初めての訪問と邪魔者達との演舞part2
ユリアの二歳年下の弟さんは、ジークと名乗った。無論愛称なのだろうが、長い名前を言われても覚えられる自信が、今の桜にはない。
確かユリアも正式にはユーリアスだったか?
でも、リュートはリュートだよなあ?
何故かしら?その辺が不思議なのだが、まだ桜の知らない常識や理由が有るのだろう。
「それにしてもジーク。………何で貴方がここにいるのよ?」
「たまたま帰省中だった、ってのが大きな理由だけど、見てみたかったんだよ運命の乙女ってやつをね」
そう言ってジークは桜をじっと見つめた。
その後もユリアに『減るかえ駄目よ』だとか、『はあ?何でだよ?』とか姉弟ならではの会話が繰り広げられていた。
「何か……すみません。こんなんで…」
恐縮してしまう。だってリュートを筆頭に周りは美形だらけ何だもの。
「「桜は可愛いよ(わ)」」
と二人の声が重なった。
「珍しく意見があったわね」
「そうだな。………俺達可愛いもの好きなところは一緒だよな」
何だろう、小動物的な何かの可愛がりかただろうか?
応接室迄着くと着席を促された。
ここも立派で落ち着かない。
「珍しいですかな?」
お祖父様が尋ねてくる。でもその声は優しい。
「正直申しまして………はい」
「気を使わんでいい。言葉も楽にしなさい。それでは疲れてしまう。………リュート様も気晴らしをさせたくて我が家を選んだんだろうから」
「有り難う御座います!!」
嬉しい申し出だった。
息苦しくて死んじゃう。こんな日常は知らないから。
私は私で、リュート君の助けになればと、求められた手を掴んでここまで来たのだけれど………正直、心が追い付いてなかった。
待っている人なんていない。帰りたいと思うところも……今はもうない。でも、懐かしいとか、そんな気持ちが有るのも本当だった。
そして今は、運命の乙女とか呼ばれている。
リュートもリュートの周りの人達も優しい人ばかりだ。
私にしか出来ない仕事も有る。リュートに力を分け与えられるのは私だけ、らしいから。
でも、その後は?リュートは王太子様だし、何れ身分の見合った人と結婚するのだろうし………私を好きだというだけでどうにかなるものでも無いだろうから。
だから…………好きにはさせないで欲しい。
ちゃんと離れなきゃいけない時に離れられる様に……。
怖い………………。また大事な人が出来て一人になってしまった時に、独りで立って歩けるのか………もう一度立ち上がれる自信が私には無いから。
「……さん!…桜さん」
心がさ迷っている間に、私は名前を呼ばれていたらしい。
「すみません!!……私、ぼおっとしてしまったみたいで!」
慌てて謝るけど、招かれている家で、あるまじき失態だった。
「ねえ、桜ちゃん。リュート様が子供の頃この家で少しの間暮らしていた部屋、見たい?」
茶目っ気たっぷりに、聞いてきたのはジーク。
それだけで、空気が変わる。
見た目はユリアにそっくりで、優しいところも似ているのだけれど、彼はこの家のムードメーカーなのだろうと解る気遣いをくれる。
「見たいです!!」
「じゃあ、見に行こうか?…良いだろう、姉さん?じいさん?」
「もちろん」
「ええ、ゆっくり見学してくると良いわ。もしかしたらリュート様の弱味も見付かるかも知れないわよ?」
二人は快く承諾してくれた。
ジークは桜の手と手を繋ぐとしっかりと握りしめ案内してくれる。握る手は優しく、力で引っ張ることもしない。
応接間を出て、玄関ホール迄戻ると中央の大きな階段を上がる。
左右に別れた通路の右側に進む。 廊下にはたくさんのドア。
その一番奥のドアをジークは開けた。
きっとここは朝には朝日があたる、心地好い空間だろう。
桜が王宮で暮らしている部屋よりは小さいけれど、消して狭い部屋じゃない。
淡いグリーンの壁紙に、白調の家具。ベットも子供が一人で寝るには大きすぎる程だった。
「ここでリュートが暮らしていたんですね…」
「そうだよ…桜」
ん?…後ろから聞こえる声に驚く。
だって聞き覚えが有るから。
「ジーク、いつまでも俺の桜の手を握っているんだ?」
声の主はリュートだった。
入口側の廊下にいたリュートはつかつかと部屋まで入ってくると、ジークと繋いでいた桜の手は優しく、ジークの手は乱暴に引き離した。
「えっ??…リュート様?…だって子供の頃のまま?…え?」
どうやらジークは、リュートが子供のになることを知らなかった様だ。
…………幼なじみにも言わないって。
「はあ、桜、ちょっとごめんね?」
と言うや否や、桜の頭に手を回すとグイッと下に向けさせ口付けた。
すると目の前で子供の姿から、大人の姿に変化する。
「いきなり何するのよ!?…っていうか何でここにいるの!?仕事はどうしたの!?…またカムイさんに押し付けて来たんじゃないでしょうね!?」
「大丈夫ですよ、桜様。3日分位は片付けて来ましたから、この人。いつもそれくらい本気を出してくれれば楽なんですけどね」
とは同じく廊下側から部屋を見ていたカムイだった。




