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初めましてから始めましょうpart3

「……しょうがないなあ」


 桜は、親が子供の我儘を受け入れる様な、そんな暖かい表情を見せた。


「……ごめん……」


 謝るしか出来ないリュートだが、続く言葉を伝えていない。

『好きでごめん……諦められなくて、ごめんね』

 本当はそう言いたかった。


 君の優しさに……君の一番弱いところに付け込んだ、俺を許さないでくれ。


 ◇◇◇


 今の桜は自分の能力を使いきれていない。

 魔力は出鱈目に高い筈なのだが、習った事もなければ、その存在に気付いてすらいなかったからしょうがないのだが………。


 だから、今の桜に出来ることは、キスにより力を与える事と、大人のリュートにキスする事で子供に戻すことだけ。

 本当に結ばれなければ、ずっと桜の魔力を体内に受け続けると、毒のようにリュートの体を蝕むから、定期的に戻さなくてはならないようだ。

 特効薬であり、劇薬といったところか。

 今だかつて、直ぐに結ばれなかった事がなかったから王家の歴史にも記させていなかった為、知る者もいなかった。


 城での暮らしも少しは慣れた頃、桜はユリアの実家に招かれた。

 招かれたのはあくまで実家であって、嫁ぎ先じゃない。

 嫁ぎ先とはカムイの家で、そちらからも招待状が来ていたようだが、リュートの一存で後回しになった。

 社交なれしていない桜には、気兼ねない将軍宅の方が良いと判断したからだ。

 位の高いカムイの家ではいくらこちら側の派閥とはいえ、マナーの部分では厳しさが増してしまうから。

 だが、招かれたのは桜一人とだけここで言っておきたい。


「ユリアの実家なら、行くのが楽しみだな!」


 無邪気に桜が笑う。

 今日も今日とて、ユリアに勉強を教えて貰っているのだ。

 桜が安心するからと図書館で本日は勉強していた。


「そうだね。…私の実家は武人一家だから多少桜がやんちゃでも大丈夫だよ」


「あはは、私も兄弟が多かったからやんちゃOKだと嬉しいな」


 ユリアが緊張しないで済むように和ませてくれる、サクラも冗談で返した。

 実際には、マナーを無視する家庭ではなく教育には厳しいが、リュートを長年鍛えてきた老将軍もいるため、慣らしには良いだろうと言う采配なのだが………。


「桜……」


 ユリアと会していると、突如として背後から声を掛けられた。


「きゃあ!!」


 驚きで大きな声を出してしまう。


「背後から声を掛けるのは控えて下さい、リュート様!!」


 自分からは、リュートの姿が見えていたが桜の反応を見たいが為に黙っていたユリア。


「お前にだけは言われたくない……」


「あら、責任転嫁?…王太子の癖に情けない」


 桜はまだドキドキが収まらない。


「……心臓に悪い!!」


 桜が怒鳴ると『お静かに願います』とホワイトヘアが美しいダンディなおじいさまから怒られる。


「何か……リュート様がご免なさいね?」


「何でお前が言うんだ?」


「もう!!何しに来たのよ!?」

「………」


「………桜、それは少しリュートが可愛そうだわ」


「騒ぐなら外でお願いします……」


 図書館を管理している館長は王太子と言えど容赦がない、と言うより誰であろうと容赦しない。

 実は、結構身分の高い貴族なおじいさまだったのだが、桜は図書館のおじいちゃんとして慕っていたし、館長も桜を運命の乙女として扱うのではなく、ただの桜として扱ってくれた。

 それはリュートが子供の頃から変わらない姿勢だった。

 誰であろうと公平な態度は、他の貴族からも慕われており、蔑まれていた子供の頃のリュートにも公平で、勉強も教えてくれた先生でもあったから、リュートも館長の前では素が出てしまう。


 図書館を追い出された3人は、少なくともユリアとリュートは立場があるためうろうろしている訳にもいかず、リュートの執務室迄移動する事にした。


 執務室には鬼のような顔をしたカムイが必死に机に向かって仕事をしていた。


「おや?リュート様…………お戻りですか?」


 もしかしなくとも、これは恐い。

 怒っている。


「リュート様…………やはり、仕事をさぼって来たのですね?」


「やはりって言うな。桜が俺を何時も遊んでいる男だと思うだろ?」


「…………リュート、仕事してないの?」


 何も知らない桜が心配そうに聞いてくる。


「どうでも良いので、入ってドアを閉めてからにしてください」


 3人はここで初めて、部屋の入口で突っ立ったままなのを思い出した。

 カムイに叱られてから部屋に入り応接するためのソファーに座った。カムイは、お茶を入れて持て成してくれるが恐縮した桜は『私がやります!』と辞退してもやんわりと断られてしまった。

 桜には優しい。


「桜、カムイの入れるお茶は絶品だか任せておいた方が良いわ」


 ここで、今まで黙って事のなり行きを面白そうに見守っていたユリアが口を開いた。


「ユリアの言うとおりだよ、桜。カムイの入れるお茶は旨いんだ」


「リュート様は自分で入れて下さいね?」


「何で俺だけ!」


「レディファーストです」


 良かった…リュートの生い立ちを聞いてから、冷たいだけの世界だと思い込んでいたが、暖かく見守ってくれていた人達も、日溜まりの様な空間もリュートがリュートらしく居られる世界がちゃんの有ったのだと桜は安堵した。





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