リュートとリュート
「……リュート?…あの、大丈夫?…えっと、私もう自分の部屋に戻るね?」
どうしてこんなにも憔悴しているのかは解らないが、そっとして置いた方が良いのだろうか?
リュートの部屋は二間続きになっていて、手前は居住スペース。
広々とした空間で、ソファーとテーブルに、窓際には仕事をするためのデスクがある。
その他は殺風景と言う、勿体ない空間だった。
奥は寝室だろう事は私にも解った。
一つ一つは高価な物何だと思うけど、生活感がまるで無かった。
ここで暮らすんじゃ寂しいな、そう感じる。
私が話しかけてもリュートは無言だった。
仕方なく、もう一度声を掛けてから帰ろうとすると、
「いかないで………桜に話が有るんだ」
と言ってくるから、私は自分の部屋にも帰れずにいた。
「話ってなに?…」
なかなか話そうとしないリュートが真剣な顔をしてるから、そこから急かす事も出来ずにいた。
待っていると意を決した顔をしたリュートが桜を見詰める。
「桜、桜の世界に行った幼いリュートは俺なんだ…」
この男は何を突拍子もない事を言っているのだろうか?
「え………?それってリュート君の事?」
与えられた情報を私なりに考えても、リュート君を指して言っているのは間違いなさそうだ。
それにしても図々しい。
あの天使のような子と同一人物だと言うのか?
まあ、顔だけ見れば大人になって、育ち方によって細マッチョになれば、こんな風になるんだろうなあとは思うけど。
でも私はあのまま、天使なままで中性的に成長してくれる事を望んでいたのだ。
「そう…」
…今、認めたよね?
「嘘…だって、全然違うよ?」
此方は成人男性で、あのリュート君は小学生位だったもの。
全然違う。
「どうしてそうなったのかは追々話すけど、俺の魔力は弱くて……大人の姿を維持していられ無かった。大人の姿は魔力をたくさん消費するから。だから、魔力の消費が少ない子供の姿で温存していた」
「…ちょっと、よく解んない……」
勿論、言葉の意味は解るけど、頭が理解を拒絶する。
今まで一緒に生活していた事が走馬灯の様に浮かんでくる。
「…だって、お風呂だって一緒に入ったし、一緒の布団で眠ったりもしたの。……私の悩みだって聞いてくれて?…え?…嘘」
私………子供だと思ってたから。
「ごめん………嘘じゃない」
「だって、じゃあどうして今は大人なの?」
感情が追い付いてない。
信じたくない。
兄弟だと思ってた。
「桜は俺にとって、運命の番なんだ。……桜が側にいてくれるとずっとじゃないけど、元の姿に戻れる。……でも多分、効力がそろそろ切れる頃だから…」
「効力?」
リュートの言葉が早いか、同時か?位に、次第にリュートが縮んでいくのが解った。
私がよく知っている、リュートの姿に………。
「リュート……君?」
目の前には、見慣れた可愛い天使がたっていた。
「信じて…くれた?」
目の前で見せられては信じない訳に行かない。
元々、大人なのリュートはチャラい様で、消して嘘を付くような軽薄な人間で無いことはわかっていたけど、信じたくなかったのに。
「どうやって大人になって、……どうやって子供に戻ったの?」
こうなったら理由を聞きたい。
「桜が口から魔力を与えてくれると大人に戻れるんだ」
先程、効力が切れるとか何とか言っていた気がするけど、それを考えるだけの頭の余裕が無かった。
「じゃあ、何で子供に戻ってしまったの?」
「二通りあって、一つ目は桜がくれた魔力の効果が切れれば子供に戻る。この戻る時間はどれだけ魔力を貰ったか?によっても変わるから一概に何時とは言えないんだ。……もう一つは、もう一度桜に口づけをして、今度は貰った魔力を戻せば、また子供に戻るんだ」
「此方に着てすぐ………リュート君は、大人の姿だったよね。……それって?」
「桜が………考えている通りだよ」
「嘘…だって、私ファーストキスだったのに」
覚えていないから、ノーカンだ。とは行かないだろう。
この年まで大事に取っておいたのに。(貰ってくれる相手なんていなかったけれど…)
まさか、知らないうちに終わっていた何て、そんな事あるか?
「じゃあ、次に目覚めたときリュート君だったのは?」
「ごめん………」
セカンドキスまで、知らないうちに終わっていたと言うの?
「その後、大人の姿に戻れたのも?」
リュート君は答える代わりに頷いて見せた。
「何で、初めから教えてくれなかったの?」
いや、きっと僕は大人です。何て、言われたとしても信じなかっただろうけど。
だから、解らなくは無いけど。
でも、怒る権利は有るんじゃ無かろうか!?
「プロポーズして、その場で言うつもりだったけど、桜は子供の言うことだと信じてくれなくて。……此方の世界に戻る為の時間ももう無かったから、帰ってきたら伝えようとしたけど……」
私が、目覚めて直ぐに勘違いしてしまったから?
何なの!?…ひっぱたきたいのにこの姿じゃ殴る事も出来ない。
そう思った私は、考えるより先にリュート君の顔を両手で掴むとその勢いのままキスをした。