初めての訪問と邪魔者達との演舞
翌日、私はユリアの実家に向かった。
リュートが用意してくれた馬車に乗って時間にして3時間程の距離にユリアの実家はあるそうだ。
だが、私は初めて見る馬車からの景色より朝のリュートの方が気になっていた。
昨日まではあんなに付いていくと言ってきかななったのに……朝になると聞き分けが良くなっていたのだ。
まあ、普通に考えて立場があるし、仕事があるしで来れるわけがないと納得したのだろうと思うが……………。
今朝ほどリュートがキスをせがんできた。
理由はずっと大人でいたため、疲れが溜まったのだという尤もらしい理由でだ。
今日は人と会う予定はなく、仕事は、小さな姿でも出来るからと………。
だから恥ずかしながらもキスをしたのだけれど、唇を離すとき、チュッと私の下唇を甘噛みした時のリュートの目が何かを含んでいるようで気になったのだ。
もちろん頭をパシンと叩いたけど。
………顔が真っ赤になっていたのは、しょうがないと思うの。
横に川が流れ、道を挟んでもう片方は森と言うメルヘンな道を通っていると、観光にでも来ている感覚になってくる。
「あ、お城だ!」
「あれが私の実家よ」
ユリアは一緒に付いてきてくれている。
先に行っている案も有ったのだけれど、護衛も兼ねて一緒に行くことになったのだ。
だから彼女の服装はドレス姿ではなく、○塚の男役の様な格好をしていた。
髪はオールバックに近いくらいにまとめて流してある姿は凛々しい。元々が美人だからか、とても似合っていた。
前方には大きなお屋敷。
それを大きく囲うような城壁。
王宮と比べれば、大きさ自体は小規模だけえれど、無駄に豪華な造りをしておらず、かといって質素でもない。
ベージュがかった煉瓦調の外壁にオレンジの屋根が可愛らしい。
テラスとドアは白。
ああ、こんな家なら住みたいなと思ってしまう。
ちょっと庶民には大きすぎるけどね。
立派過ぎる城壁をを抜けると門が見えてきた。
一度馬車は止まり、安全が確認できると門が開いて、その前方には、城まで続く一本道が通っている。
「お城が近づいてきたね!」
「さあ、降りる準備してね」
微笑ましい者を見るように、子供に言って聞かせる様なユリアの声。
先にユリアが降りて桜の手を取る。まるでお姫様にでもなった気分だ。
降りると、ユリアのお母さんとお祖父さん、ユリアの弟が出迎えてくれた。
お父さんは王宮で仕事中だそうだが、当然だろう。仕事の方が大事だもの。こんなところが元勤労学生の悲しい性だ。
お母さんとお兄さんはユリアに良く似ている。
お祖父さんはとてもワイルドだ。とてもじゃ無いがお祖父さんとは呼べない。………若いし筋肉が凄い事になっている。
「初めまして、桜殿。リュート様は優しくしてくれますかな?」
「あらお父様、当然じゃ有りませんか!!…女性の扱いは私が厳しく教え込んだんですよ!?」
とはユリアのお母さんの言葉だ。
そうか、リュートの女垂らしな位のエスコートぶりはこのお母さんの影響か。
「はい、優しくして頂いております」
「あのヤンチャ坊主も大人になったか………」
「え?」
ヤンチャ坊主って言った?
「リュート様は悪がきでしたからな。………よく叱りつけて泣かしたものです」
老将軍は懐かしい者を見る目をしている。
そう言えば、ユリアが今もこの方は将軍として軍を率いていると言っていた。
そんな忙しい方が、出迎えてくれた。
それだけでも、リュートを大事にしてくれる様で嬉しいな。
私に対して、ではないのが解る。
「お祖父様も母上も、桜さんが萎縮してしまいますよ」
諌めてくれたイケメンはユリアの弟だろう。
こんな見た目でも、彼も軍人だ。きっと素晴らしい筋肉を御持ちに違いない。
「いえ、そんな大丈夫です!!」
本心だ。
優しいのが、歓迎してくれてるのが解るから嫌な気持ちは一切ない。
「まあ、私ったらお客様を立たせたままだなんて、失礼致しました。ようこそ我が家へ。歓迎致しますわ」
ユリアに似た優しい笑顔にほっとする。お母さんといった感じ。
「さあ、行きましょう桜」
ユリアが背中を支えてエスコートしてくれた。
本っとうに王子様。
「姉さん、お義兄さんに愛想つかされない様にちゃんとでっかい猫をかぶれてるか?」
「カムイの前では何時だって、素のままよ。………取り繕ってばかりいては結婚生活何て持たないもの」
「義兄さん、可愛そうだな………こんなに狂暴な女が素のままでいるなんて」
弟君は、ユリアにバシッと背中を殴られた。
成る程、そう言うものなのか。
溜めすぎない様に気を付けよう。
って、誰相手に何だか。
「桜もリュートに遠慮し過ぎたり、甘やかし過ぎては駄目よ?」
「あの、私は……」
「うわあ、初々しいなあ。これじゃリュート様がベタ簿れになるはずだ……」
きっと私の顔は真っ赤になっている筈だ。




