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女神様の神殿

「桜、どうした?…何か気になる事でも?」


 リュートは黙ったままだった桜を心配したのだろう。気遣いが声にも見て取れる。


「……何か、リュートに会ってからの展開が早すぎて着いていけなくて……」


 家族が亡くたってから、私の時間はずっと止まったままだったから、それを巻き返す様なスピード感が、時間だけが先に進んで、感情が置いていかれているみたいで…………正直私は戸惑っていたのだ。


「……ごめん、本当ならゆっくり育んでいく事を矢継ぎ早になったのは、全て俺のせいだ。桜に大きな負担をかけてしまっている」


 やってしまった。

 こんな言い方をすれば、気にする事くらい子供だって解るのに、気付けなかったのは、身近な人への甘えでしかない。

 ………………リュートを身近な人だと、私は思っているのだろうか?


「ここに来たのも、リュートを助けたいと思ったのも、私だわ。それまでリュートが背負うのは違うでしょう?…私の責任は私の物よ」


「桜の負担は俺が払うべき物だよ。……桜は俺の最愛の人だからね」


 リュートは前に屈み桜の顔を覗き混む様に見詰めてくるから、今よりもっと抱き締められている見たいで落ち着かない。

 真っ赤になってしまった私の顔を身体を屈める様な体勢で覗き混む様に見つめてくる。

 絶対に解っててやっている!!

 それからは、私がいくら黙ってても、リュートは特に気にした様子もない。

 それどころか、心なしか機嫌が良くなった様にも思える。


 ◇◇◇


 神殿に着くとそこは思っていたよりもとても大きく、そして綺麗だった。

 神殿は湖の中央に造られている。

 真っ白な神殿に同じく神殿に続く通路も白の石が敷き詰められていてまるで白の絨毯の様だ。両側には多くの花が敷き詰められた花壇が広がっている。

 花の道を進んで中に入る。この神殿が女神様を祭っている神殿であることが良く解った。


 馬から降りると、馬屋を管理している方に馬を預けると、桜とリュートは白の絨毯をゆっくりと歩き始めた。


「桜、この国を建国したの初代国王の妻は、女神様という説と、女神様の妹だったという説が有るんだ。それにね、俺のように力を失った者だけは、自分が選んだ人だけをお嫁さんにする事が許されているんだ。……それ以外は必要なら側妃がいる」


「それ、少しおかしくない?…だって初代国王様は強大な魔力で国を造ったんでしょう?…なら、それ以上の力は必要としていないんじゃないの?同じく力のある女神様と結婚されたのでは、運命の乙女って何なのかしらね?………」


「確かに……もう一度調べてみる必要は有るね」


 リュートが考え込む様な表情を見せた。


「やっぱり政略結婚は必須なのね。……じゃあリュートのお父さんも?」


「ああ、俺の父親、元国王も奥さんは三人いて、って今は二人か………それに腹違いの兄弟は、妹が1人と弟が2人いる」


 もしかしなくても、リュートのお母様の事だろう。

 早くにお亡りになったと聞いた。

 そこには触れずに、違うことを質問してみる。


「もしかして、お披露目パーティーにもいた?」


「いた…………というのは少し違って、会場にはいないけど、会場を見渡せる王族専用の控え室から覗いてたんだ」


「………何か変なの」


「国王はちゃんといたよ…」


 そんな申し訳無さそうな顔をしないで。

 家族仲が悪いんだとろうなと私にも解る。

 だから私の家族の話を彼は嬉しそうに聞いていたのだろう。


「気にして無いけど、でも変ね」


 それ以上、その会話はしなかった。

 でも私は自分からリュートの手を握りしめた。リュートは驚いた顔をしてたけど、握り返してくる。

 1人ではないと、教えてあげたかった。


 ◇◇◇

「ここだよ…………」


 神殿の扉を開けると、仲は紫を基調としたステンドグラスがふんだんに使用された空間が広がっている。

 祭壇の様な場所はちょうど光が真上、四方から光が差し込む様な独特の作りになっており、余計に神秘的な空間になっていた。

 開いた窓からは湖が広がっているから、自分が水の上に立っているようなそんな感覚さえ覚えた。


「綺麗ね……それにとても神秘的……」


「女神様がいる場所だからね……」


 その間も、私達は手を繋いだままだ。

 どうしても離れがたい。


 どのくらいそうしていただろうか?

 もう帰らなければと思っていた瞬間に眩い光が私を包み出し、ゆっくりと身体が浮遊し始める。


「桜!?」


 リュートは繋いだ手と反対側の手で私の身体を引き寄せようとするが、私の身体が透明になっていき掴む事が出来ない。

 不思議と恐怖は無かった。


 ただひとつ心配なのは、親に置いていかれた子供の様な表情をしたリュートの顔。

 心配しないで、必ず貴方の元に帰るから。


 でもその声は、リュートに届くことは無かった。

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