートはぼんやりとそんな事を考えていた。


 自分が嘘を着いて桜に本当の事を伝えきれなかったから、女神が怒って連れていってしまったのだろうか?

 こんな事なら無理矢理にでも自分の者にしておけば良かった。そうすれば、何処にいても桜の存在を感じる事が出来たのに………。


 運命の番と結ばれた王は、その番と魔力を共有する。だからなのか、例え近くにいなくてもその存在を感じる事が出来ると王である父から聞いた。

 これは王家の歴史にも書かれてはいない、王から王へと口伝えに語り継がれた真実。

 番が死ぬとき王は死に、王が死ぬときもまた番は死んでしまう。運命の共同体、それが運命の番。

 まだ結ばれてはいないけれど、桜が生きている、それだけは何故かは理由は解らないがリュートは確信していた。

 また直ぐにでも探さなければ、元の世界に戻されてしまっていたとしても、探しに往かなければ。


「リュート様………」


 狭く鋭くなっていた思考を無理矢理にでも抉じ開ける様なカムイの声。

 リュートは返事はせずに視線だけをカムイに向けた。


「状況は神官に聞きました。…心中お察し致しますが、至急王宮より戻るようにと伝達が入りました」


「………」


 答え様とも、動こうともしないリュート。


「リュート様!!」


「はっ!!…桜がいなくなったんだぞ!?…それよりも大事な事が今有るのか!?」


 嘲笑いながらも苛立ちが隠せない。


「戦争が始まるんだ。………隣国がこのアストリアに進軍したと密偵から連絡が入った」


「………………煌国か」


 無論、軍を任されているリュートも情勢は理解している。

 だからこそ、寝る暇もなく働いていたのだ。

 まだ、仕掛けてくる時期ではない筈だった。力のないリュートは魔法で撃退何て出来ない。出来ないからこそ、誰よりも情報を集め、戦に備えていた。王は魔法で国の守りに徹しなければならないから進軍は出来ない。

 その王の魔力も桜がこの世界に来てから綻び出始めていた。

 次代に王位を渡すとき、先の王の力は失われる。

 力が均衡してしまっては権力が二分してしまうが、王位継承が行われる迄は、王に王太子は魔力で越える事が出来ない。

 何故かはリュートも解らない。知っているのは自身も前の王から王位を譲り受けた元国王ただ1人だった。


 全て今までとは違い過ぎているのだ。

 だからこそ、今は桜との繋がりを優先したのに。


 最優先事項だ。

 それは解る。解るが、だがしかし今は………桜を探させて欲しかった。…生まれて初めてのリュートの我儘だった。


「リュート、頼むよ。…俺が、俺達が何としてでも桜様を見付け出してお前の元に帰すから………俺を信じて、今は国を助けてくれ!!!」


 カムイが、リュートに頼み事をすることなんてほぼ無いに等しい。そのカムイからの心からの願いだった。


「…………お前、卑怯だぞ………こんな時に、そんな事を言うなんて……………」


 リュートが力なく笑うと、『ああ、こんな事、お前にしか頼めねーからな』と子供の頃以来の口調でカムイが答える。


 二人はずっと一緒にいた、辛い時も苦しい時も側にいた親友だった。

 他の誰かが同じ事を言ったとしても気持ちが動く事は無かっただろう。


「必ず探しだせ………」


「命に代えても……」


 二人はお互いの目を見つめあうと、リュートはカムイが来た方向に進みだした。

 これ以上言葉は要らない。


 お互いがお互いのすべき事をするまでだ。


 ◇◇◇


 リュートは漆黒の愛馬に飛び乗ると、桜を乗せてきた時とは比べ物にならないスピードで元来た道を駆け抜けた。


 ユリアの実家迄戻ると既に、ユリアの祖父であり老将軍のジンが身支度を整え、主の指示を待っていた。

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